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文舵、練習問題③〈長短どちらも〉問2

問2:半~一ページの語りを、七〇〇文字に達するまで一文で執筆すること。

 高校のころまでは姉のことを語ろうとすると、どうしてもまず彼女が知的障がい者であること、そのために僕が受けた小学校でのいじめや父と母が歩んできた苦難の道のりを話すようなモードになりがちだったし、苦労が多かったのも事実にはちがいないのだけれど、いま思い返すと生き生きとした姉の姿、たとえば僕に殴りかかってくる時の必死の形相とか、父からお菓子を止められた時に父の薄くなった白髪をむしろうとする時に目を輝かせている様子とか、そういう元気な姉の姿が浮かんでくるわけで、それはやっぱり時間が経って、さらには離れて暮らすようになって、落ち着いて過去を振り返ることができるようになったことによる影響なのだと思うし、もしそれが昔を客観視できるようになったということを意味するならば、いつか姉のことを小説に書いてしまうようなこともあるのかもしれないと思っていて、なんとなく不安というか、いや、書いちゃいけない理由はないと思っているんだが、書いたとしても例のやまゆり園の事件とか小山田圭吾の件に影響された小説だと思われたくなくて、だけど、まあ、僕もやまゆり園や小山田圭吾のことでは随分強い言葉をつかって非難するツイートをしたし、そうしたのはやっぱり、自分の生い立ちが影響しているのは間違いなく、だから、僕が姉のことを書いた場合、そういう自分の過去の怨念というかネガティブな思考が小説に全く出てこないなんてことはないだろうし、影響が顕著に現れれば、読んだ人は当然やまゆり園や小山田圭吾に言及するんだろうけれど、それでも弱弱しい、常に虐げられる側としての、そういうステレオタイプの障がい者像がぴったり当てはまるような、世間のイメージを助長するような障がい者が出てくる小説は書きたくなくて、ふんぞり返って世界は自分のものって面をしている、伸び伸びとした障がい者が登場する小説を書きたいなあと思ったりしている。

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