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中国人口学会2023年ポスターセッション_日本政府の少子化対策

どうも!
セイタです!!
北京大学社修士課程で社会学を学んでいます。



2023年7月19、20日に中国太原にて中国人口学会が開催されたのですが、人生で初めてポスターセッションを実施しました。この記事ではその時の経験について書いていきます。


この学会には中国全土から1,700名近くが集まる非常に大きな学会で、74もの分科会がひらかれていました。


学会の雰囲気を知りたいという方は下記の記事をご覧ください。



自分は「日本の少子化政策の失敗した原因」というテーマで以下のポスターセッションを行いました。
※具体的な内容に関しては後ほど詳しく見ていきます。



それでは、本題に入ります!





サマリーの作成

学会参加にあたっては、サマリーの提出が必須となります。
学会自体は2023年7月に開催されるのですが、5月中にサマリーを作る必要があったので、大急ぎで作りました。大まかな方向性として、日本の少子化政策を書こうというのだけ決めていました。文献検索及びサマリーの執筆にだいたい2時間半くらいかかりました。


  本研究以日本政府对少子化的政策为研究内容,围绕近年日本为何陷入超低生育率(lowest-lowfertility, TFR<1.3)的困境进行研究。首先,本论文介绍总和生育率有与生育意愿的关联。根据对20世纪末发展中国家的研究,生育意愿能够为总和生育率水平提供高达90%的解释力。而且,其中大多数国家的计划生育政策对总和生育率没有统计显著性 。研究证明,提高总和生育率的前提条件,就是唤起国民的生育意愿。

  其次,本研究日本国民总和生育率下降的文化原因。研究少子化的原因可以大致为三个方面:经济学方面、医学方面、社会学方面。不管是欧洲国家还是亚洲国家,经济学家假设的合理人的行为大概是一致的,每个人都考虑生孩子的效用与费用 ,从而形成了一个国家的生育意愿水平。医学方面的研究还要等待,东西方之间的身体健康差别对少子化的因果效应。正因如此,本研究采取社会学的方法,研究东亚国家的文化因素对人口结构有什么样的影响。跟欧洲国家不同,亚洲国家的人更倾向于家族主义 ,此趋势有可能降低总和生育率。而且,日本政府没考虑东西方之间的文化差异,直接采用了欧洲国家的少子化对策的政策模型 ,而导致了政策的有效性下降。

  再次,本研究就国家体制对制定政策的影响进行研究。日本政府采取了以多数决定制原则为主的民主主义 ,因此,老年人比例正在上升的情况下,他们的话语权有所提高。议员对老年人的关注很容易提高对老年人的收入分配,其实,与其他的发达国家不同,日本对老年人的支出与老年人的数量呈现着线性关系。再者,日本政府对老年人的政策支出比例比较高 。

  最后,在探讨此研究的局限性的同时,本人认为探讨研究结果有助于解释跟日本拥有共同文化的中国出现的问题。虽然中日之间也有国家体制、文化观念与经济水平上的差别,但是相比之下中日两国有许多共同之处 。本论文以日本过去的经验作为他山之石,把它当作借鉴,以免重蹈覆辙。

学会に提出したサマリー


以下翻訳アプリに上記サマリーを突っ込んだ結果になります。
※多少修正しています。


 本研究では、日本政府の少子化政策を検証し、日本が近年なぜ超少子化(lowest-lowfertility, TFR<1.3))という苦境に陥っているのかについて研究を行う。 まず、合計特殊出生率(TFR)と出産意欲の相関について論じる。20世紀末の発展途上国を対象とした研究によれば、出産意欲は合計特殊出生率の90%を説明できる。 さらに、これらの国の多くでは、家族政策は合計特殊出生率に対して統計的に有意ではなかった。 以上より、合計特殊出生率を上昇させるための前提条件は、国民の出産意欲を喚起することであることがわかる。

 第二に、本研究は、日本人の合計特殊出生率低下の文化的要因を検討する。 少子化の原因研究は、経済学、医学、社会学の3つに大別できる。 経済学者は、洋の東西を問わず、合理的な人間の行動に差はなく、誰もが子供を持つことの効用とコストを考慮し、それがその国の出産意欲を形成すると仮定する。 身体的健康の違いが少子化に及ぼす因果関係についての医学的研究は、依然として不十分である。 それゆえ、本研究では文化的要因が東アジア諸国の人口動態にどのような影響を与えているのかについて社会学的アプローチを行う。ヨーロッパとは異なり、アジアの人々は家族主義的傾向が強く、この傾向は合計特殊出生率を低下させる可能性が高い。 それにもかかわらず、日本政府はアジアとヨーロッパの文化的差異を考慮せず、欧州諸国の少子化対策をそのまま採用してきたため、十分な成果が得られなかった。  

 さらに、本研究では国家体制が政策決定に与える影響について検討する。 日本政府は多数決を原則とする民主主義を採用しているため、高齢者の割合が高まるにつれて高齢者の発言力が増しやすい。その結果、 国会議員は高齢者の世論に重点を置きやすい傾向にあり、高齢者への所得分配が増えやすい。実際、他の先進国と異なり、日本の高齢者支出は高齢者数と比例関係にある。 さらに、日本の政策支出に占める高齢者関連支出の割合は比較的高い。  

 最後に、本研究の限界を提示しつつ、本研究が日本と共通の文化を持つ中国で生じている問題を説明するのに役立つ理由を述べる。 中国と日本では、国の制度や文化的な考え方、経済水準に違いはあるが、比較的共通点も多い。 本研究では、中国が日本の過去の経験を参考にし、日本と同じ過ちを繰り返さないためにある。




あるあるかもしれませんが、サマリーの内容とポスターの内容が一致していません。。。


例えば、第一段落で先行研究として、「20世紀末の発展途上国を対象とした研究によれば、出産意欲は合計特殊出生率の90%を説明できる。」を挙げているのですが、ポスターには微塵も出てきません、、


また、第三段落で、民主主義という国家体制と少子化対策の関係性について述べようと思っていたのですが、参考文献が思ったより見つからず断念しました。ニュースや官公庁の資料を追っていくことで、研究を進められないこともないのですが、ポスターセッションの焦点がボヤけるので、この箇所もカットしました。


しかも最終段落の中国への応用という個所も組み込めていません。
※この部分は《人口問題》という北京大学の授業の期末レポートで書きました。


なので、実質ポスターセッションで発表した箇所は上記日本語訳の太字のかしょのみとなります。





ポスターセッションの内容

この章では、自分が発表したポスターセッションの内容について書いていきます。


伝わるポスターセッションの作り方に関しては下記のサイトがめちゃくちゃおすすめです。ポスターセッションの目的から作り方のヒントまで網羅しています。
※英語でも資料を探しましたし、中国語でも探しましたが下記記事が一番わかりやすかったです。

K-CONENEX:センス不要! 伝わる研究ポスター作成術




それでは、自分が作成したポスターの解説していきます!!



①導入

ポスターの最上部にあたるこの箇所では、
・研究テーマ
・結論
・現状

について述べています。


ちなみに、他の人のポスターを見てみたのですが、結論を一番上に持ってきているポスターは僕が見た限り、1つもなかったです。すべて一番下に配置されていました。なので、足元付近に一番大事な結論が書かれていてすごく見にくかったです。

それでは、何と書いているか説明してきます。


・研究テーマ

日本政府「少子化対策」は、なぜ30年間も十分に効果を発揮しなかったのか?

・結論

日本政府は自国の状況を考慮せず、ヨーロッパ諸国の出生奨励政策を直接採用したため、政策が十分に機能しなかった。

ここではあえて断定調に強めの言葉で書いています。ポスターセッションは目立ってなんぼなので、派手なデザインとやや強めの主張をしました。
※このポスターセッションの内容を発展させてレポートを書いたのですが、その時はトーンダウンして「日本政府の少子化対策の有効性の検討」としています(笑)



・現状

総人口と合計特殊出生率:2008年より日本の人口はマイナス成長を開始している。合計特殊出生率は1.26から1.45の間を行き来している。

総務省統計局: 人口推計(2022年(令和4年)10月1日現在)結果の要約
人口動態調査 人口動態統計 確定数 出生




35‐39歳の未婚率:未婚率の上昇が日本の低い出生率の主な原因の一つである。

厚生労働省:年齢階級別未婚率の推移




・日本の夫婦における出生状況:希望出生数及び予定出生数は下降傾向にあるが、依然として2.0をキープしている。

国立社会保障/人口问题研究所:第16回出生動向基本調査





②30年間の少子化政策の評価-如何に出生奨励に失敗してきたか?

ここでは、過去の少子化政策がうまくいかなかった要因について書いています。



・概略

平成期間、日本政府は主に幼稚園の建設や出産後も働ける環境の整備などの出産奨励策を開始した。 しかし、この期間中、日本人の出産行動はほとんど変わらなかった。 日本政府はフランス、スウェーデン、オランダを中心とするヨーロッパ諸国の政策を取り入れた。しかし、(1)子供世代の自立心、(2)仕事=自己実現、(3)ロマン主義の3つの要因により政策は失敗した。




(1)子供世代の自立心 → 両親と同居する未婚者の比率

日本の若者は両親と同居する傾向がある。
一方、未婚者が恋人と同居することは少ない。
(男性2.6%、女性3.8%)

国立社会保障/人口问题研究所:第16回出生动向基本调查




ポスターには書かれていないのですが、データとしてだけ書かれている未婚の若者(18~34歳)の同棲率を掲載しておきます。

国立社会保障/人口问题研究所:第16回出生动向基本调查





(2)仕事=自己実現 → 各国の女性の仕事に関する満足度

相対的に、日本人女性の仕事への満足度は低い
平均:満足66.4%、不満12.2%
日本:満足55.0%、不満18.3%

リクルートワークス研究所:Global Career Survey






(3)ロマン主義 → 女性が結婚相手に求める年収

日本人女性は結婚相手を探す際、年収への要求が高い。 約70%の女性が400万円(20万円)以上の年収を求めているにもかかわらず、未婚男性の25%しかこの条件を満たしていない。

明治安田生活福祉研究所:『生活福祉研究74号』2010年

女性が結婚相手に求める年収
・気にしない:20%
・0-399万円:12.1%
・400万円-:67.9%




ポスターには書かれていないのですが、未婚男性の年収分布を記載しておきます。

明治安田生活福祉研究所:『生活福祉研究74号』2010年

女性が求める年収と未婚男性の年収分布のグラフの色は対応しています。
例えば、「0-399万円」の年収を男性に求めている女性は12.1%しかいませんが、未婚男性の内年収が「0-399万円」の人は74.9%です。ともにこげ茶色です。






③日本社会特有の価値観-中流意識が如何に出生率の低い社会を生み出したか?

この箇所では、日本の中流意識と低出生文化の因果関係について書かれています。ポスターセッションなので、横にいて話しながら説明しようと思っていたので、かなりざっくり書かれています。


「あなたの生活水準は他の人と比べてどうですか?」と質問されたときに、57.7%が 「中の上」と答えた。「中の下」「中の中」「中の上」を合わせると92.2%である。「中流」意識を持っている日本人がいまだに多いということが読み取れる。

日本の家族社会学者である山田氏は、「親心」、「メンツ意識」、「リスク回避意識」が「中流意識」につながった結果、少子化につながっていると指摘する。 日本人は他人から下流だと見られることを気にするだけでなく、自分の子どもには自分よ良い暮らしをしてほしいと願う傾向がある。さらに、日本社会の貧困化が進み、日本人が将来に希望を見出すことがますます難しくなってきている。




この図は「上流-下流」及び「将来に希望を見出す/見出さない」の二次元図である。「上流&将来に希望を見出す」及び「下流&将来に希望を見出していない」人々の間で出生率が高くなるということを表しています。


前者の人々で出生率が高くなるのは想像に難くないが、後者の人々の出生率が高くなることには説明が必要かもしれません。後者の最も典型的な例は沖縄の人々だと思ってください。(出生率1.7で全国最高)


沖縄は全国でも最も貧しい地域の一つなので、相対的には「下流」という言葉が当てはまります。また、上述の山田氏によれば以下のように未来への希望も薄いと言えよう。しかし、世間からのプレッシャーも同様に弱い。そのため、経済的余裕がなくても子供を出産する傾向にある。

沖縄県は、中流階級の層が薄く、非正規社員率が高い。また、離婚率も突出して高く、母子家庭や再婚も多い。
(中略)
その結果、そもそも維持すべき「世間並みの生活水準」、特に子育ての期待水準が高くならなかった。

山田昌弘:『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?-結婚・出産が回避される本当の原因』 光文社新書 2020年 「第5章 日本で、有効な少子化対策はできるのか?」




④今後の研究

一番下の最も見えにくい箇所に今後の研究内容について書いています。ここは自分自身もまだどのような研究をするかは決めかねており、曖昧な箇所です。


・日本の事例を中国当てはめ、日中の違いを比較研究する。
・山田が提唱した理論を実証的に研究する:現在の生活水準が「上流or下流」「将来に希望が持てるか否か」の軸で定量調査を行う。




以上が自分が作成したポスターの概要になります。


もともと横に立って話すことを前提に作られているので、図がメインで説明が少なく、ポスターだけだとロジックがそこまで明快でない部分があります。また、主張を裏付ける根拠となるデータを全て載せることもできないので、一部のデータは掲載していなかったりもします。


なので、わかりにくい箇所が多々あると思いますが、なにかご不明点がございましたら、お知らせいただけると幸いです。



今回のポスターセッションの参考文献は以下のものになります。

・桐原康栄.少子化の現状と対策[R].国立国会図書館[R].2021,1163
河野 稠果.人口学への招待:少子・高齢化はどこまで解明されたか[M].中公新書,2007
・佐藤龍三郎.日本の「超少子化」-その原因と政策対応を巡って-[J].人口問題研究,2008,64(2):10-24.
・国立社会保障/人口问题研究所.第16回出生动向基本调查[R].2021
・リクルートワークス研究所.Global Career Survey[R].2012
山田昌弘.日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?-結婚・出産が回避される本当の原因[M].光文社新書,2020
・山田昌弘.日本で少子化対策はなぜ失敗したのか[R].財務省財務総合政策研究所,2020

太字の資料が特に重要な資料ですので、興味のある方は読んでみてもいいかもしれません。


また、今回のポスターセッションの内容に、「中国への応用」という章を付け加えたレポートを「人口問題」という授業の期末レポートで書いているので、もしよければそちらもご覧ください。



それでは、今回の記事は以上とさせていただきます。


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