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戦後日本の歩み(第3回 1946年)

戦後日本の歩みについて、時の内閣総理大臣の演説の中から印象に残るフレーズやキーワード等を拾い、振り返っていきます。その時々で日本が抱えてきた課題、そしてそれを乗り越えてきた国民の努力、未来に向けて挑戦する日本の姿等を明らかにできればと思います。
 第3回は1946年です。

第90回帝国議会 衆議院本会議 1946年(昭和21年)6月21日
吉田 茂 内閣総理大臣

○新たなる意味に於ける「国民総力」の結集

御承知の如く我が國は目下洵に容易ならざる事態に際會致して居ります、「ポツダム」宣言の趣意に副うて、民主主義的平和國家の建設と云ふ大事業を控へ、目前の問題として出來るだけ速かに食糧問題を解決致さなければならないのでございます。
・此のことたるや諸君の一致御協力に俟つの外ないのは勿論でありまするが、新たなる意味に於ける國民總力の結集を必要と致すのであります。

○歴史的民主議会で国家最高の法典たる憲法改正を議することは無上の光栄

・諸君、今議會の劈頭(へきとう)に於て、新生日本の建設の基盤たるべき憲法改正案が勅命に依つて付議せられましたのであります。
・幸ひにして今議會は新選擧法に依る總選擧の結果成立したる歴史的民主議會であります。
・政府は此の機會に諸君と
共に國家最高の法典たる憲法改正を議することを無上の光榮と致します。

○真に平和的国際社会の一員へ

・而して政府は速かに民主主義と平和主義とに依る政治の運營、竝(並び)に行政と經濟の全般に亙つて再檢討を行ひ、是が改革を實行し、眞に平和的國際社會の一員たるの資格と實(実)質を贏(か)ち得んことを期して居るのであります。
・隨て憲法の改正を俟つまでもなく軍國主義と極端なる國家主義との色彩を完全に拂拭し、其の將來に於ける再生を防止する爲め、教育の内容と、制度の全面にも亙つて根本的刷新を行はんとして居るのであります。
・又言論、思想、結社の自由に付ては格段の注意を以て必要なる措置を執つて居ります。
・又自由と放縱とを混同し、之を以て「デモクラシー」となし、善良なる風俗を紊(みだ)し、社會秩序を破壞せんとするやうな行動に對しては嚴に之を戒めなければなりませぬ

○人格の完成・其の個性の健全なる育成等に重きを置き、学校教育に併行して家庭教育、社会教育を尊重

・今日社會秩序の混亂の徴候が見えまするのは、畢竟するに國民道義の頽廢の結果であります
・それは永年に亙る教育の積弊、殊に教育を其の時々の國策の手段とするやうな傾向に胚胎して居るのであらうと思ひます。
・現内閣と致しましては、教育の尊重、道徳の滲透(しんとう)、被教育者の人格の完成竝(並)に其の個性の健全なる育成等に重きを置き、殊に學校教育に併行して、家庭教育、社會教育を尊重して、此の目的の實現に鋭意努力したいと思つて居る次第であります。

○「先づ以て我が国民自ら」、今日の食糧の窮迫を克服する「覺悟」を要す

・次に敗戰に因る經濟の混亂を克服し、平産和業を活溌に復興せしめて、國民生活の安定を圖ることが急務であります。
・就中今日の食糧事情は未曾有の困難なる状態に陷つて居ります。
・此の危機を突破する爲には、何としても聯合國(連合国)に援助を俟つの外はありませぬが、幸ひに聯合國(連合国)は好意を以て此の問題を考慮して居ることは洵に感謝に堪へませぬ
・併しながら先づ以て我が國民自ら今日の食糧の窮迫を克服するの覺悟を要するのであります
・隨て政府は凡ゆる政策に先だつて食糧問題の解決に重點を置き、全國民に對して忍苦、友愛の精神に依る擧國一致の團結を強く期待致して居るのであります。
農業生産力の發展は日本再建の基礎であります、此の際更に農村の民主化を徹底させ、肥料其の他必需資材の増産に付ては、石炭その他の基礎産業の振興と併せて適切なる施設を講じ農業技術の刷新大規模なる開墾干拓及び土地改良事業等をも實施せんとして居るのであります。
・尚ほ將來の食糧問題の解決の爲には、蛋白、脂肪、澱粉等各種の食糧を綜合的計畫的に増産することが根本でありまするから、此の際所要の諸對策に遺憾なきを期したいと思ふのであります。
・特に水産物の劃期的増産は今日極めて重要であります、緊急に實效を擧げるやう努力する積りであります。

○産業の復興、生産の増強、其の基本をなすものは生産意欲の昂揚

金融財政に付ては惡性「インフレーション」を絶對に生ぜしめないやう必要なる對策を行ふべきは當然であります、併しながら目下の我が國に於て最も肝要なることは、産業の復興、生産の増強であります、其の基本をなすものは生産意欲の昂揚であります。
・斯くて初めて「インフレーション」の防止も出來るのであります。
・仍て現内閣は此の目的の爲に、産業界及び金融界を終戰後の事情に即應して速かに整頓し、今後の國民の鞏固なる經濟活動の基礎を確定することとし、民主主義的にして新たなる希望に燃ゆる産業の勃興を促し民需生産の増加を圖ることに凡ゆる努力を致さんとする積りであります。
・其の具體的施策に付ては今議會に別途若干の法律案を提出して御協贊を經る積りであります。

○労働不安の問題への対応 

・生産の復興と關聯(関連)致しまして、現下の勞働不安の問題に付ては、勞働組合の健全なる發達を促すと共に、事業者側の生産への努力奮起を要望し、勞資(労資)の間に合理的基礎に立脚した問題の解決を促進する所存であります。
・又我が國經濟界に於て中小工業の占めて居る地位、役割の重要なるは今後益益大なるものがあることを信じられます。其の安定向上に付ては經營、技術、設備、勞務等の全面に亙つて必要なる對策を講ずる決心であります。
・又失業問題の解決も極めて重要であります、政府は六十億の國費を投じて公共事業を起し、生産の振興と相俟って其の目的を達したいと考へて居ります、右の外國民最低生活の保障の爲め適切なる施策を講じたいと考へて居ります。

○戦災の復興

・最後に戰災の復興に付きましては、政府の特に重點を置いて居る所であります、戰災者、在外同胞及び其の歸還者竝に復員者等の援護等に能ふる限りの手を盡し、特に是等の人々が安定して業務に就いて經濟的基礎を固め得るやうにしたいと思つて居るのであります。

【引用】
・帝国議会会議録システム
 ※演説文の前の見出し及び演説文中のふりがなは筆者記載。

【参考】
・総理の演説 所信表明・施政方針演説の中の戦後史(田勢康弘)