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デービット・アトキンソン氏の提唱する最低賃金の引き上げについて


#KENMAYA です。

英オックスフォード大(日本学専攻)卒。ゴールドマン・サックス証券のパートナー(共同出資者)などを経て、訪日外国人旅行客の誘致を提言するなど菅義偉首相のブレーンとして知られるデービット・アトキンソン氏の興味深いインタビュー記事があったので取り上げてみたいと思います。

(※今回は少し長くなります。)

このまま沈みゆく日本経済を救うには、労働生産性の向上しかないと提唱するのが、政府の成長戦略会議の有識者メンバーを務めるデービッド・アトキンソン氏だ。著書「日本企業の勝算」(東洋経済新報社)では、大企業の半分にとどまる中小企業の生産性向上が急務と訴え、最低賃金の引き上げを機に安価な労働力に依存した経営モデルの転換を促す必要があると主張する。
社会保障費の負担が増える中、現役世代の賃金水準がそのまま上がらなければ、生活はますます苦しくなる。賃金をどう上げるのかは死活問題で、そのためには労働生産性の向上が必要だ。
日本では就業者の約7割が中小企業で働く。中小企業に頑張ってもらわないと、大企業だけ生産性を向上させても全体の水準は上がらない。
その際、重要なのは企業の規模だ。「規模の経済」といって経営規模が大きくなればなるほど、生産性が高まるのは経済学の大原則。しかし、日本企業の85%は平均社員数3.4人の小規模事業者で、先進諸国と比べて企業の規模が小さすぎる。
社員3~4人の会社にビッグデータ戦略などできない。連携や合併も含めて中小企業の規模を大きくしていく。淘汰(とうた)ではなく、企業の成長を促進しようと訴えている。
中小企業基本法では、製造業は従業員300人以下、小売業は50人以下などと中小企業を定義し、補助金など手厚い優遇策を講じてきた。このため経営者は優遇策を目当てにし、企業規模を拡大しようとする意欲がそがれている。米国やドイツのように定義を500人まで引き上げるべきだ。
日本の最低賃金は先進諸国で最低レベル。引き上げないと経営者が本来払うべき賃金を支払わず、付加価値の創出額が潜在能力よりも小さい生産性の低い中小企業の経営モデルを温存させてしまう。
日本でもワクチン接種が加速しており、景気は回復していく。昨年度はともかく、今年度は3%以上引き上げていかないと理屈に合わない。今年度、引き上げなければ次に上げるタイミングは来年10月となり、遅すぎる。最低賃金の引き上げは個人消費の活性化や格差是正にもつながる。
コロナ禍の打撃は宿泊・飲食・生活関連業に集中しているが、こうした業種が生み出す付加価値は国全体の5%にとどまる。これら一部の業種には支援策を講じつつ、経済全体のために引き上げは必要だ。
また、最低賃金水準で雇用されている人の大半は大都市圏で働いており、最低賃金引き上げによる地域経済への悪影響を懸念する指摘もまやかしだ。地方創生で支えながら、引き上げるべきだ。


記事のほとんどを引用してしまいましたが、かなり重要なことを言っているのでひとつずつ解説、考察していきたいと思います。


1.労働生産性について


アトキンソン氏が繰り返し述べている『労働生産性の向上』ですが、これは就業者1人あたりが生み出す付加価値額のことで、少子高齢化社会にあっても、労働参加率を上げればGDPの水準を維持することができるとされてきました。(※安倍政権下で行われた男女共同参画、高齢者の就業促進など)
しかし、実際のところ、2019年の日本の1人当たりの労働生産性は8万1183ドル(約900万円)とOECD加盟国中26位で、米国の6割弱にとどまっています。

ではなぜ日本の労働生産性が低水準なのか。

アトキンソン氏は中小企業の多さと低賃金が原因としていますが、わたしはそうは思いません。まず、先進国の労働生産性の高さに着目すべきです。
世界の時価総額ランキングを見てみましょう。

01.Apple/US
02.マイクロソフト/US
03.サウジアラムコ(Saudi Arabian Oil)/Saudi
04.アマゾン・ドット・コム/US
05.アルファベット(Google))/US
06.フェイスブック/US
07.テンセント・ホールディングス/中国
08.テスラ/US
09.バークシャー・ハサウェイ/US
10.アリババ・グループ・ホールディング/中国
11.台湾積体電路制造/台湾
12.NVIDIA/US
13.サムスン・エレクトロニクス/韓国
14.JPモルガン・チェース/US
15.Visa/US

日本企業は36位のトヨタ自動車が最上位です。
このランキングから分かるのは、その企業がどれだけお金を使い、どれだけ世の中に価値を生み出し、どれだけ利益を上げているかの指標でもあります。つまり、「労働生産性の高さ」ランキングでもあるのです。

名だたる日本の大企業のほとんどが圏外ということから分かる通り、必要なのは『大企業改革』なんです。キーエンスやファナックといったロボットや産業機器の世界的シェア率を誇る大手メーカーや、建設機械のコマツ、エレクトロニクスのソニー、キヤノンなどがなぜ圏外なのか、まずはそこから考えなくてはなりません。


2.中小企業について


アトキンソン氏の提唱する「中小企業の経営革新」ですが、これには大きな罠が隠れています。度々わたし自身記事にしてきましたが、中小企業の抱える大きな問題に「後継者問題」があります。

これは経営者の後継者だけに留まらず、技術職にも同じことが言えます。要は、職人が後継者育成に消極的です。理由は単純で自分が苦労して育ててきたスキルを譲渡することが自分にとってデメリット(年齢による定年退職やスキルを譲渡したことによる自分の存在価値の低下)であることを本能的に理解しているからです。

例えばあなたが会社に所属していて、会社の上司から、長年の経験で培ってきたノウハウを新人に教えてやってくれ、と言われて全て包み隠さず教えることができますか?もしくは自身の長年の仕事の経験をマニュアル化し、社員皆で共有することができますか?
それこそ自分の仕事のノウハウは労働対価を得るためのコアな部分であり、それをシェアすることなんてとんでもない。と考える人が多いでしょう。

雇用は椅子取りゲームであり、あくまで今の自分のポジションを誰かに譲り渡すことは、それなりの対価や見返りとなる報酬を約束されなければ誰も率先して行うはずがありません。

中小企業はただでさえ雇用の枠が少ないので、最低賃金の引き上げはさらなる事業規模の縮小によって応えるのが現実です。
中小企業であることのメリットを享受するために事業規模を拡大することをためらう経営者は実際ほとんどいないでしょう。現実的に今の事業自体が中小企業規模であるから必然的にそうなっているだけです。

金回りがよく、次から次へと新規事業を打ち立てて、どんどん事業規模が大きくできる企業であれば、ほとんどの経営者は喜んで大企業にしていくでしょう。


3.最低賃金の引き上げについて


安易な最低賃金の引き上げは先述した通り、中小企業の事業規模の縮小、つまり生産力をさらに落とすことに直結します。
アトキンソン氏は中小企業のM&Aを促進したいのでしょうが、それこそ後継者問題に揺れている中小企業同士がM&Aを行ったところで、経営基盤が強化されるわけでも、生産性が向上するわけでもありません。

また労働生産性の低いサービス業においては、最低賃金の引き上げによって雇用は減り、ロボット化、無人化が推進されることになり、いわゆる雇用の受け皿がなくなります。
企業が求める最低賃金労働者の能力も自動的に引き上げられるため、格差はより明確に、より深刻なものになっていくでしょう。

アトキンソン氏はまた、地域経済に与える影響もまやかしだ、と断じていますが、少子高齢化が進む中、わたしは都市部でもいわゆる「限界集落」の発生を懸念しています。能力が高く高賃金を求める若手の人材はどんどん海外に流出して、都市部ですら働き手がいなくなる事態が起こり得ると考えています。

最低賃金の引き上げをするのであれば同時に、国家プロジェクトとして継承、新規就農プログラムや公務員の受け入れ枠の拡大、廃業予定企業への承継プログラム、失業者向けに手厚い資格取得支援プログラム、あるいはニューディール政策などを実行しなければ、社会不安は一気に拡大することになるでしょう。


ここまで読んで頂き、ありがとうございました。
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