ナルトとヴァイオリンとウクライナ難民の少年 ウクライナ難民取材
2022年、2月24日世界のルールは一変した。
ロシアによる、ウクライナへの侵攻が始まったのだ。
多くの兵士、多くの民間人が戦果により命を奪われ、
かつて、美しかった街は灰色の焼け野原と化した。
上記の写真2枚は取材したウクライナ難民の女性からもらった、現在はロシア占領地シャシティエの親戚の家の写真。彼女の親戚はロシア統治下のシャシティエで、この攻撃されボロボロになった家で生活を続けている。
3年前の平和だったウクライナ西南の都市、イヴァーノ=フランキーウシク
ロシアとウクライナの国境から遥か遠く、ウクライナ西南の都市イヴァーノ=フランキーウシクも戦争により住民は恐怖に包まれることとなる。イヴァーノ=フランキーウシク空港にもロシア軍の爆撃が行われ、サイレンが街に鳴り響いた。サイレンが鳴るたびに住民たちは地下の防空壕に避難しなければならなかった。湿気が多く、カビが生え、寒い地下室で寝なければならなかったのだ。
そして、世界一のヴァイオリニストを目指す少年の故郷の街でヴァイオリンを弾いて過ごす平和な日々は終わりを迎えた。
ヴァイオリン弾きの少年が出てくる記事
2022年4月16日、ウクライナ隣国、ハンガリー首都ブダペスト
俺はイヴァーノ=フランキーウシク出身の少年とそのお母さんにお茶へ誘われて、ブダペストのカフェに訪れていた。
”エレミヤはあなたとナルトの話がしたい。”カフェでGoogle翻訳を使い、ウクライナ語を日本語にした文章を俺に見せてきた。隣でナルトが大好きな少年はニコニコとしている。どれだけ、ナルトが語りたいんだろうか笑。
そんなやりとりをしていると、露出度の高い服を着たパンクなウェイトレスが注文をとりにやって来た。ハンガリー人はなかなか攻めた格好をするものだな。
”ココアはあるかしら?”俺が注文を終えると、お母さんはそうウェイトレスに尋ねた。
”ココアはないわ。”ウェイトレスは無表情だ。
”えーーっ”少年はわかりやすく残念そうなリアクションをしていた。
”ココアはないけど、ホットチョコレートならあるわよ。”少年のリアクションを見見かねたのかウェイトレスはそう言ったが相変わらず無表情だ。、、、てか、ココアとホットチョコレートって違うの?同じだと思っていた。ヨーロッパでは常識なのかな?疑問に思って質問したかったが、ジャーナリストと名乗っておいて常識知らずの馬鹿だと思われたら恥ずかしいのもあり質問せずに黙っていると、、
”ココアもホットチョコレートも同じじゃないのか?笑”少年はそう、大爆笑していた。よかった、違いがわからないの俺だけじゃなかった笑。一安心だ。
そして、ウクライナ難民の少年とのナルト談義が始まった。
”一番好きなキャラはイタチ(ナルトのキャラ)だよ!!”少年はそう語っていた。ナルトやサスケだけじゃなくイタチも知っているとは。
”イタチ、イタチ”お母さんもイタチ、イタチと繰り返している。
”イタチすごいいいやつだよね。俺はペイン(ナルトのキャラ)が一番好きなんだ。”俺がそう語ると。
”ペインかっこいいよね!!ペインの昔の名前ってなんだっけ?。”少年はそう尋ねて来た。ペインまで覚えてるとはなると知ってるレベルでなく、本当にしっかりみたんだな笑。
”ペイン、ペイン”お母さんもペイン繰り返している。
”ペインって、、、確か昔の名前弥彦じゃなかったけ?”(その時は弥彦だと思っていたけど、長門がペインだったはそういえば)。
”そうか、、弥彦だったけ?”少年は首を傾げた。、、、少年本当にしっかりナルトを見ているな笑。
Q"出身地のイヴァーノ=フランキーウシクって今どんな状態ですか?”お茶をしながら、少年とナルトの話をするのもいいが目的の難民取材もしっかりしなければならない。俺は話の合間に少しずつ質問をしようとした。
”そんなことより、ナルトの話をしましょう!!。”俺の質問はお母さんに一蹴された笑。あんま、、話したくないのかなあ、、、辛いこともあっただろうし、、。でも、多分話したくなかったのではなくて、少年が少しでも楽しい時間を過ごせるようにお母さんなりに努力していたんだと今なら思う。
”、、、、、うん、そうですね。、、、ナルトもワンピースも日本のアニメは面白いけど、長すぎじゃないかな?俺が子供の頃からずっとワンピースはやってるよ。ナルトだって、ナルト自体長がすごい長い。なのに、続きのボルトが今もやってるなんておかしいよ。ワンピースはもう読むのしんどいから、早く終わりだけ、どうなったか見たいよ。”俺は日本の漫画に対する正直な感想を述べた。本当に長すぎる。
”えーおわらないなんて最高じゃない?ずっと、ボルトが見れるんだよ?大人になってもボルトが続いてるなんて最高じゃん。ずっと見ていたいから終わって欲しくないよ!!”少年は本当に嬉しそうにそう語った。長すぎる日本の漫画は編集以外誰も望んでいないと思っていたのに、子供はずっと続いてほしいと思ってるんだな笑。
”で、ボルトでね。イッシキがさあ、、、、”少年の熱いボルトとナルトの話は1時間くらい続いた。どんだけ好きやねん笑。楽しそうで何よりだ。
別の日コンサート会場でナルト?かなんか日本の漫画のポーズを披露してくれた少年。
”よかったら、息子があなたにヴァイオリンを披露するわ!!”カフェでのナルト談が終わるとお母さんがGoogle翻訳で日本語にして見せて来た。
”良いの?是非聞きたいです。ありがとうございます。”
優しいハンガリーの人が少年に寄付してくれたというヴァイオリンだ。この少年がどんな音色を奏でるのか是非聴いてみたかった。
少年がヴァイオリンを弾けるよう、ウクライナ難民たちが無料で食事やお茶、カウンセリングなどができるスペースに俺たちは向かった。スペースに向かう道中も”トレーニング、トレーニング!!”と言いながら笑顔で走り回っていた。本当に元気で楽しそうだ。しかし、少年のこの笑顔は優しいハンガリー人のおかげで取り戻せたものだ。
少年は俺がハンガリー国会議事堂の前のロシアへの抗議で出会った頃にはもう元気に走り回っていたが、戦争によりハンガリーへ避難して来たばかりの頃は深い悲しみに包まれていた。
”彼はブダペストに来たばかりの頃本当に悲しんでいてね、、、全く笑わなかったし、走ったりしなかったのよ。戦争によって深い悲しみに包まれていたわ。”後日出会ったハンガリー人の難民支援をしている女性はそう語った。
”えっ?彼は俺が出会った頃から笑顔で元気なイメージしかなかったんですが、そんな時期もあったんですね?。”
”ええ、、最初は本当に落ち込んでいたわ。大好きな街は離れなきゃいけないし、ヴァイオリンを引くこともできなかったから。でも、ある優しいハンガリー人がそんな彼にヴァイオリンを寄付してくれて、ヴァイオリンを弾き始めたらまた笑うようになって、今では走り回っているわ。本当によかったわ。”そのウクライナ難民支援をしている女性は優しいハンガリー人と少年の仲介をした。他にも募金を募り、救急車を購入しウクライナに送っている。もう直ぐ2台目の救急車もウクライナに送れるという。
初めて少年とお母さんと出会った日。お母さんが少年がヴァイオリンを弾いているムービーを嬉しそうに見せてくれたのを思い出した。
”優しいハンガリーの人がヴァイオリンを息子に寄付してくれたから、また息子はヴァイオリンが弾けるわ。”そうお母さんは喜んでいたし、ムービーの少年も嬉しそうにヴァイオリンを弾いていた。戦争は少年の笑顔を一度奪った。少年の心を絶望の淵に落としたのだ。しかし、あるハンガリー人の優しさが少年を救って笑顔にしたのだ。
少年とお母さんがヴァイオリンを引くために連れて来てくれたのはスウェーデン人のオーナーがウクライナ難民のために解放してくれたスペース。
ここではウクライナ難民の人たちは無料で食事を食べたり、お茶やコーヒーを飲むことができ、カウンセリングやアート、ヨガのクラスなどを受けることができる。子供の遊ぶ部屋もあり、子供の劇やダンスなどのイベントも開催されている。スペースはブダペストのウクライナ難民の憩いの場所だ。
そんな、スペースの奥の部屋で少年は俺のためにヴァイオリンを演奏してくれた。
戦争で絶望していた少年とお母さんを笑顔にした、優しいハンガリー人とヴァイオリン
少年はヴァイオリンで美しい音色を奏でる。
聴いているだけで、少年が演奏しているのをみているだけで幸せな気持ちになる。
少年の夢は世界一のヴァイオリニスト
それだけではない、夢は大きく、プログラマーにもなりたいし、学校の先生のもなりたい、夢がたくさんあるのだ。
少年は一番難しい曲も俺のために披露してくれた。何度か間違えることもあったが、それでも一生懸命、ヴァイオリンを奏で、美しい音色を俺に届けてくれた。彼の美しいヴァイオリンの音色が世界中にも、戦場にもどこまでも届いてほしい。そうすればきっと、、、この美しい音色なら、、人間の悪意や世界の理不尽さえも、、、そう信じたくなるほど美しい音色だった。
あるハンガリー人の優しさは、ウクライナで平穏な生活を奪われた少年に笑顔を取り戻すだけでなく、俺に美しい音色を聞かせてくれて、キラキラした少年の笑顔を見せてくれた。優しさが世界をかけめぐればこんなクソみたいな世界でも、、平和に、、良くなる、、、そう信じたい。
しかし、そんな少年がナルトが好きな理由もまさかロシアとウクライナ情勢が関係しているとは俺は思ってもいなかったのだ、、、。そして、お母さんのお姉さんに襲い掛かった悲劇も、、、全てはロシアによるクリミア併合、ウクライナ東部ドネツクやルガンスクでの親ロシアの分離派とウクライナ軍の紛争開始時から、、2014年から全ては始まっていたのだ。
次回ウクライナ難民インタビュー本格スタート
少年がナルトを好きな悲しい理由〜2014年ドネツクと拷問〜ウクライナ難民取材
そして、少年とお母さんが紹介してくれたウクライナ難民のスペース、憩いの場で俺はたくさんの人たちと出会うことになる。
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