おぼえる気のない花の名前
2023.2.20
気づいたら朝で、気づいたら昼で、気づいたら夕暮れで、気づいたら夜。こういう毎日をあと何回繰り返すんだろう。何万回、何白万回、なんでもないような日々を繰り返して、そのなかにある幸せをいくつも数えるんだろう。そして時間がたてばなにもかも忘れるから、やけに新鮮な気持ちにもなって、過去か未来かわからないような時間をただ生きるんだろう。
今日はおかずを三品も作った。大根の千切りと春菊を塩とすりごまで和えたものがこんなに美味しいとは。鰯の梅生姜煮はパートナー用。私はどうしても煮物が食べたくてれんこん、人参、ごぼうに、大山の参道で買ったりっぱな大山こんにゃくを入れ、茅乃舎の出汁と醤油、みりんでじっくり土鍋で煮込んだ。これが、もうめちゃくちゃに美味しかった。れんこんはびっくりするほど甘いわ人参はとろけるわ、ごぼうも信じられないくらい甘いわ、こんにゃくはこれでもかと味が沁みてるわで、幸せだった。
2022.2.22
仕事をし、母の中華ちまきをお昼に食べ、鎌倉駅まで歩く。紀伊國屋の園芸コーナーで小さなスミレを、近くの花屋さんでほとんど黒に近いパンジーのような可愛い鉢植えを買う。花の名前はできれば覚えておきたいと思うけど、決まってすぐに忘れてしまう。
五年ぶりくらいに再会する知人Yさんとそのお友達と、行きつけというにはまだ早い、けれどもそのうち胸を張ってそういえたらいいなと思っているお気に入りの日本茶屋さんで待ち合わせ。久しぶりとは思えないほどすぐにわかったし、私よりたぶんだいぶ先輩だけれど屈託なく接してくれるのがうれしい。
お友達は去年鎌倉へ越してきたというSさん。アルコールを飲まないので知らなかったけど、このお店には「茶クテル」という日本茶を使ったお酒が沢山ある。お酒が大好きなSさんが抹茶ビールを頼んだ。ビールでお抹茶をたてるのだ。それをワイングラスに注ぐ。時間が止まるほどうつくしい深緑色。Yさんは玉露の冷茶。さ、さすが美味しいものを知っている人の頼み方だ。私はいつもの美作番茶をいただく。番茶はいつ飲んでもほっと安心する。どこか上品さもありながら土っぽくてかっこいい旭川の工藤さんの器で出されるのでこれまたうれしい。
Yさんは竹下通りのそばに住んでいるからということで、原宿らしいおみやげをくださった。それは折り曲げられるようにハリガネの入ったカラフルな花のぬいぐるみのようなもので、Yさんは家で元気を出したいときに腕に巻きつけているらしい。Sさんにはピンクのティアラのついたカチューシャ。これもYさんのお気に入りで、素敵な気分になるために誰にも見られないお家限定でつけているとのこと。色違いも持っているそうだ。
老舗とんかつ店でとんかつ弁当の持ち帰りを作ってもらっているあいだ、三人で小町通りを往復。夕方はまだ、真冬のように寒い。今まで目に入っていなかったお香の店、昔ながらの雑貨の店などをのぞく。山安の干物が安くて美味しいからおすすめとSさん。行ってみると海苔が安い。二袋買う。小田原の干物なんかもいくつかあって、たしかに安い。かますの干物を買う。いつのまにかすっかり真っ暗。バスで帰宅。お風呂で井伏鱒二の「荻窪風土記」を読む。近くの阿佐ヶ谷に住んでいたので、土地勘があり懐かしく面白い。
2023.2.23
朝少しだけ仕事。森を散歩。だんだん晴れてくる。ecomoのごはんが食べたいと昨夜ふたりで話していたので、お昼に向かう。なにげなくスピッツをかけたら、初めて聴く「優しいあの子」と「若葉」がいい歌。ecomoのごはんは「商品」っていう感じがなくて「だれかのおうちのごはん」みたいな手作り感とやさしさ、おおらかさがある。たまにすごく食べたくなる。私は前回食べて美味しかったきのことかぼちゃの豆乳クリームパスタ。パートナーはいつも同じ塩麹唐揚げ定食。焼きりんご&さつまいもの野菜たっぷりサラダはシェアした。この焼いたりんごと芋、そして自家製ドレッシングがまた美味しい。
近くの川沿いを散歩。早咲きの桜がちらほら。丘のうえにぽつんとちいさな神社も。えらく風が冷たいので早めに退散。平塚に向かい、今日から公開の「TRIANGLE OF SADNESS」を観る。同じ監督の前作がなんだか面白かったので。今回のもかなり笑えたけど、アジア人の描き方が西欧人ならではの感じなのにはだいぶ辟易した。当事者の自分からすると、これはないと思う。平塚の街をぐるぐる散歩して(今日はよく歩いた)、地元の本屋に寄る。ふと空を見上げると、これい以上ないくらい痩せた月の下に大きく光る見慣れない星が二つ光っていた。あとで、木星と金星だと知る。いつも見えないものがふいに見えるのはどきどきする。そこにあったんだ、あってくれたんだ、と思う。駅前のアジア料理の店でフォーと生春巻き、ソムタム。
歩いているときふと、世界にはいろんな人生があるんだなと思う。あの人もあの人もあの人も、それぞれの「人生」を生きているんだと。そして今という時が、いつか大昔と呼ばれるようになることをそっと思う。そのとき、当たり前に自分はここにはいないということを理解できるようでうまくはできず、たった百年にも満たない一生を生きるためだけに今ここにいること、地球という星にやってきていることを思って、今日も狐につままれたような気持ちになる。胸がはち切れそうになる。なりながら、また歩きつづけていく。
2023.2.24
久しぶりに見た夢をおぼえているので書いてみる。Mr.Childrenのライブに行っている。会場の隅っこで見にくいなあと思い移動していると、急にハワイの丘みたいなところに出る。ライブ会場が遥か遠くに見え、これでもかと日差しが照りつけている。一旦ホテルに帰ろうか、と思うと次の瞬間和室のホテルにいる。そのへんで目が覚める。
朝ごはんの前に軽い筋トレをすることにしたので腹筋と背筋をやっていると、パートナーがぼそっと「へえ、いつまでつづくかね」といじわるに言ってくる。今日も森を散歩、手伝っている仕事に取り組むなど。低気圧の影響もあるのか体がぱんぱんに重く首肩ががちがちになってきたので、お昼は久しぶりに何品か丁寧に作りながらリラックスすることにする。どの野菜も、おととい買った山安のかます干物も炊き立てごはんも、ぜんぶ美味しい。やっぱり料理は生きるのに必要だ。午後も仕事のつづき。しとしと雨のなか、傘を片手に、また散歩にでる。
2023.2.25
昨夜布団に入ってから、東京について書こうと思っている本のアイディアを思いつく。いつもよりちょっと早起きする。近くの原っぱでバドミントン。五分もしないうちにからだじゅう暑くなる。よい気分転換と血流改善になるので、今後もつづけることにする。健康診断の予約と仕事のつづき。お昼は帆立とecomoで買った白菜の間引き菜とかぶであんかけごはん。お米が炊き立てだとそれだけでごちそうになる。炊いている間の匂いからたまらない。
時々くらっとする。うんざりする。後戻りできない人生に。この人生が誰のものでもなく自分のものだということに。暗くなりかけて散歩にでる。スーパーで干し柿を買い、歩きながらぱくぱく食べる。ふとのぞいた背の高いガードミラーが不気味なほど真っ暗で、鏡なのになにも写していなかった。
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