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どうも!
セイタです!!
北京大学社修士課程で社会学を学んでいます。

この一連のマガジンでは、自分が北京大学で「どのような授業を受講したのか」、「どのような授業の進め方なのか」、「課題をどのようにクリアしていったのか」について執筆していきたいと思います。


対象としている読者は
・中国の大学に興味がある。
・社会学修士に興味がある。
・海外の大学院に興味がある。
方を想定しています。
もちろん当てはまらない方でも全く問題なく読める内容となっております。

自分は2022年秋学期に
・社会学方法論(2コマ)
・社会学理論(3コマ)
・線形回帰とその応用(4コマ)
・中国概況(3コマ・留学生用)
・中国語基礎高級(4コマ・留学生用)
計15コマ分を履修していました。

この記事ではその中でも《社会学方法論(社会学方法论)》という授業について書いていきたいと思います。


授業概略

この授業は二人の先生が前半後半に分かれて講義を行います。やや珍しいスタイルです。

以下この授業のレジュメを日本語訳したものになります。

授業概略
このコースは、大学院生に質的・量的研究の入門を提供し、優れた社会学の方法論の基礎を学ぶことが研究全体の構成に与える影響について、受講生が理解できている状態を目指します。
講座は2部構成となっており、第1部では、実証研究、特に定量研究のためのリサーチデザインについて議論するために、最先端分野の研究成果を中心に紹介します。 最先端の研究を学ぶことで、問題設定、研究デザイン、データ収集・分析、研究倫理に至る全プロセスを理解するとともに、最新の方法論についても学びます。
第2部では、フランス革命をテーマに実証分析を行った様々な著作を読むことで、著作の方法論的デザインやフレームワークを理解し、異なる方法論の方向性を比較検討していきます。

成績評価
受講生は各回の文献を3人以下のグループを作り、20分以内の発表(11回)を行います。それぞれの発表の重点は以下の四点です
(i)作品の核となる論点を明らかにすること
(ii)執筆のもととなった資料の種類
(iii)著者がこの資料をどのように整理し、どのように論じたか
(iv)著者の方法論の方向性の強みと弱み。
グループプレゼンは1回の授業で1回行われ、成績の20%を占めます。
受講生は2人の講師にそれぞれ1回ずつ読書感想文を提出する必要があります。1回の読書感想文で成績の40%を占めます。

大まかにいえば、前半が社会学の研究手法を学ぶ授業であり、後半がその手法を活かして、どのように著作を読み解くのかといった構成になっております。

個人的にはかなり良くできた授業になっているかなと思います。
このセメスターではこの授業が一番面白かったです。



先生の経歴

次に二人の先生の経歴について簡単に記述しておきます。

範新光

範新光先生は前半の社会学の研究手法を担当している先生になります。

北京大学社会学系

2020年に博士を取り終わったばかりの若い先生です。
博士卒業してすぐに北京大学で教鞭をふるっていることからも優秀であることがうかがえます。

経歴は
・学部は北京大学(Times Higher Education 2023 17位)
・修士が香港科技大学(Times Higher Education 2023 58位)
・博士がワシントン大学(Times Higher Education 2023 26位)
となっています。

しっかりと海外の大学で学問をおさめていますね!北京大学の若い先生はほとんどが修士か博士で海外(とくにアメリカ)の大学で学んでいます。

余談ですが、北京大学とワシントン大学の社会学部はダブルディグリープログラムもあり、関係性が深いです。


田耕

田耕先生は後半にフランス革命についての授業を行っている先生です。

北京大学社会学系

2006年に修士を取ってから、2015年に博士を取るまで9年の空白の期間があったり、論文も謎の空白期間があったりするので、修士卒業後社会人を経験したのではないかと邪推しています。

経歴は
・学部は北京大学(Times Higher Education 2023 17位)
・修士が北京大学(Times Higher Education 2023 17位)
・博士がコロンビア大学(Times Higher Education 2023 11位)
となっています。
やはり素晴らしい経歴ですね。

研究テーマを見てみると、理論や学説に関するものが多い先生です。個人的には実証分析やっている人の方が好きです(笑)


授業の進め方

次に二人の先生がどのように授業を進めていったのかについて説明させていただきます。

基本的には二人とも対面での授業が中心になります。
ただ、自分のような北京にいない学生が何人かいたため、オンラインでパソコンを繋いでくれたりもしました。このオンラインでもしっかりと授業をしてくれるかどうかはTA(Teaching Assistant)にかなり依存します

この授業はTAがしっかりしていたので、オンラインの授業も比較的快適に受けれました。もちろんそうじゃない授業もあります、、、、

さらに北京大学はすべての授業が録画されており、後で見れるようになっています。なので寝過ごした日は録画を見てました(笑)



範新光

この先生が扱ったテーマは
・記述推論
・量的研究とは何か?因果推論と予測
・研究対象と測定
・研究倫理

となります。
少し少ないですが、残りは休みだったり、授業のイントロダクションだったり、他の先生を呼んで授業をしてもらったりしたからです。

前半のメインの教材は

Designing Social Inquiry: Scientific Inference in Qualitative Research


"Designing Social Inquiry: Scientific Inference in Qualitative Research"という1994年にアメリカのベテラン政治学者3人によって書かれた本の中国語版です!北京大学は参考文献がPDFでもらえることが多く、この授業でもPDFでもらえました。教材費がかからないので地味にありがたいです。

内容をざっくり説明するとすれば、「定量調査の手法論は定性調査にも応用できる」ということです。定量調査において必須の考え方は定性調査においても同様に利用できるということを、具体的な事例や抽象的な公式を用いて説明しています。社会科学を専門とする人ならば一度は読んでおいた方がいいかと思います。

以下日本語版です。

社会科学のリサーチ・デザイン: 定性的研究における科学的推論


肝心の授業なのですが、毎週2時間のうちの40分から60分が学生のプレゼンで、10~20分が先生のFB、残りの時間で上記の本をまとめた内容である社会学の研究手法について述べられます。

プレゼンのテーマは
・アメリカ社会の所得格差
・労働市場や教育の効果の因果推論
・ピケティの理論を中国国内に適用したもの
・農村と都市の所得格差
・アメリカの不良に対するエスノグラフィー

など幅広い題材が扱われています。


また、題材と学びたいことの一致性が高く、非常にためになりました。

例えば、Piketty, Thomas, Li Yang, and Gabriel Zucman. の"Capital accumulation, private property, and rising inequality in China, 1978–2015."という論文が題材になった時は、「研究対象と測定」というテーマでした。

この論文では、所得格差や資本格差間の関係性を国家間及び通時的に比較するというものだったのですが、中国において所得を正確に測るのは難しいです。(実際どこの国でもかなり難しいのですが、特に富裕層は脱税するので)

そこで著者らは、家庭調査や長者番付、中国の負債リストや民間の調査データ、株式市場のデータを組み合わせることで、立体的に中国の資産と所得格差を描きあげました。


学生たちが上記内容についての発表を行った後に、範新光先生は定量調査においてサンプリングバイアス、比較可能性、内生性などの推定結果にバイアスをもたらす要因について説明した後に、その解決方法を述べるという授業スタイルでした。
※ここに興味がある人は「社会科学のリサーチ・デザイン: 定性的研究における科学的推論」をご購入ください(笑)

授業内容に一貫性があり、理解しやすかったです。
このセメスターでは一番面白い授業でした。



田耕

田耕先生はフランス革命について書かれた著作を扱っています。

具体的には
・フランス革命の中の農民、領主、立法者
・ロシア、中国、フランスの革命の比較
・革命が起きる際の条件
・比較歴史学について
・革命研究の変遷
・ヴァンデの反乱

についてなどです。
フランス革命がメインではありますが、フランス革命とその他の革命の比較や革命に関しての研究史なども扱われています。


個人的な感覚ですが、範新光先生が担当しているプレゼンは題材が論文かつ主題がかなり明確なので比較的プレゼンが作りやすい印象です。

一方、田耕先生は題材が一冊の本のうちの数章であったり、主題が実際に本を読みこまないとわからないため、少し難しいです。しかも英語の文献しかなく中国語でも日本語でも翻訳されていない本も混ざりこんでいました。(自分はそのような題材に運悪く当たってしまいました、、、)
しかもフランス革命という時間的にも空間的にも離れたテーマなので、少し扱いにくかったです。
まとめると、かなり大変でした。。。


授業の流れとしては、まず40~60分学生がプレゼンした後に、先生がそれについてフィードバックします。休憩なしで60分以上常にしゃべりっぱなしです!!

学生が話した倍以上何も見ずに、黒板にないも書かずに話し続けられるのはある意味すごいな~と思ってました。
ただ、題材が難しいうえに、口頭だけなので自分がプレゼンした分野以外はほとんど頭に入りませんでした、、、



課題

最後に課題について簡単にお話しさせていただきます。

この授業の成績は
・範新光先生の読書感想文(40%)
・田耕先生の読書感想文(40%)
・グループプレゼン(20%)

によって成績が決まります。

出席点??
何それ食べれるの???


範新光先生の読書感想文は「社会科学のリサーチ・デザイン: 定性的研究における科学的推論」を題材にしました(笑)

本当はこの本を読んで、社会学の研究手法について理解を深めた後に、他の題材をテーマにしようと思っていたのですが、めんどくさくなったので、この本で読書感想文を書くことにしました(笑)

興味のある方は以下の記事をご覧ください。


次に順番が前後してグループプレゼンですが、「Vendee」というフランス革命後に起きた革命に対する革命を題材に選びました。選んだというより出遅れたため、これしか残ってなかったです。まさか、中国語も日本語も翻訳されていない本だとは思っても居ませんでした、、このグループプレゼンはなかなかにしんどかったです。。

興味のある方は以下の記事をご覧ください。


最後に、田耕先生の読書感想文に関してなのですが、グループプレゼンで扱った「Vendee」と「States and Social Revolutions: A Comparative Analysis of France, Russia, and China」という中国、ロシア、フランスの革命を比較した著作を読み、二つの研究の相違点と相似点を書き上げました。

このレポートはめちゃくちゃ大変でした、、
グループプレゼンで使った時間とは別に50時間近くかかりました。。。
まあ、文献閲覧3,4日、執筆2日で1週間くらいで書けましたが(笑)

自分はレポートを書くとき、1か月くらいかけてゆっくり書くタイプだったのですが、1週間で一気に書き上げるスタイルに変更を余儀なくされました。。だって締め切りが短いだもん( ;∀;)

ということで、今回の記事は以上となります。
長い記事ですが最後まで読んでいただきありがとうございます。

このマガジンでは引き続き、北京大学社会学修士の授業について執筆していきます。


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