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蛇足について

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不必要なものとされる蛇足という行為の利点について書いています。 数年前の講演会で話したことや90年代からずっと言い続けてきたことが元になってます。
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記事一覧

蛇足について11『時間の蛇足②』

未来へ時間をずらすための蛇足のひとつとして

(5時間後)

というのがある。

メロスは激怒した(5時間後)

文字通り5時間後にメロスが激怒したことになるわけだが、なぜ5時間経ってから怒ったのかが気になるところだ。5時間経って突然思い出したのか、人に話しているうちに怒りが込み上げてきたのか、バカにされていたことに5時間経ってやっと気づいたのか、悪戯で背中に「僕はバカです」などの貼り紙をされてい

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蛇足について10『時間の蛇足』

メロスはいつ激怒したのか?
蛇足がその時間を特定、あるいは変えることが可能である。
蛇足によってタイムトラベルできるというわけだ。

今日メロスは激怒した
昨日メロスは激怒した

「今日」を蛇足すれば文字通り今日激怒したことになる。また「昨日」と蛇足すれば昨日激怒したことになり、過去の出来事となる。
このように現在と過去はすぐに時間をずらすことができるのだが、未来となると少々難しい。

明日メロス

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蛇足について09『別物の蛇足』

続いては『別物の蛇足』だ。
蛇足は対象を別のものに変えてしまうこともできる。
そこで今度はメロスを別人にしてみよう。

別人にするのは難しいことではなく、たとえば「ではない人」「以外の人」等の単語を加えればすぐに出来上がる。

メロスではない人は激怒した
メロス以外の人は激怒した

たしかにどちらもメロスではない別人だ。
しかしこれではどこか味気なく、無機質であり、蛇足の醍醐味である無駄も感じない

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蛇足について08『懐古の蛇足』

さらに輪郭を鮮明にしてみよう。
今度はメロスをより身近な存在にしてみるのだ。

①同じクラスのメロスは激怒した
②二個上のメロスは激怒した
③思春期のメロスは激怒した
④転校生のメロスは激怒した
⑤キャプテンのメロスは激怒した

これらからまた様々なドラマが想像できる。

①は同級生のメロスである。きっと文化祭の出し物を何にするかを話し合っている時にクラスのみんながおしゃべりばかりして集中しないか

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蛇足について07『輪郭の蛇足②』

今度は世代以外の蛇足をしてみよう。

①普段は温厚なメロスは激怒した
②正義感が強すぎるメロスは激怒した
③メロス(仕掛け人)は激怒した
④メロス(以下「甲」という)は激怒した
⑤メロス(2014年R-1準決勝、2015年R-1二回戦)は激怒した
⑥甘やかされて育てられたメロスは激怒した

またしても様々なメロスが見えてきた。

①は温厚なメロスからは想像できない事態であり、「あのメロスが激怒する

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蛇足について06『輪郭の蛇足』

蛇足は風景を変え、想像を生む。そこから想像を広げると何かが必ず豊かになる。

そんな蛇足もいくつかの種類に分けられる。
まずは『輪郭の蛇足』である。
文字通り輪郭を作り、対象物をより鮮明にする蛇足である。

メロスは激怒した

この一文からメロスがどんな人物なのか推し量ることは難しい。激怒した事実しかわからない。
もちろん物語を読み進めていけばわかる。
「正義感がある」
「勇敢」
「妹思い」
「単

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蛇足について05『(小林製薬)について』

先ほど(小林製薬)と付けたところ『メロスは激怒した』なる薬の名前になった。イライラを鎮める安定剤的な薬だろうと思われる。あるいは、超強力な殺虫剤とも考えられる。
ところでこの(小林製薬)という蛇足はどんなものも薬に変えてしまう力を持っている。
たとえばとにかく明るい安村氏のギャグ「安心して下さい穿いてますよ」。これに(小林製薬)を付けてみる。

安心して下さい穿いてますよ(小林製薬)

見事なまで

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蛇足について04『他の括弧による蛇足』

まずはお馴染みの括弧から。(嘘)と(本当)だ。

①メロスは激怒した(嘘)
②メロスは激怒した(本当)
 
(嘘)は前文を嘘に変えてしまう。つまり①は嘘となり、メロスは激怒していない、激怒したフリをしている状態となる。
なぜそうする必要があるのか、敵を欺こうとしたのかはたまた単なる悪戯なのか。背景とその後を考えるとまた別のメロス像が生まれるのだ。
一方②は本当である。何度も「メロスは激怒した!」と

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蛇足について03『括弧による蛇足』

発想には無駄が必要である。これらはセットである。
このふたつを兼ね備えているのが蛇足という行為だ。何かを追加することにより様々な風景を生み出し、さらに想像を広げていくことができる蛇足はアイディアを生み出すには最適なツールと言える。
何かを追加すると言えば、これまた高校生の頃の話になるのだが雑誌でバンドのインタビューを読んでいた時、発言の最後に

(一同笑い)

と付けられていることがあった。文字ど

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蛇足について02『蛇足との出会い』

私が何かを付け足すことの魅力に出会ったのは高校生の時である。
別のクラスの友人に国語便覧を貸した時のことだ。何事もなく休み時間に返してもらい自分の国語の授業時に開いてみると何やら文字が書いてあった。川端康成の『雪国』の書き出しである「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」の雪国の部分が消されてその横に『おもちゃのバンバン』と書いてあったのだ。

国境の長いトンネルを抜けるとおもちゃのバンバンで

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蛇足ついて01

中国の故事に「蛇足」というものがある。
「誰が蛇の絵を早く描けるか」勝負が行われ、真っ先に描き上げた者がついつい本来蛇には無い足まで描いてしまったために負けてしまう。そこから付け加える必要のないもの、あるいは無用の長物を「蛇足」と呼ぶようになったのである。
しかし私はこの「蛇足」が無駄なものだと思わない。そもそも早く描いた者が勝ちであるなら、足を描こうが手を描こうが帽子を被せようがセリフを付けよう

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