続・時代劇レヴュー①:四十七人の刺客(1994年)、元禄繚乱(1999年)他

・はじめに

マガジン「時代劇レヴュー」の記事が、当初の見込みを超えてかなりの数になってしまったので、新たにマガジンを作りました。

以降、通し番号をリセットして書いていきますが、基本的に「時代劇レヴュー」の続きで、51番目の作品から順次書いていくと考えてください。


タイトル:①四十七人の刺客 ②元禄繚乱

放送(上映)時期:①1994年10月 ②1999年1月~12月(全49回)

放送局など:①東宝 ②NHK

主演(役名):①高倉健(大石内蔵助)

       ②五代目中村勘九郎(十八代目中村勘三郎)

原作:①舟橋聖一 ②池宮彰一郎

脚本:①中島丈博 

   ②池上金男(池宮彰一郎の脚本家名義)、竹山洋、市川崑


元禄赤穂事件を題材にした所謂「忠臣蔵」の映像作品は、戦前から現在に至るまでかなり多くの作品があるが、多くの作品があるゆえに、中にはオーソドックスな「仇討ち」の解釈から外れたちょっと変わった作品もある。

今回はそうした「変わった」作品をいくつか取り上げてみたいが、表題に掲げた二作品を含む計四作品を順番に紹介していく。

まず①「四十七人の刺客」であるが、本作では松の廊下事件の経緯は終始不明とさており、そのことが浪士達が討入りを行う上での「鍵」になっている。

原因が不明なのに自らの保身のために即日切腹と赤穂藩の取り潰しを決めた柳沢吉保と、裁決に口添えをした上杉家の江戸家老・色部又四郎に対する、言わば赤穂側の怒りの逆襲が「討入り」であり、そこでは仇討ちではなく幕府への復讐と言う側面が強調されており、ために浪士達は「義士」ではなく「刺客」と解釈されている。

大石の討入り計画を阻むべく死力を尽くす色部又四郎と、基本的には色部を支援しつつ利用価値がなくなればドライに斬り捨てる柳沢吉保の描き方が面白く、色部役の中井貴一と柳沢役の石坂浩二が作中では特に存在感を放っている。

このように浪士側にとっての敵は上杉家、あるいは幕府であるため、本作では討入られる当の吉良の存在は、可哀想な老人と言う印象が強く、吉良役の西村晃は、本作の直前に放送されたTBSの「大忠臣蔵」(「時代劇レヴュー㊾」参照)では実に憎々しい吉良を演じているのであるが、それとは真逆の吉良を見事に演じている。

本編の構成のせいもあって全体的にスリリングな展開で最後まで面白く見られるのであるが、吉良邸に城郭のような大規模な改造が施される設定で、討入りシーンがやや過剰な描き方になっている点は好みが分かれる所であろうか。


②の「元禄繚乱」は、NHKの所謂「大河ドラマ」の第三十八作で、「忠臣蔵」を題材にした大河ドラマとしては四作目で、2020年4月現在最も新しい作品である。

タイトルが示すように、五代将軍綱吉の治世である「元禄時代」を描き、その中に赤穂事件を落とし込むことにウェイトが置かれている感があり、そのためか松の廊下事件までの物語が全体の四分の一ほどを占め、前半は綱吉とその周辺についての描写も多い。

萩原健一演じるモノマニアックな綱吉もかなりインパクトを放っていて、前半は綱吉が主人公の印象すらあった。

後半はやや綱吉の登場シーンは減るが、代わって存在感を放つのが村上弘明演じる野心家の柳沢吉保で、本作独自の設定として注目されるのは、柳沢が赤穂浪士の討入りを促し、それに上杉家と広島浅野本家を巻き込んで双方の取り潰しを図ると言うものである(実際にはあり得ないと思うが、物語の設定としては面白い)。

討入りの裏で柳沢が暗躍する設定の「忠臣蔵」は過去にもあったが(例えば、森村誠一原作、テレビ東京で1989年に放送された「大忠臣蔵」は柳沢が討入りのどさくさで上杉家を取り潰そうとする設定であった)、本作ほど柳沢が主体的に討入りに関わるのは珍しい。

ちなみに、柳沢は事件後に両家を連座させようとするものの、気まぐれな綱吉は浪士達の「仇討ち」に感動してしまい、なおも取り潰しを主張する柳沢に対し、「美濃(=柳沢吉保の官職名の美濃守のこと)、そちも余の心を読めなくなったのう」と綱吉が冷たく言い放つシーンは印象的であった。

主演の中村勘九郎は、飄々とした親しみのある大石を好演していたが、やはり個人的にはこの作品は幕府側の人物の方が強く印象に残った。


表題に掲げた二作品以外の変わり種の忠臣蔵をもう二作品、簡単に紹介したいが、どちらもテレビ東京の「新春ワイド時代劇」の作品で、一つは2007年に放送された「忠臣蔵 瑤泉院の陰謀」である。

シリーズ中、初の女性主演作となったこの作品では、瑤泉院が討入りの筋書きを書いた「黒幕」的存在として描かれており、稲森いずみが美しくも聡明な瑤泉院を好演しているが、流石に設定に無理があり、物語としてはあまり面白くなかった(脚本はジェームス三木が担当していたが、どうも不発)。

個人的にこの作品で面白かったのは浅野内匠頭の扱いで、「精神を病んだ」ことをここまで明確に刃傷の原因にしている作品は、ほとんど例がないのではないだろうか(浅野内匠頭役は高嶋政伸)。

そのせいで、この作品では吉良はほとんど被害者なのであるが、江守徹が「俺は被害者だ」と開き直った吉良を演じているせいもあって、さほど可哀想な感じはしない(笑)。

最後の一作品は、2012年の「忠臣蔵~その愛その義」で、大石内蔵助ではなく堀部安兵衛を主人公にしている作品である(堀部安兵衛役は内野聖陽で、大石内蔵助役は舘ひろし)。

もっとも、堀部サイドから描いていると言うだけで、ストーリー的にはあまり目新しいものはないのであるが(吉良があまり悪人っぽくなっていないくらいか)、個人的に「おやっ」と思ったのは、大石と堀部安兵衛が赤穂開城の際に初めて直接会うと言う描写である。

なるほど、大石は国家老で安兵衛は江戸詰めの藩士で、かつ新参であるから、当たり前と言えば当たり前なのだが、従来の忠臣蔵では当然のように顔見知りとして描かれていたので新鮮であり、この作品で改めてそうした事実に気づかされた。


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