見出し画像

「さるかに合戦」と復讐の構図

 ハンムラビ法典には「目には目を」に代表される同害報復の原則のようなものが記載されています。
 現代日本では一般に復讐は「是」とされません。法治国家の範囲では、法律に反することが起きた場合に、裁判を経て「相応の」処罰を受ける流れになります。日本の法の下では「私刑」は厳禁です。

 日本昔話をみてみましょう。
「さるかに合戦」あるいは「さるかに」は、有名な話のひとつですね。一文にまとめると「猿に母蟹を殺された子蟹たちが有象無象の協力を得て猿を滅する話」です。ただ殺すのではありません。子蟹チームがそれぞれの特性を活かして猿にあらゆる苦痛を与えた上で、殺します。

 息子は絵本を好みます。
 それは息子が1歳半の頃のことでした。
 実家から故郷の味と一緒に、息子に絵本のプレゼントが届きました。「さるかに合戦」です。何故そのチョイスなのか分かりませんが、さるかに合戦でした。息子にキッキー!(猿)と促され、頁を開きます。

 さっそく読み聞かせていると、息子の表情が曇ります。

 柿の種とおにぎりを交換するシーンで眉根を顰め、

 母蟹の死ぬシーンで号泣です。

 なんとか宥め、続きを読みますと、泣き止みはしたものの怪訝な顔をしたままで、石臼に潰されて「めでたし、めでたし…」に対して口をキュッと結んで、
 
 ふすーー!!

と唸りました。
 どうにも納得のいかない様子。言葉にならないモヤモヤを抱え、息子はフスフスしながら絵本をバイバイしました。幾らか気は晴れたようですが、それから半年以上、その絵本が開かれることはありませんでした。

 復讐は連鎖します。
 潰された猿にも家族や友人がいたでしょう。何故なら猿は、群れで生活する動物だからです。蟹の死因は「硬い柿をぶつけられたこと」でした。猿が「殺すつもりはなかった」と主張すれば、強盗殺蟹罪ではなくて窃盗および過失致死になるかもしれません。逆に猿に行われたことは明確な殺意による殺猿です。しかも子蟹たちは自分の母を殺されたという動機がありますが、そのほか有象無象はノリです。直接の実行犯は石臼で、他の面子は傷害罪や共謀罪あたりでしょうか。

 憎しみは増幅します。
 被害者感情は消えがたく、人の心に任せたら「目には目を」で済まない。
 私は考古学も法律も専門ではありませんが、ハンムラビ法典の言葉の真意は「過剰な復讐を防ぐこと」なのだと感じます。

 私は復讐を肯定も否定もできません。
 色々な立場、視点を想像してしまうからです。

 私は答えのない問いに、今日も思いを馳せます。

 
 なお、児童精神医学の観点からは、幼少期に「母親が死ぬ絵本」を読み聞かすことは子どもの心に極めて強いストレスを与えることため、推奨されていません。過敏になることもありませんが、「善意の贈り物」にも「毒」が混ざっていることがございますから、特に「毒親」からのプレゼントにはご用心くださいませ。


 拙文に最後までお付き合い頂き誠にありがとうございました。願わくは、貴方の心が復讐の業火に焼かれませんように。赦す必要などありませんが、きっと手を下さずとも生きる道はありましょう。



#眠れない夜に #昔話の考察 #やってみた
#エッセイ #善悪 #そもそも善とは何か #悪とは何か #二元論に疑問を呈する #勧善懲悪は好きじゃない #さるかに #さるかに合戦
#鵜呑みにしない #自分の頭で考える #復讐 #赦す必要はない
#ハンムラビ法典 #法 #法律 #法治国家

この記事が参加している募集

眠れない夜に

やってみた

ご支援いただいたものは全て人の幸せに還元いたします。