マーティン・イーデン

書影

(書影と以下の内容説明は出版社のサイト https://www.hakusuisha.co.jp より拝借いたしました)

【内容説明】
絶望の青春──ジャック・ロンドン自伝的物語

船乗りマーティンは裕福な家の娘と出会い、新しい世界へ足を踏み入れる。労働者階級から独学で作家を目指す若者の苦闘を描いた名作。

20世紀初めのアメリカ西海岸オークランド。労働者地区で生まれ育った若者マーティン・イーデンは、船乗りとなり荒っぽい生活を送っていたが、裕福な中産階級の女性ルースに出会い、その美しさと知性に惹かれるとともに文学への関心に目覚める。生活をあらため、図書館で多くの本を読んで教養を身につけ、文法を学んだマーティンは作家を志し、海上での体験談、小説や詩、評論を次々に書いて新聞や雑誌に送るが一向に売れず、彼が人生の真実をとらえたと思った作品はルースにも理解されない。生活は困窮し、絶望にかられ文学を諦めかけたとき、彼の運命は一転する。
密漁者、船乗り、放浪者などを経て作家に転身、『野性の呼び声』で世界的名声を獲得したジャック・ロンドンが、自らの体験をもとに書き上げた自伝的小説。理想と現実のはざまで闘い続ける創作者の孤独な栄光と悲劇を圧倒的な熱量で描いたこの作品は、多くの作家や芸術家に影響を与え、読者の心を揺さぶり続けてきた。20世紀初頭アメリカの階級社会の中で、独学で自己向上を目指す主人公の苦闘は、苛酷な格差社会の入口に立つ現代の若い読者にも切実に受け止められるだろう。

*****

※基本的には「ネタバレなし」として書いていきます。

最近よんだ長篇小説でいうと、マッカラーズの「心は孤独な狩人」や、フィッツジェラルドの「夜はやさし」がずっしりと、またとても良い読後感として残っているが、この「マーティン・イーデン」はそれ以上というか、今までよんだ中でもトップ3ぐらいに入るインパクトがあった。とてもよかった。特に後半は止まらなくなった。

マーティン(≒ジャック・ロンドンとして)が人として魅力的なのはその生活様式、生活遍歴、思考の習性やその遍歴がとても多彩で、ややもすれば非常に急進的偏りがあるようにみえるのだが一方でとても「柔軟」な様が見受けられるところにある。
僕としては「キャッチャー・イン・ザ・ライ」が売れたあとのサリンジャーと重なる部分もあるのだが、「フラニーとズーイ」で見られるほどの厭世観なるものはなく、物語はある意味ではわかりやすい高揚感とともに、あるいは絶望とともに進んでいくわけだが、マーティンの視点は意外なほどにニュートラルに固定されていく(あんまりここまで書くとネタバレっぽくなるかな…)。

たとえば、自身の健康についての観察、あれだけ睡眠時間を惜しんでいたのに重労働で書けなくなってしまう、とも思えば休息のためにあえて書かない期間を作る、徹底した自己分析による行動…などなど。

しつこかったり、自己啓発本的な暑苦しさがあったり、というのは全然ないのだけれど「楽しく学べる」といったところがあり、これも本書の魅力といえそう。

たとえば408ページ(42章)の1行目、

 ある日、マーティンは孤独感を覚えた。体のほうは健康で丈夫であり、それでいて何もすることがなかった。

という、一見なんてことなさそうな描写もアクセントになっている。

いわゆる「他者のことをどのように見ているか」についての象徴的な話が散りばめられているように感じられ、まさにこの「承認欲求の時代」にも十分に相通ずるものがある。(もう少しつっこんで書きたいけれど…ネタバレになるのでやめておきます)

そしてマーティンが愛したルースの心境の変化にも、とても興味深いものがあった。

ラストシーンの描き方は、一見ありがちに見えつつ、絶妙なタッチではっとさせられた。

ブルジョアから労働者階級にいたるまで、個性ゆたかな登場人物がたくさん登場するのも、物語に深みをもたせている。

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…書きたいことは、書けることはまだまだあるけれど、これぐらいにしておきます。(出版社の内容説明もしっかりしているし)

奇しくも、ジャック・ロンドンは40歳と10か月で死に、僕が生まれて40年と10か月でロンドンの作品に初めて触れたというのも、感慨深いものがありました。

このあとはロンドンの伝記を一冊よみ、それから短篇小説(柴田元幸選訳)をいろいろ読んでいきたいと思っています。

めちゃくちゃ好きな作家がまた一人、増えました。

そしてまた僕自身も、これからの人生を自由に生きていくのです。
読書からはしばしば、そういった力や勇気をもらうのです。

【関連note】
「心は孤独な狩人」読後感想note
https://note.com/seishinkoji/n/nc815e2a09c0e

「夜はやさし」読後感想note
https://note.com/seishinkoji/n/ncce7b274074d

「フラニーとズーイ」読後感想note
https://note.com/seishinkoji/n/nbf9bc5024e7f

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(2021.11.23に追記)
上記の書影にも男の写真があるが、いわゆるこれの映画版「マーティン・エデン」を今日みた。かなり原作とは異なっている印象。イタリアというのもなんだかしっくりこなかったのかもしれない。

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