古くて素敵なクラシック・レコードたち

書影

村上春樹さんの小説やエッセイはほぼ全て持っているし、小説についてはどれも2~3回は読んでいる。
ところが「音楽もの」についてはあえてというか意図してというかほぼほぼノータッチで、書棚を見てみると、あるのは「意味がなければスイングはない」と「村上ソングズ」ぐらい。

さて、今回とりあげる本書についても購入を悩んだが、何かと「締めにかかっている」印象のあるここ数年の春樹さんなので(その最たるは早稲田大学にこの秋オープンするミュージアムであったり)いっちょ読んでみようということで購入することにした。2500円ほど…となかなか高いし、書店でパラパラ見てみようと思ったけれどケースがついてて立ち読みもできず…。

ただ、結果として、これは読んでよかった、と思えた。そのことについてつらつらと書いてみる。

「クラシック音楽」については、僕はほとんど素人で、やはり本書はなかなかマニアックなところというか、専門的なところが多く、90%ぐらいは、わけのわからない内容だった。

たとえば、レイモンド・チャンドラーの「ロング・グッドバイ」のフィリップ・マーロウは●●(曲名)が嫌いといっているが、僕(村上春樹)にはそうは思えない、といったような小説に絡めた描写も極めて少なく(泥棒かささぎ、ではねじまき鳥クロニクルの話は少し出てきたが、シェエラザードの紹介のところではスルーであった)「音楽ひとすじ」という一貫性が見られる。ユーモアも少なめ。(ちなみにマーロウは●年ぐらいにこれを聴いているから、この指揮者のこのヴァージョンのことかな…というところまで春樹さんは推察していて、そういうのはおもしろかった)

本書の前書きでは「巷の選集、傑作集、みたいなものにはほとんど興味はない。なぜなら僕の趣向は往々にして世間とそれとは異なっているから」みたいな話があって、僕もまた、そういう性質には共感、好感がもてた。なのでそれとは逆に、バーゲンで見つけたそれぞれのレコードとの邂逅の話はたくさん盛り込まれているし、ユーモア的におもしろかったのは、100円で買った、これは50円、1ドル、99セント…など「100円までで買った!」みたいな話が何度も何度も出てくることで(おそらく全部あわせると20回ぐらい)この手の繰り返しや良い意味でのしつこさは春樹節(むろんチャンドラー節といえようか)で、都度、僕はくすっと笑ってしまうこととなった。(ちなみに200円以上は一度も出てこない 笑)

僕は音楽評論のことはよくわからないが、音楽の専門家として仕事をしているわけではない著者が、ここまで広く深く、膨大な作品の中からどうして書き留められるようだろう、ということは始終、気になった。つまり、例えば80年の人生として、せっせと働くことを中心に終える人もいれば、このような膨大な作品に触れる人もいる。いやもちろん著者も膨大な仕事をしながら、のことだ。「時間は平等に与えられているのか?(※)」時間という概念についても少し考えてしまった。つまり僕もまた、国や時代を超えて、小説のみならず音楽でも触れていきたい、と感じることのできるきっかけとなった1冊だったといえる。
「自然に還っていく」ような、無為の暮らしの中でなら、こういったものを深く味わうような、そんな生き方をしたい、と淡く思った。さて、これからどう生きようか。
(※)あとから加筆 → 考えてみればあたりまえのことだけれど、SNSが無い時代、「誰かと交流している時間」が良し悪しは別として少ない時代、より、書物や音楽に触れる時間がたくさんあったのだろうと思う。今ほどせかせかしていなかったとも思うし。やはりどちらかというとそういう時代に僕は憧れているのだと思う。

Twitterで知ったのだが、タワレコがこんな素敵な企画を打ち出していた↓

村上春樹『古くて素敵なクラシック・レコードたち』 掲載ディスクご紹介

よし、レコードは家にないけれど、ぜひ名盤を聴いてみよう!ということでいくつか買ってみることにした。(明日が誕生日でもあるので奮発して…!)

【選ぶ際の条件】
・本書のレコードジャケットとCDのジャケットが視覚的にほぼ一致していること(見た目で同じでありそうだとわかること)
・著者が激推ししていること(この演奏ヴァージョンは合わない、なども著書内に書かれているのでジャッジしやすかった)
・何かしらの人つきあいがあって義理としてとりあえず載せていそうな、賞賛していそうな作品は除外(文脈からなんとかそこまで読みとって)
・予算は合計で税込1万円まで(なので自ずと千円台のものばかりとなった)

そして以下の7枚をタワレコオンラインでポチしました。
(見方:1行目…本書の章の番号とタイトル、2行目…CDのタイトル ※クリックするとタワレコの販売サイトへ、3行目…CDのアーティスト情報)

画像27 ブラームス 間奏曲集 作品116、117、118,119
ブラームス:間奏曲集 他

グレン・グールド

画像369 シューベルト 弦楽五重奏曲 ハ長調 D956
シューベルト:弦楽五重奏曲<限定盤>
ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団、他

画像480 チャイコフスキー ピアノ協奏曲1番 変ロ短調 作品23
チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番 ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番
ヴァン・クライバーン、他

画像581 シューマン チェロ協奏曲 イ短調 作品129
ブロッホ:シェロモ シューマン:チェロ協奏曲
ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ

画像695 モーツァルト ホルン協奏曲第3番 変ホ長調 K.447
モーツァルト:ホルン協奏曲(全曲)
デニス・ブレイン、他

画像797 トマス・ビーチャムの素敵な世界
ディーリアス: 管弦楽&合唱作品集、歌劇《村のロメオとジュリエット》、歌曲集<限定盤>
トーマス・ビーチャム、他

画像8100 若き日の小澤征爾
ベートーヴェン:交響曲第5番「運命」 シューベルト:交響曲第8番「未完成」<期間生産限定盤>
小澤征爾

以上です。

確かに耳の肥えていないような僕でも、AmazonMusic等で検索して調べてみると音としてなんだかハズレ、と直感できるものは散見される。このあたりはやはり耳の肥えている方からの推薦は信頼できるだろうし、楽しみだ。

また後日、感想なども気が向いたら書いていくかもしれません。

*****

最後に余談だが、「コンサヴァティブ」という字づらが出てきた。Conservativeはvが2つ出てくるけれど片方が「ブ」になっている。来月公開の映画も「ドライブ・マイ・カー」と「ブ」であるし、この法則は何だろう。さすがにヴィデオは近年ではビデオになっている気がするし、一般的に違和感が出そうな言葉はヴィでなくビになっているのかな、と思いつつ、本書には「ヴァランス」という言葉でてきて「?」となった。マニアックな話ですみません。

【著書紹介文】
村上さんはこんなふうにクラシック音楽を聴いている
こよなく愛するクラシック音楽をLPレコードで楽しんでいる村上春樹さん。百曲以上の名曲を論じながら、作家の音楽観が披露される。

(書影と著書紹介は https://books.bunshun.jp より拝借し、CDのジャケット画像は https://tower.jp より拝借いたしました)

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