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RE-LIFE 第五章② 這い上がる人

長女の目線で綴られたRE-LIFEの概要は過去記事をご参照願います。

過去記事「兼業で健康と自信を取り戻そう」で、小さな兼業(知人へのコンサル)について綴りました。その時のコンサルについて、当時16歳だった長女が、彼女なりの理解で日記に残していました。

その日記をベースに綴った「RE-LIFE 小さなコンサルティング」を掲載します。今回の記事が、少しでも、病気からの社会復活を目指している方の参考になれば嬉しいです。

この話に出てくる「ロックカフェ」は、私が内臓疾患がほぼ完治してきた約5年前、偶然見つけた近所のカフェバーです。私はこのロックカフェで多様で多彩な人々と知り合い、地元コミュニティの一員になりました。

ミュージシャン、美容師、銀行支店長、町会長、大学生達、起業家、パン屋さん、早期リタイア組、ほんとうに様々な人々と知り合い、今に至ります。

そして、ここを拠点に、病気から復帰し始めた私は「小さな兼業」を始めていきました。

③小さなコンサルティング/ある美容師の悩み

父は、ロックカフェで知り合った方から、ある「コンサルティング業務」を受けたようだ。
依頼主は、近所でヘアサロンを経営している「ゲンさん」という方だ。

父は弟達を連れて、ゲンさんのヘアサロンを何度か訪れるうちに、仲良くなったようだ。

ゲンさんって・・・ それ本名? なんというか・・・

ゲンさんは、もともと、大きなヘアサロングループに所属していたが、数年前にグループから独立したとのこと。
ゲンさんの今の店舗は、元々はそのグループ会社が所有していた。しかしゲンさんが独立する際、グループ会社からゲンさんが、その店舗を賃借することになった。

2016年の12月。ある日の我が家の夕食。父が珍しく饒舌だった。

店舗賃料は高額だった?

「ゲンさんから、店舗の賃料について相談を受けたんだよ。僕は一応、賃料相場とかには詳しいからさ。」と父

「ゲンさんは、元グループ会社に支払っている賃料が、相場よりかなり高いのではと感じているんだ。
でも、ゲンさんは見習い美容師として上京してからずっと、そのグループ会社の会長さんにお世話になってたんだって。自分を一人前にしてくれたのも、その会長さんだと。 
だからゲンさんは会長には何も言えなくてさ、高いと思いつつも、賃料を払い続けていて、それが大きなわだかまりになってるみたいなんだ。
ゲンさんからすれば、会長には恩がある一方で、自分も長らく会長に貢献してきて、既に会長には恩を返したという気持ちもあってね。
だから、最近は、恩師と慕っていた会長と連絡もとってないんだって。
ゲンさんは、会長が自分の独立が気に入らず、高い賃料を請求してるんじゃないかとすら感じてるみたい。」


ふーん。 そうなんだ・・・ 賃料の高い安いっていう問題じゃなくて、二人の気持ちの問題って感じだね。

「今度、ゲンさんから店舗の図面や契約書をみせてもらって、賃料査定をしてあげることにしたんだ。」と父。

「それいいわね。 あなたの得意分野だし。」と母。


へえ・・・ あんたにとっては、いいリハビリなんじゃない? 最近、会社では後始末しかさせてもらってないんでしょ?よかったじゃん。

「でもね、僕の初見では、今の賃料は相場よりすごい高いと感じているんだよ。もし査定結果でも高いとしたら、ゲンさんはどう思うんだろうな・・」
と父

本当に賃料が相場より高かったら、ゲンさん、どう思うんだろう・・その後、ゲンさんはどうするんだろう。

父のコンサルティングの結果は・・・

それから、私は「ゲンさん」なる人へのコンサルティングの結果が、気になって仕方がなかった。
今まで私は、父を避ける為、わざと夕食の時間を父とずらしていたが、父の見解を聞きたくて・・・・ 結果、ずらすのをやめた。

そして、とうとう、父が査定結果を話す夕食の時間が訪れた。
その結果は、意外なものだった。

「前に話した、ゲンさんの賃料査定が終わってさ。 さっき結果をゲンさんに伝えてきた。」と父

「どうだったの?」と母

どうだったの? 結果は?

「ゲンさんの賃料は、周辺相場より、かなり安いという結果だった。」
と父。

・・・え? 逆に安かったの?

「賃料自体も、かなり安いし、敷金や更新料も免除されてるし、会長が負担した店舗内装費といった初期投資分も、ゲンさんには一切請求していないんだよ。
会長は、ゲンさんの独立を応援してくれたんじゃないかな?」
と父。

そうなんだ・・・

父の見立てだと、ざっと500万円にもなる初期投資は、全て会長が負担したまま、無償でゲンさんに使用させていた。そして、更新料や礼金もない。

賃料に込められた恩師の想い

ゲンさんが独立する際、会長は出来る限りの支援をしてあげたんだろうと、父は思ったそうだ。
独立には、美容師としての腕だけでなく、経営者としてのセンスも問われる。実際、経営が行き詰まる店舗も少なくない。

多くの店舗を経営し、経営の厳しさを知っている会長は、独立後のゲンさんの負担を少しでも軽減してあげたかったのかもしれない。


この夕食の前、父はゲンさんに結果を伝えていた。その際、ゲンさんは数分間、言葉を発しなかったそうだ。
暫くの沈黙の後に、ゲンさんは、

「有難うございます・・・ 会長に、なんというか、不義理なことをしてしまったかもしれないですね。」
と父にいったそうだ。

私は夕食をとりつつ、興味のないふりをしていたが、父の話に聞き耳を立てていた。
その夜の父の話はそこまでだった。

その夜は、2016年12月24日のクリスマスイブ。

賃料に込められた会長からのメッセージをゲンさんは、どう感じ取ったのだろうか?

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