見出し画像

患者さんの歯を1本でも多く残すために【ドクターズ・インサイト】

医療の最前線で活躍するドクターたちの素顔と、その信念に迫る「ドクターズ・インサイト」。第一回目は、歯科医師であり、革新的な歯ブラシの発明者でもある大澤広晃先生にインタビューしました。大澤先生の独自の医療哲学と、患者に寄り添う姿勢に迫ります。


Q.磨き過ぎを光って教える歯磨きを開発されたと伺いました。

大澤:独立開業から17年になるのですが、長年通ってくださる患者さんを診ているなかで、歯が綺麗で虫歯もないのに知覚過敏の方が多いことに気がつきました。

そしてこういう方ほど「真面目」な性格の傾向にあります。
「磨けば磨くほど綺麗になる」と意識してしまうと、長時間強い力で磨いてしまうようです。

Q.歯の磨き過ぎもよくないのですか?

大澤:歯磨き粉には研磨剤が入っているので、強い力で長時間磨くと歯の根元の弱い部分に細かい傷をつけたり、歯茎を傷つけたりします。それが知覚過敏の原因になるのではないかと考えています。

では、どうするか。

磨き過ぎを防ぐには、まず力の入りすぎを可視化することが大切だと気がついたのです。たとえば爪を切るとき、目でみることができなかったら「深爪」してしまいます。歯磨きも同じなのです。

自分の歯を磨くときの力が強いか弱いかの基準がなければ、正しい歯磨きはできませんよね。

Q.光る歯ブラシを使うとどうなりますか?

大澤:取り外しのできる歯ブラシの根元にスイッチがあり、一定以上の力がかかるとLEDが光って力の入りすぎを教えてくれます。似たような製品はいくつかありますが、光る歯ブラシの特徴としては使用者の「意識を変える」ことにあります。

この歯ブラシは毎日使用する必要はありません。
週に1回とか、月に1回使っていただくことで「自身の歯磨きが適正な力加減か」を知ることができ、意識もリマインドされて磨き過ぎを予防します。

ブラッシングの性能は大手メーカーが競い合っていますので、私としては「光る歯ブラシ」で生活者の意識を変えられたらと思っています。

Q.日々の治療で意識されていることを教えてください。

大澤:私は「基本的に歯を抜かないで、患者さんの歯を1本でも多く残す」ことを大切にしています。人間は必ず老いていきます。それとともに歯も老いていく。それに寄り添っていく、そんな歯医者になりたいと思っています。歯が老いていくといっても、けっして醜く老いていくわけではありません。

Q.大澤先生の治療ではインプラントを第一選択にしないと伺いました。

大澤:インプラントは素晴らしいテクノロジーが結集されたものです。しかし、人工物であることから様々な意味でバランスが失われる可能性があります。

例えるなら、自然豊かな草原に、突然高層ビルを建てるようなものです。想像するだけでもアンバランスなのが分かると思います。
口腔内でもそのようなミスマッチが発生し、硬性の高いインプラントが周辺を傷つけることがあります。

自然な歯は、力がかかると「あそびの動き」が発生して力を吸収する仕組みになっています。インプラントは顎の骨に取り付けていることから、そのような「あそび」がなく、結果として弱い部分にしわ寄せがいくことで、別のトラブルを生むこともあります。

インプラント治療はあらゆる選択肢の一つで、突出して優れているとは考えていません。

Q.歯を美しくしたいというニーズは年々高まっていると聞きます。

大澤:もちろん、自分を美しくみせたいというのは人間の心理です。ただ、最近は歯に限らず、なんでも「美しく綺麗でなければいけない」という風潮が強過ぎるように感じています。

私のクリニックにも長年通ってくださる患者さんが大勢いらっしゃいますが、適切にケアを続けた患者さんの歯は年齢を重ねたいい歯になっていきます。そうした美しさもあると私は思っています。

Q.SNSからの質問です。「子どもが歯磨きを嫌がります、どうしたら良いでしょうか」

大澤:まず、歯磨きは皆さんが思っているよりも頑張らなくていいのです。口腔内には、数億個の細菌がすみ着いています。歯磨きをどれだけ長くしようと、それらを完全に取り除くことはできません。

もちろん減らすことはできますが、そこを過剰に頑張ることによって、歯茎に傷がつくと知覚過敏など別の問題が発生してしまいます。

私は磨き過ぎの患者さんに「歯磨きを毎日必ず2~3回するならば、1回をなるべく短時間にして下さい」とお伝えしています。歯磨きは、上手な人ほど長時間、下手な人ほど短時間の傾向があります。本当は逆ですけどね。

小さなお子さんなら尚更、歯磨きが嫌いにならないようにすることの方が、長期的な目線では大事だと考えています。ハミガキ自体を嫌いになってしまうと、お子さんにもママ・パパにも辛い作業・ストレスのある時間になってしまい、結果として歯磨きの回数が減ってしまいます。

私の患者さんでは、光る歯ブラシでお子さんの歯を磨き、「今日は2回光っちゃったね」とか「今日は1回も光らなかったね」など、ゲーム性を持って取り組まれている方もおられました。

Q.今後の展望を教えてください。

大澤:まずはようやく製品化できた「光る歯ブラシ」を、より多くのひとたちに届ける仕組みをつくることですね。毎日の歯ブラシ時間が、少しでも楽しくなれば嬉しいです。将来的にはユニークな機能を備えた歯ブラシをつくっていきたいと思っています。

Q.アイディアがどんどん湧いてくるのですね。

大澤:歯科医は基本的に、患者さんに対して現在発生している症状や悩みに対して治療を行っていきます。もちろんそれが使命ですし、正しいことです。ただそのため、原因段階の歯磨きや歯ブラシのことまでは、中々意識が向かない傾向にあると思います。

私はどうしても、患者さんが家庭に戻ったときのことを考えてしまうのです。毎日の歯磨きをどうやったらうまくやってもらえるか。

そればかり考えてしまいますし、それが大事なことだとも思っています。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

@Scrum Editor

この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?