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何かを探しているときに偶然出会う、探しものとは別の価値があるもの

平成最後の夏といわれるこの夏は、平成元年生まれのわたしにとって二十代最後の夏でもありました。

待ってましたとばかりに二十歳になったとき、いよいよ始まる二十代はほんとうにまぶしくみえて、楽しみで楽しみで仕方がなかったです。ところが、実際歩き始めてみると不安と焦りと苦悩で満ちあふれていました。十代も比較的そういった時間が多かったわたしですが、二十代のそれはさらに濃さと深さを増していて、ひとりではどうしようもなくなるほど一日一日を生きる重圧になんども心折れ苦しみました。そんな日々など想像もしていませんでした。二十代を謳歌したとはいえず、二十代ならではの苦さをたっぷり味わった十年間でした。

そんな二十代最後の年。二十代のうちにあれもしておきたい、これもしておきたいと欲張りになるかと思いきや、まったくそんなことはなかった。毎日せっせとごはんを作って食べ、「エアスイミング」というすばらしい作品の日本初演の準備にひたすら奔走し、夜は充電が切れたようにばたっと寝る。はんを押したようにその繰り返し。ほんとうに予想外です。

でもこのルーティンが、今目の前ですごく輝いています。全く想像していなかった過ごし方だけれど、想像もしなかったことを今していること、そしてそれがこれ以上の幸せはないという過ごし方であることに、心からのおどろきと、そしてありがたいという気持ちを感じます。

よくもここまで生きてこられたなあ。二十代そこそこでそんなこと言っていると未来のわたしが吹き出しそうですが、笑ってくれたら幸せです。三十年も無事に生きられるなんて想像できなかった。これから始まる三十代、その先を迎えていくことがたのしみで仕方ないです。またきっといくつもの予想外が待っているんだろうけれど、それをたのしむ準備はできています。

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さて、日本初演「エアスイミング」のもう一人のキャストが決定しました。小川祥子さんです。まだオーディションでお会いしただけなので、これから小川さんとどんなふうに芝居をつくっていけるのか楽しみです。沖縄出身の方です。また7月末より準備を進め、9月頭には本企画のクラウドファンディングを開始する予定です。ぜひ、日本初演となるイギリス戯曲「エアスイミング」にご注目いただけたら嬉しいです。

さらに生演奏キャストとして、パーカッションの方の他にヴァイオリンの方も参加いただくことが決まりました。翻訳出版企画のほうも、大学時代の恩師・小川公代先生がお忙しいなか全力を尽くして取り組んでくださっています。出版社の幻戯書房さんにも大変お世話になっています。

本当に本当に素敵な人たちが同じ舟に乗ってくださいました。皆さんとこのすばらしい作品の日本初演に取り組むことのできるチャンスをいただけていることを、この上なく光栄に思います。9月に入れば、公演へのカウントダウンが少しずつ増していきます。より一層丁寧に確実に、大切に慎重に、時に大胆に。歩んでいきたいです。

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どんなにきつかったとしても、登ったことのない山が連なっていて、それを登っていける自由があることは素晴らしい。途中どんなことを経験しても、それはセレンディピティなのだと今のわたしはわかり始めています。まだ学生だったころ、とうてい名づけられないように思えたふしぎな感覚がセレンディピティという名をもつことを教えてくれたのは、「エアスイミング」の翻訳をしてくださっている小川公代先生でした。何かを探しているときに、探しているものとは別の価値があるものに偶然出会うこと。日本語では「徴候的知」ともいうそうです。

もちろんまだ生き切っていないのでわかりませんが、セレンディピティは、人生そのものなんじゃないだろうか?もっと踏み込んでみれば、それは偶然と必然が別々にならない世界。偶然と必然を行ったり来たりしたり、奇跡と奇跡じゃないを行ったり来たりしながら存在する、そんなすばらしいものではないだろうか、と思います。

お読みいただきありがとうございました。 日記やエッセイの内容をまとめて書籍化する予定です。 サポートいただいた金額はそのための費用にさせていただきます。