蛇足について06『輪郭の蛇足』

蛇足は風景を変え、想像を生む。そこから想像を広げると何かが必ず豊かになる。

そんな蛇足もいくつかの種類に分けられる。
まずは『輪郭の蛇足』である。
文字通り輪郭を作り、対象物をより鮮明にする蛇足である。

メロスは激怒した

この一文からメロスがどんな人物なのか推し量ることは難しい。激怒した事実しかわからない。
もちろん物語を読み進めていけばわかる。
「正義感がある」
「勇敢」
「妹思い」
「単純」
ざっとこんな感じだ。
しかし蛇足とは不要な行為であるから、作品には描かれていないメロスの側面を加えてみる。考えなくて良いことを考える瞬間である。
まずは世代を蛇足してみよう。

①メロス(10代男性)は激怒した
②メロス(20代男性)は激怒した
③メロス(30代男性)は激怒した
④メロス(40代男性)は激怒した
⑤メロス(50代男性)は激怒した
⑥メロス(60代男性)は激怒した

①の蛇足で誕生したメロスは若さを感じさせてくれる。親に、先生に、学校に、社会に対して激怒しているメロスだ。セリヌンティウスのために盗んだバイクで走るメロスである。

②の蛇足によるメロスは、物語の本来の設定に近いのではないか。まだやりたいことが見つからず、自分探しをしているメロスが想像される。

③のメロスは②より落ち着きがでてきたメロスだと考えられる。走りにも脂が乗っていそうだ。

④のメロスは、そろそろ走るのが辛くなってくる頃だ。無理がきかなくなっていて、寝ても疲れが取れなくなってきているはずだ。「完走できる体力があるのかな?」「完走したとしても間に合わないのでなないか」なんてことも考える。

⑤になるともっと走れなくなっている。毎日ジョギングしているならまだしも、なにもしていなのなら無理に走るとどこかを必ず痛める。暴君ディオニス王はその辺りを考慮してあげるべきだろう。

⑥のメロスになると暴君ディオニス王は止めなければいけない。猶予を3日から1ヶ月くらいに延ばしてあげる配慮が必要だ。また、走りから離れて激怒の部分から想像すると、たまに街でひとりで激怒している年配男性を見かけることがあるがそれに近いメロスも考えられる。

⑦メロス(70代男性)は激怒した
⑧メロス(80代男性)は激怒した
⑨メロス(90代男性)は激怒した
⑩メロス(長寿世界一)は激怒した

こうなると暴君ディオニス王はメロスの代わりに走らないといけない。いくら暴君といえども、老人を走らせるわけにはいかない。

つづく

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