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進行形JR乗りつぶし日記(少しのオマージュ)#11~北海道5日旅:4日目(2)【留萌→深川→札幌→千歳】

 廃線を惜しむ多くの鉄道ファンと少ない地元客で留萌駅は大混雑である。「日本一の夕陽のまち」「数の子生産日本一のまち」と大きく書かれた看板がホームの駅名票の上に夕陽の写真とともに掲げられている。駅舎と反対側にもホームがあるが、使用されなくなって長年経過しているのか、完全に廃駅の様相を呈しており、そこへ続く木造階段には「立ち入り禁止」ロープが張られているが、生い茂る草木とロープとの区別ももはや殆ど付かない。
 改札の外に出ると、大きな数の子のオブジェや在りし日の留萌本線を偲ぶ写真が飾られていた。ここから日本海沿いに幌延まで伸びていた羽幌線は既に廃線から35年を経過し、留萌本線の留萌~増毛間は6年前に地図から消えた。そして石狩沼田から留萌のレールもあと半年の命となり、留萌の街からは完全に線路がなくなってしまう。日没前の一瞬の輝きのように賑わう留萌駅だが、やがて「鉄道が走っていた街」になる。
 降りた乗客の多くは10分後の折り返しで深川方面に戻るらしく、またしても満載状態となった老ディーゼルカーをホームから見送る。駅舎は静けさを取り戻し、私はニシンの載った味の濃い駅そばを食べた。

 留萌から増毛の廃線跡にほぼ並行して走る路線バスで、かつての終点旧増毛駅舎に向かう。てっきり留萌駅前から出るものと思っていたバスは、駅から5分程歩いた国道脇から出ており、もはや鉄道がこの街で重要なポジションを占めていないことを痛感した。
 留萌の街中をクネクネと回って、バスは海岸沿いに出る。文字通りの青い空と青い海を背景にバスは小さな停留所を殆ど飛ばして快走する。日本三大車窓にも劣らない絶景だと思うが、その車窓を提供してくれる鉄道は既にない。バス車内には市役所の職員と思しき若い人が乗っていて、地域交通活性化のためのアンケートを客に聞き取っていた。私の前の席にいた初老の男性は、千葉から留萌本線に乗りに来たという話から始まって鉄道昔話を延々と始めて、市役所氏はちょっと困惑した表情を浮かべていた。

 バスは40分で旧増毛駅舎に着いた。駅舎は廃線から2年後の2018年に路線開業当時の姿に近い形で大幅に復元リニューアルされ、売店も併設された観光施設として中々の賑わいを見せている。ホームや車止め、駅名票などかつての形態も併せてきちんと整備されているが、駅舎ともども妙にさっぱりと小綺麗で、廃止された駅の醸し出すあの雰囲気はあまり感じられなかった。
 増毛はその名称から頭髪祈願の聖地としても名を馳せているが、元々はアイヌ語で「マシュケ~カモメの多いところ」という意味らしく別に頭髪とは関係がない。カモメと同じくらい多かったのがニシンで、戦前はニシン御殿が立ち並んでいたらしいが戦後は衰退し、代わってボタンエビの漁獲量が日本一を続けているとのこと。いずれにしても過去は道支庁が置かれる程の重要地として栄えたが、今はレトロを全面に押し出した静かな観光の街になっている。
 旧増毛駅をみた後は、広島から分霊された魂を祀っている増毛厳島神社や灯台を見て回る。坂が多くて随分疲れたが、丘の上の灯台から見えたこじんまりとした街並みと小さな波しぶきをあげる蒼い日本海の風景には感動した。
 
 少し汗をかきながら旧増毛駅舎に戻り、14時50分発留萌駅行きバスに乗る。往路と同じく市役所の兄ちゃんが乗っていたが、先ほどで懲りたのか、いかにも地元風体のお客さんにしか話を聞きに行かない。私は観光客としての完結明瞭な回答を考えていたのだが、最後まで兄ちゃんに話しかけられることはなく少々残念であった。
 バスは北の留萌方面に走るので、次第に低くなってくる陽光が西に拓けた海に煌めいて美しく映えている。30分程するとバスは再び留萌の市街地に入り、私は終点の少し前で降りた。背丈ほどもある草木に覆われた旧瀬越駅跡や留萌川を渡る鉄橋の跡などを見ながら、私は歩いて留萌駅まで戻った。

 駅舎に入ると、深川へ戻る16時17分発の各駅停車を待つ列が既にかなりの長さに達している。駅窓口の上方には「ありがとう留萌本線記念きっぷ」と大きく書かれたポスターがあり、駅員氏が忙しくきっぷを売っているのが見えた。
 往路ほどではないがそれでも留萌本線にしては相当数の客を乗せた列車は定刻に発車した。少なくとも鉄路では二度とくることのない留萌の街を眺めていると若干の寂寞の念がこみあげてくる。そしてまたこの周遊旅も終わりに近づいきたのだなと思う。
 帰りにはロングシート席ではあるが座ることができたので、往路でちらちら見ただけのそれぞれの駅舎や車窓をゆっくりと眺める。殆どの駅には客は誰もいなかった。明日萌駅と名乗る恵比島駅で少しの乗降があり、次の石狩沼田駅からはまた高校生がたくさん乗ってきた。
 
 深川には17時15分着、これで留萌本線の旅は終わり、札幌経由で千歳に戻ることとする。次に乗る予定の特急『ライラック36号』への乗り継ぎ時間は時刻表上では4分しかないが、特急は当然のように10分遅れでやってきた。
 札幌までは1時間少しだし、6回までという指定席制限もあるので、この区間は自由席とした。最悪立っての移動でも構わないと覚悟していたが、自由席は3割程度しか埋まっていない。深川を発車すると滝川、砂川といつも名前を間違える川名称の駅を順に過ぎていく。3日前に特急『宗谷』で北に駆け抜けてたところを逆向きに走っていることになる。
 18時ちょうどに岩見沢に着くと、通勤通学客らしき人たちで自由席は一気に満席となった。あと30分足らずで札幌まで着くが、ここで車掌が検札を始める。各駅停車も頻繁に走っているという訳ではないので、定期券のまま特急に飛び乗る客が多いのであろう。

 18時29分にディーゼルの煙と音が大きな屋根に充満する札幌駅に着く。18時37分発の快速エアポートで千歳に向かうつもりだったが、何かしらのトラブルで快速は15分程遅れるとの案内が聞こえる。ようやく快速がホームに滑り込んできて、留萌本線と同じくらい混雑した車内で左右前後に揺られながら千歳駅に辿り着き、3日前に泊まった同じビジネスホテルのベッドに倒れこんだ。

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