続・時代劇レヴュー⑧:風と雲と虹と(1976年)

タイトル:風と雲と虹と

放送時期:1976年1月~12月(全五十二回)

放送局など:NHK

主演(役名):加藤剛(平将門)

原作:海音寺潮五郎

脚本:福田善之


NHKが放送する所謂「大河ドラマ」の第十四作目で、2020年4月現在、大河ドラマ中で最古の時代を扱った作品であり、また全話の映像が完全な形で現存する最古の作品でもある。

海音寺潮五郎の長編小説『平将門』と『海と風と虹と』の二編を原作とし、平将門と藤原純友を中心に、所謂「承平・天慶の乱」を描いた作品で、テレビ時代劇においてあまり取り上げられることのない時代・題材にゆえか、初回の冒頭には当時の時代背景について、原作者の海音寺潮五郎による異例とも言うべき長々とした解説が入った。

軍記物に依拠する部分が多く、史料が少ないないことを逆手に取り、話を大きく膨らませてさながら歴史ファンタジーとも言うべき趣の内容になっているが、そのために一部では史実と異なる描写もある(これは海音寺潮五郎の原作にも見られることであるが)。

また、登場人物、特に将門のキャラクタは、原作をベースにそこに脚本を担当した福田善之のオリジナルの脚色が大きく加わっており、原作とも史実とも異なり、本編中で将門は反乱後に「新皇」を称すことはなく、「民人」を中心にした理想国家の建設を宣言するシーンがある(原作においては、将門は後年に鎌倉幕府とは異なって新政権に対するプランを特に持たず、自称「将門のブレーン」の興世王が中心になって急ごしらえの官制を作るも、朝廷に反逆しながら朝廷の価値観をそのまま反映している点を強調し、ある種の滑稽さでもって将門の反乱を描いている)。

将門の乱を「革命」として描いている他にも、随所で「民人」の存在がクローズアップされているなどの点は、放送当時の歴史学会の空気を反映しており、今見るとなかなか面白い。

そう言う「時代を感じる描写」を意識しなければ、ドラマとして見た場合は確かに面白く、平安時代を舞台にした映像作品が少ないだけにおすすめしたい一作である。

キャストについて言及すると、将門役に加藤剛、後に将門のライヴァルとなる従兄弟の平貞盛役に山口崇と、この二人がメインキャストで出演していたため、この年はTBSの時代劇「大岡越前」が撮影できなかったと言う逸話もある(加藤は主演の大岡忠相役、山口は徳川吉宗役で出演)。

副主人公とも言うべき藤原純友は緒形拳が演じているが、オープニングの配役クレジットでは緒形は後半からトメとなり、前半は中ドメでトメは吉永小百合(将門、貞盛双方と恋仲になる没落貴族の娘・貴子役で、海音寺潮五郎が創作したキャラクタ)が務めており(後半は吉永が中ドメに移動)、このあたりは当時のテレビ業界における俳優の評価・地位が垣間見られて面白い。

個人的に好きなキャストは、将門のことを評価するもドライな判断で将門を討つ側に回る藤原秀郷(作中では主として「田原藤太」の名で語られ、出演クレジットの表記も「田原藤太」)役の露口茂で、知的で渋い彼の演技が後半は物語の良いアクセントになっていた。

他に、平国香(将門の伯父)役を佐野浅夫、源護(常陸の国司で将門と敵対)役を西村晃が演じており、二代目・三代目の水戸黄門が顔を揃えているのも今から見ると面白いし、また当時人気絶頂であった草刈正雄が鹿島の豪族・藤原玄明役で出演しているが、草刈の人気を考慮してか、玄明は将門・純友間を往来する忍者ばりのキャラクタに変更されており、史実、および原作の玄明の役どころは、玄明の兄・玄道と言う人物を創作して担当させている(玄道役は宍戸錠)。

後、本作の音楽は山本直純が担当しているが、オープニングのメインテーマは歴代大河ドラマのそれの中でも一際好きである。


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