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大規模オンライン講義の工夫と課題:西春奈先生(岡山商科大学)

岡山商科大学の西先生は、大学の方針により、オンデマンド型とハイブリッド型の講義の両方を経験しました。エッセイにまとめて頂いた各スタイルの授業での工夫は、現場の教員にとって、とても役立つ実践的な内容です。そんな西先生が、デジタル教科書を採用したのは、入国できず紙版教科書を買えない留学生がいたからだそうです。

2020年4月以降のオンライン授業の状況

 教員3年目の2020年4月,ある程度固まってきたと思われた教材や授業方法をオンラインに対応させるべく,大幅に見直すことになりました。2020年度前期以降,私が担当した授業を下記にまとめました。2020年度前期はオンデマンド型の講義を,後期以降はZoomを併用したハイブリッド型の講義を展開しています。これは,「原則対面授業」という所属大学の基本方針と,諸事情から教室で受講できない学生への配慮です。

オンライン授業の実施状況

 今回は,履修者100名以上の大規模講義(マーケティング論Ⅰ・Ⅱ)におけるオンライン授業の工夫と課題についてご紹介します。1コマの流れを以下の手順1から手順4に示しました。

大規模講義(100名以上)のオンライン授業の流れ

■手順0.準備

  •  教材の用意
     オンデマンド用の授業動画
    はPowerPointスライドに音声を入力し,編集後,YouTubeにアップしました。動画は1コマ約30分×2本とし,事後課題30分の計算です。結果的に無駄なスライドを省くことができました。
     一方,ハイブリッド用の教材は,オンデマンド用に作成したPowerPointスライドを中心に,関連事例の紹介やフィードバックを加えて1コマ90分用にしました。(またスライドが増えることに・・。)

  • 教室の用意
     教材の準備と並行して「教室」を用意しました。(当時)LMS未導入の本学では学生と教員,学生同士がやりとりする機会を十分に確保できません。そこで,Google Classroomを採用することにしました。成績評価を除く,講義資料や課題フォームの共有,質問対応をクラスのページで行っています。学生が操作に慣れるまでの間,根気強く問い合わせに対応しなければなりませんが,最終的には「課題提出期限の通知が便利」,「アプリが使いやすかった」等の声がありました。(高校でもLMSの導入が進んでいるので,22年度以降の入学生は問題なく操作できると予想しています。)

  •  教科書の用意
     入国できない留学生が多数いるため,デジタル教科書を採用しました。
    大学生協がない本学は丸善雄松堂に依頼し,ActLearn(現 EDX UniText)のアカウントを発行してもらいました。冊子の教科書入手が困難な学生を中心に,デジタル教科書の利用が始まりました(2020年4月の碩学舎デジタル教科書無料閲覧の申込は85件でした)。しかし,デジタル教科書の普及率は低く,冊子版を選ぶ,フリマで入手する,先輩からもらう,そもそも購入しない学生が大多数です。

■手順1.事前学修

 事前学修で学生に求めることは以下の3つです。

  •  教科書の該当箇所および毎回の配布資料(PDF)を事前に読み,内容を整理する。

  • 配布資料内💡マークのついた問いについて考え,要点を抑える。

  • テレビCMや企業のSNS発信情報,コンビニの新商品等に注目する。

 配布資料には,各回のキー概念と定義,自主学習を促す問い(💡),参考文献等を載せています。

■手順2.講義

 続いて,授業の受け方はオンデマンドとハイブリッドで多少異なります。

<オンデマンドの場合>

  •  授業動画を視聴し,要点をノートにまとめる。

  • ミニクイズについて考える。

  •  各回の授業目標や理解度チェック項目に基づいて学修状況を確認する。

<ハイブリッドの場合>

  •  教室またはZoomで授業に参加し,要点をノートにまとめる。

  • 「考えてみよう」に参加する。(Zoom参加者はチャット,投票機能を使う。教室では隣同士や教員・TAと議論を深める。)

  •  各回の授業目標や理解度チェック項目に基づいて学修状況を確認する。

■手順3.事後課題

 まず,課題提出のルールは以下の3つです。

  •  剽窃禁止。酷似する回答はすべて0点。

  • 次回の講義前日までに提出する。

  • 期日までは何度でも編集可能。(自動スコア通知はしない。)

 Google Formsで最大15回分の事後課題を作りました。出題内容は,授業全体の理解度を問うものとクイズ(身近な経営事象のなぜ?を考える問題)を中心に,たまに発展的な問い(おまけ)を取り入れています。
 1問1~2点,1回あたり6~12点の配点です。出題形式は,選択と記述を半々にしました。記述形式が苦手な学生からは「書き方がわからない」,「答えがわからないのでやめてほしい」等の意見が出ます。そこで,①回答の手がかりを示す(Google Formsの「説明」箇所にヒントや評価基準を入れます),②模範解答を示すことを心掛けました。一方,選択形式では,「○○について述べた文章のうち誤っているものを1つ選ぶ」等の問いが中心です。
 学生はかなりの問題数をこなすことになりますが,「毎回の課題で復習できたのが良かった」そうです。なお,成績評価には事後課題の得点を合計したものをそのまま使います。

事後課題の例

■手順4.事後学修

 最後に,事後学修では次の2つを求めています。

  • 課題のフィードバック資料に目を通し,授業内容の理解を確認する。

  • 身近な事例と合わせて授業内容を確認する。

 フィードバック資料(Excelにまとめたもの)には模範解答や解説,評価のポイントを入れています。解説では授業内容や最新の経営事象との関連付けを意識しました。また,受講生の回答(記述形式のみ)を匿名で紹介しています。学生からは「他の受講生の意見から気づきがあってよかった」とポジティブな感想がありました。

 以上が大規模講義のオンライン授業の流れです。これを踏まえて,大規模講義の工夫と課題をそれぞれまとめました。

大規模講義(オンデマンド)の工夫と課題
大規模講義(ハイブリッド)の工夫と課題

 2021年度は碩学舎デジタル教育研究会でヒントをもらい,事後課題フォームに「最近気になったマーケティング事象や質問(任意回答・成績評価に関係なし)」欄を設けました。集まったお便りはすべて,次の授業冒頭で掘り下げるようにしています。面白い事例や気づきがもたらされ,私も勉強になることがたくさんあります。

大規模講義におけるインタラクション設計とデジタル教科書の可能性

 いかに教員と学生,学生同士の対話(雑談から議論まで)を生み出し授業に巻き込むかが,私のオンライン授業の課題です。新年度もハイブリッド授業が続きます。手探りですが,(教員も含めて)参加者のインタラクションを引き出す仕掛けをいくつか用意できればと考えています。その仕掛けの一つとして,デジタル教科書と新しくなったアプリケーション(EDX UniText)に期待しています。例えば事前学修で,教科書該当箇所を読んで面白いと感じた点・疑問点にマーカーを引き,その理由や関連する事象を付箋に書き込んでもらい,授業中にディスカッションをする等の使い方を検討しています。

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