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なぜ「資本論」への関心が高まっているのか?

 先日NHKが、「資本論」への関心が高まっているという記事を書きました。

    実際に、斎藤幸平氏の「人新世の「資本論」」は30万部売れています。
 
 しかし、「資本論」に注目が集まる一方、著書のマルクスがエンゲルスとともに共産主義者が目標を達成するにあたり暴力革命が必要であると訴えた「共産党宣言」や、マルクスが晩年にプロレタリア独裁の必要性を説いた「ゴータ綱領批判」についての関心は高まっていないよう印象を受けます。(詳細は下のリンク)

    今回は、なぜ多くの人が「資本論」に関心を抱いたのか、分析してみたいと思います。

ソ連が崩壊し、共産主義の実態を知らない者が増えた

 ソ連では、末期に最後の書記長ゴルバチョフ氏のペレストロイカやグラスノスチを通じてソ連の「黒歴史」が発掘されるようになりました。そして、今からちょうど30年前にソ連が崩壊しました。当時の人々は、ソ連という国や共産主義のイデオロギーの恐ろしさや限界に気づきます。
 
 ところが、30年経った現在では、ソ連は過去の出来事になってしまいました。また、同じく共産主義国である中国は、イデオロギーによる思想・宗教・民族弾圧といった問題を抱えながら(以下の記事参考)も、表向きには経済成長と技術革新によりあたかも成功しているかのように見えます。ソ連が崩壊していく様子を目の当たりにしなかった一方、中国の「成功」を「実感」する世代が増え、共産主義に抵抗がない人や、その主義・主張が分からない人が増加したのでしょう。




 また、特に近年の日本においては「就職氷河期」や「リーマンショック」、新型コロナウイルスによる経済停滞と景気が悪い時代が重なり、貧しい時代を経験しています。そんな中、「人間は皆平等だ」「資本主義経済こそがいけないんだ」と主張する考えがあったら…夢のような話だと惹きつけられてしまうのでしょう。

 加えて、日本では共産主義や共産党に対する規制がヨーロッパ程厳しくありません。(以下参考)

*私自身は、共産党自体を禁止することについては慎重な立場です。

 また、20世紀末の某宗教団体によるテロ事件などの影響で、宗教には気をつけないといけないけど、宗教でなければ大丈夫、という安心感もあるかもしれません。(以下参考)

 日本では共産党は合法ですが、暴力革命の可能性を排除していないとして公安調査庁が調査対象としていますし(下のリンク参考)、その他極左暴力団体についても調査されています。

欧米先進国一辺倒な国際関係界隈

 海外経験が長い日本人が「日本では○○なのに、海外では○○だから進んでる」と言う言い方をするという光景は、twitterでもしばしば見かけます。しかし、そのような言い方をする人たちが想像する「海外」とは、ほとんどの場合アメリカやイギリスなどの英語圏やフランスやドイツといった西欧、北欧などの冷戦時に主に西側諸国だった欧米先進国を指します。私が滞在していた東欧についての言及は、比較的少ないです。

 第二次世界大戦に関する言及一つをとっても同じことが言えます。これは私の印象ですが、欧米先進国に滞在していた人中心に日本の教育機関や外国語及び国際関係界(外国語学部、国際関係の学部・学科など)では「ナチスが悪かった、ドイツが悪かった」という言葉が繰り返されているように思います。一方で、ヨーロッパでドイツと主に戦ったソ連がナチスのことを笑えないようなことをしていたとか、ドイツがいなくなった後にソ連に占領され、なかなか自由が効かなかった、共産主義体制下かつソ連の衛星国となり苦労していたなど、東欧における視点が圧倒的に少ないです。このような背景があるため、「ファシズムに反対していれば問題ない」と考える人も少なくないのでしょう。人権問題について関心が高いはずのリベラルな人々が、プロレタリアによる独裁を認めるような人権を抑圧しかねない共産主義系の運動に同調することも少なくありません。(下のリンク参考)

 実際に、ソ連が「ファシズムとの闘い」を掲げてドイツと戦っていますし、ソ連及び現代ロシアも「ソ連はファシズムからの解放者」という認識を持っています。(下のリンク参考)

 このようなことが起きるのは、日本の日本の教育界、外国語及び国際関係界において、「海外」といえば暗に「欧米」(それも先進国)のことを指すほど学問の対象が限定的であるということが挙げられるでしょう。結果として、「欧米」にも様々な国が存在するという視点が忘れられ、その過程で共産主義圏となって歩んだ東欧の旧東側諸国の歴史が無視されてきたのでしょう。

まとめ


 共産主義圏の歴史に触れずに「ナチスが悪かった」「ドイツが悪かった」と繰り返すだけでは自由で民主主義的な制度を維持することはできません。一見まともそうなことを主張している思想や主義・主張についてもきちんと調べる必要があると思います。

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