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デジタル教科書を活用したアクティブラーニング授業の展開:柳到亨先生(和歌山大学)

デジタル教科書を活用したアクティブラーニングの実施例を柳先生に紹介してもらいました。90分の授業が体系的に構成されており、グループワークを通じて学生が主体的な学ぶ好循環を実現しています。

授業の概要

 私が担当している科目は、商品企画論です。採用した教科書は「1からの商品企画」で、生協システムを活用した授業をしました。受講生は主に2回生・3回生を中心とした150名程度で、月曜日1時限90分授業です。後期(10月―2月)の15回授業を行いました。
 皆さんが周知されているように、アクティブラーニングとは、教員による一方的な講義形式とは異なり、受講者の主体的かつ能動的な学習への参加を取り入れた学習方法であります。本稿ではデジタル教科書を活用し、アクティブラーニング授業をどのように進めたのか、またはどのような教育効果を得られたのかについて簡略に述べます。

授業の進め方

 アクティブラーニングの実施する上では、とりわけ、初回の授業運用が肝心です。まず、授業の概要・目的について一通り説明します。次に、受講者の主体的な学びを促すため、アクティブラーニング授業の教育方法に関する効果や目的を共有します。さらに、生協の担当者が来校(または、動画配信)し、デジタル教科書の利用方法や、購入方法を説明します。最後に、一緒に学ぶグループメンバーを決め、自己紹介及び役割分担を行います。
 2回目以降の授業の進め方について説明します。この授業の特徴は、①「1からシリーズ」のコンテンツを充実に活用すること、②事前学習(デジタル教科書)を実施すること、③講義はほとんど行わずに、グループワーク中心であることです。

授業概要の説明(10分)

 まず、授業の冒頭では授業概要を説明します(10分)。授業概要の説明を通して、学習内容及び目的を共有することで主体的学びを促します。

「考えてみよう」グループワークの発表(10分)

 次に、前回の授業の振り返りを行うため、前回の授業で行ったグループ課題(「考えてみよう」)に関する発表(事前に教員が優秀な課題を選抜)を行ってもらいます(10分)。受講生は1週間過ぎると忘れがちですので、反復学習を大事にしています。なお、他のグループの優れた情報収集や課題分析を傾聴することで、復習効果が得られます。

学生のグループワークによる講義(20分)と相互学習(20分)

 続いて、講義については教員がほとんど行わず、学生のグループワークによる講義が行われます(20分)。その後、他のグループは発表内容についてメンバー間の相互学習を行い、グループ内でわからなかった点は全体共有し、教員に質疑し、わからなかった部分を補填することができます(20分)。

個人予習課題へのフィードバック(10分)

 さらに、個人予習課題へのフィードバックを行います(10分)。これは、事前に教員が選別した優れている個人予習課題を、授業全体で共有することです。個々の受講生が講義で扱う章を予習し、事前知識を持つことで、グループワークにより積極的に参加してもらえる効果が得られます。具体的には、章のなかで最も重要なキーワードを選択し、関連する具体的企業事例などをまとめてもらいます。この予習を効果的に実行するためには、一つ目に、教員によるコメントやマークをデジタル教科書に記入しておくこと、二つ目に、成績評価に学習履歴を反映することが大事です。

「考えてみよう」グループワーク(20分)

 最後に、学んだ理論を事例分析するグループワークを実施します(20分)。主に「1からのシリーズ」の章末に提示されている「考えてみよう」の中から、1つないし2つの課題に取り組むことになります。学んだ理論を用いて実践的応用力を高める狙いです。グループ共同学習で議論を重ね、所定の様式に記入して提出してもらいます。内容が良いグループワーク成果は、教員が選別し、次の授業に発表してもらいます。
 以上の授業の流れと、グループワークの様式(記入例)は以下の通りです。

授業の構成例
グループワークで行った課題の提出例

学生の感想と学習効果

 毎年、受講生の意見を授業改善に参考にするようにしています。この2年間、デジタル教科書を採用し、最終講義の際に、授業アンケートを取っています。その内容の概略を紹介します。
 まず、授業全体の感想については、「主体的学びができた」など、事前学習やグループワークの参加に肯定的な効果を得たという意見が多数見られました。

率直に、商品企画論を履修して良かったし、もう終わってしまったのが少し寂しいなと思いました。 この授業では、毎回グループワークがあったので、コミュニケーション力や思考力の向上につなげられたと思います。そして、先生の話を聴くだけの講義ではなく、生徒がメインとなって授業を進めるという構成だったので、毎回の講義を新鮮な気持ちで受けることができました。また、グループが固定だったので、授業を通してグループのメンバーと仲良くなれたことも嬉しかったです。 良い意味で、柳先生が生徒の近くにいてくれていたので、変に緊張などせずに楽しく受けることができました。

自分が購入していた商品がどのようにして企画されているのかについて学ぶことができ、とてもよかったです。また、商品を企画する方法、販売する方法、注意点などについて学ぶことができ、もし自分が今後の人生で商品を企画・販売するときに必ず役に立つだろうと思いました。そして、毎回、課題として具体的事例を考えることにより、理解がより深まったと思います。また、予習した内容をプレゼンテーションという形で発表することでどのようにすれば聴衆に興味を持って聞いてもらうことができるのかということについて考えるきっかけになりました。

授業開始当初は、毎週の課題にグループワークまたプレゼンテーションなど慣れない部分も多く、少し大変でしたが全ての講義が終わった今では、事前に課題に取り組む力や、グループワークを通して他者とのコミュニケーションから自分の意見を伝える能力、大勢の前でプレゼンに挑む緊張感など半年間で多くのことを学ぶことができました。単純に「商品企画」に関する知識だけではなく、アウトプットの作業を通してより深く知ることができました。今年度は対面、オンライン双方の方法での講義スタイルとなりましたが、感染症の拡大状況に合わせて迅速な対応がとられたおかげで、非常に安心して受講することができました。

 次に、デジタル教科書に関しては、「紙媒体の方が慣れている」、または、「使用期限がある」などといった不満もありましたが、多くの受講生が事前学習にデジタル教科書の機能(マーカーやコメントの共有)を主体的学びに活用していました。そして、携帯性が高く、どこでも閲覧できて便利だったことを多くの受講生が挙げていました。

電子教科書の使用に関しては、紙媒体とは違い自分の気になるところにすぐコメントをつけることができるという点が良いと思った。また、先生がマーカーを引いた重要である点を共有することができたため、より教科書を理解することができた。加えて、電子媒体であるため、持ち運びが簡単であり、自分が教科書を見たいと思った際にいつでも見れるという点がとても良いと思った。

使用感はとても良く不満は全くなかった。

電子書籍は紙の書籍とは違い、普段持ち歩いているスマホからも閲覧することができるため、重い持ち運びがなく、非常に便利であると感じた。

基本的に使いやすいし、場所取らないのはよかったですが、電子教科書に使用期限があるのは少しい理解しにくいです(笑)

アクティブラーニング授業にはデジタル教科書がおすすめ

 以上、デジタル教科書を用いたアクティブラーニング教育手法や学習効果を紹介しました。受講者のなかには、慣れるまで時間がかかる、使いにくい、という声があったり、アプリの不具合などの問題点があるものの、デジタル教科書の導入のメリットは大きいと思っています。受講生の教科書購入率が劇的に増え、予習した上で授業に参加することになり、主体的かつ能動的な学習につながることは確実です。


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