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2023年9月の記事一覧

『和田誠展』に行ってきました。

刈谷市美術館で9月16日から開催されている『和田誠展』。イラストレーター、グラフィックデザイナーとして広く知られる和田誠。 今回の展示はイラストやグラフィックなどの他に映画監督やエッセイスト、アニメーション作家など、多岐にわたる和田誠の仕事の全貌を紹介する展示となっている。 自分と和田誠との出会いは子供の頃。 父の本棚に星新一のショートショートが並んでおり、自分はそこから1冊取って暇さえあれば読んでいた。 その挿絵をしていたのが和田誠なのだが、その頃の自分は挿絵の作者の

消えていくお菓子「甘食」が愛おしくてたまらない

幾年ぶり甘食を食べた。久しぶりにじいちゃんと飯を食べてる気持ちになった。中野のワンルームに渋くて甘い実家の匂いが立ち込めた。 僕の家は山梨の片田舎の農家だった。 畑仕事の合間に決まって出されるのが、歌舞伎揚げにぽたぽた焼き、そして甘食であった。 使い込まれた菓子盆の上にこんもりと盛られていて、学校帰りの僕は縁側に腰掛けながら食べたのをよく覚えている。ほっこりとした気持ちになった。 地方への出張のとき、ふらりと寄ったスーパーでヤマザキの甘食を見つけた。 「なんだこんなと

オタク × ストリートで独自路線を突き進むBAITとは何者か?

BAITとはどんなブランドなのか— セレクトアイテムに雑多なイメージがありますが、ショップの背景となるカルチャーは何なのでしょうか? BAITは元々、スニーカーのリセールショップからスタートしていますから、スニーカーのイメージが強いのはそれが要因ですね。そこにアパレルとトイを、コンセプトにもある“HYPE”・“FUN”・“UNIQUE”なアイテムでミックスしていますが、どれも創業者が好きなカルチャーである、というのが理由です。日本のスタッフが好きで取り扱うアイテムもありま

Dの世界の日本文学を真剣に考えてみた/『力と交換様式/柄谷行人』読書感想文

画/透視 Clairvoyance /村上隆 より   10年ぶりに長編小説を書いています。ここ半年間は小説の題材を求めて、高野山で結縁灌頂を受けたり、ChatGPTにメタフィクションを書かせたり、AV監督さんとその仲間たちと対話したりと、とても自由な時間を過ごすことができています。中でも、学生時代に学んだ本、好きだった本をもう一度手に取ることができたことは、幸いでした。 その流れから、今回柄谷行人の最新作『力と交換様式』を読みました。なかなか読み応えのある読書体験となり

「オーディオ版レイトレーシング」と「物理シミュレーションによる音響空間表現」

「レイトレーシング」は 3D グラフィックスの重要な技術となっていて、レイトレーシングを使ったリアリティの高いグラフィックス表現を見る機会が増えてきました。 また同時に、「レイトレーシングをオーディオに応用する」といった言及もちょいちょい見かけるようになりました。 しかし、グラフィックスのシミュレーションにレイトレーシングが有効なのは光の特性をレイトレーシングで近似できているからであり、音の特性に関してはレイトレーシングだけで近似するのは困難です。これはもう少し広く知られ

しっとりチャーハンの聖地「10歳から中華の道に」(「丸鶴」店主・岡山実)【前編】

チャーハンの枕詞になっている「パラパラ」。ところが、その逆をいく「しっとり」で、全国から人が集まり行列する町中華があります。創業57年の、東京・板橋区の「丸鶴」。10歳でこの道に入ったという、店主の岡山実さん(76)の歩みは戦後の町中華の歴史そのもの。時代とともにチャーハンはどのように変わってきたのか。なぜ全国から人が行列するのか、前後半の2回にわたってお届けします。 10歳で「中華の道」へ。15歳で店長に終戦の翌年、1946年に、ここ東京・板橋区の大山で生まれ育ちました。

塩は「買うもの」だという幻想を壊してみる

塩を作りたくなったただの庶民の塩作り備忘録。 専門家でも職人でもないので悪しからず。 でも塩は、農民でも農民じゃなくても 貴族でも貴族じゃなくても 伯方の塩でも伯方の塩じゃなくても 本当は誰でも作れる。 時間さえあれば。 時短機能や、要約コンテンツや、人力を肩代わりしてくれる家電に溢れてる世界で、原始的な塩作りは、片隅に追いやられるべくして追いやられた非効率極まりない生産活動である。 一縷の望みがあるならば、そこには本当の価値が宿っていることなんじゃないかと。 そんな

地方映画史研究のための方法論(15)都市論と映画②——ヴァルター・ベンヤミン『パサージュ論』

見る場所を見る——鳥取の映画文化リサーチプロジェクト 見る場所を見る——鳥取の映画文化リサーチプロジェクト 「見る場所を見る——鳥取の映画文化リサーチプロジェクト」は2021年にスタートした。新聞記事や記録写真、当時を知る人へのインタビュー等をもとにして、鳥取市内にかつてあった映画館およびレンタル店を調査し、Claraさんによるイラストを通じた記憶の復元(イラストレーション・ドキュメンタリー)を試みている。2022年に第1弾の展覧会(鳥取市内編)、翌年に共同企画者の杵島和泉

音楽と知識とカーストと

自分は音楽が好きで、小さい頃から息をするように鍵盤と触れ合ってきた。 それなのに、どの界隈に対しても知識が足りず、話に入れず、共感できなかった。 流行りの音楽、マニアックな世界、サブカル、ハイカルチャー、、、それぞれの場所に、それぞれの聴き方・楽しみ方があって、それぞれの「良い音楽」という「正義」を盲信している。僕はそのどれにも染まりきれない。 どれが「正しい音楽」で、どんなものが「良い音楽」なのか。そんな問いに、1つの正解なんてものはあるはずがない。けれど、自分が「音

10 台形とコンビーフ

(上底+下底)×高さ÷2。 この台形の公式を習ったとき、脳内に浮かんだのはコンビーフだった。 台形とはわたしにとって、コンビーフ以外の何物でもなかった。 コンビーフ缶を開ける作業を、わたしは進んで買って出た。 鍵はいつも、コンビーフ缶の上底に貼りつけてあった。 わたしはそのテープを、待ち合わせ場所を知らせる恋人からの手紙を開くように、剥がす。 すると平べったい鍵は、たいていテープにくっついたまま宙に浮かぶ。 鍵を剥がすと、わたしは缶の下底近くのしっぽのような突起を探す。

私たちが、愚かさを正しく楽しむために。真実を語る黒子氏インタビュー。

YouTubeチャンネル「真実を語る黒子」をご存知だろうか?失礼ながら、怪しさ満載の出立ちながら、圧倒的な知識量で民俗学・宗教学・文化・俗信・俗習・神話に加えて、怪談や都市伝説といった広範なジャンルを取り上げている。 「知識は「外れないメガネ」誰からも奪われない宝物」と語る、謎に包まれたYouTuber「真実を語る黒子」氏に、学びの大切さについて、お話をお聞きした。 -YouTubeチャンネル開設から2年とちょっとで、登録者数も好調に伸びてらっしゃいますね。 黒子:あり

ヒトの言葉 機械の言葉:「人工知能と話す」以前の言語学/川添愛【読書ノート】

「言葉」……それは私たちが日常の中で、何気なく、そして瞬時に扱う魔法のようなもの。我々人間にとって、この魔法の使い方は自然で、子どもの頃から身についている能力のように思える。 そんな私たちが、この魔法を機械に教えることは容易だろうと信じていた。だが、この魔法の背後には複雑なルールや知識が隠されていることに、この冒険の手引きとも言える本を開くと気づかされる。 この本の中では、言葉の背後に隠された秘密や、文法の緻密な構造、さらには私たちが持つ意図の奥深さを、冒険家のように探求し

「余裕」とは何か。 哲学研究者・永井玲衣さんと水中に潜る1時間の哲学対話

「ボドゲしません?」 業務時間中、誰かのかけ声で唐突に始まるボードゲームの時間。モノグサは、忙しくても「ボードゲームを楽しむ余裕を持つ」ことを心がけている会社です。 でも、そもそも「余裕」ってなんでしょう。余裕がある状態ってどういうこと?そんな問いから始まる新連載「あいだ学」。この連載では、毎回ゲストをお招きし「余裕とはなにか」について考察を深めます。 第1回目に登場するのは、哲学研究者の永井玲衣さん。哲学対話の実践者として10年以上、学校や企業、自治体、お寺などに出

[理系による「アート」考察] 物理ミクロ世界を描く仏教曼荼羅図

仏教美術にある曼荼羅ですが、仏様の世界や悟りの境地を描いたもの、の意味のようですが、一般的に見かけるのは、中心の仏から円上、もしくは四角上に広がる仏の羅列を描いたものになります。 ゴリゴリ理系からすると、これらの絵は、美術的鑑賞対象ではなく、原子の電子配置、および原子の結合図にしか見えないのですよね。 原子核が発見されたのは1911年なのですが、東洋哲学である仏教にて曼荼羅図が描かれていたのはもちろんそれより前であることより、仏教にて悟りを開いた高僧は実はミクロ世界である