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2020年9月開催「ラテンアメリカ・カリブ地域 国連ビジネスと人権地域フォーラム」を予習〜先住民族からビジネス界へのメッセージ

[イベント・セミナー情報]#ビジネスと人権 #ラテンアメリカ #カリブ #国連会議

今年で第 5 回となる、「ラテンアメリカ・カリブ地域 国連ビジネスと人権地域フォーラム(LAC BHR フォーラム)」2020年9月7日から11日まで5日間にわたり開催されます。

ビジネスと人権に関し、ラテンアメリカ・カリブ地域に特化したテーマで、人権侵害の被害者(先住民族や労働者団体など)、人権NGO、弁護士、学術機関、メディア、企業、政府、国際機関などの専門家が参加する会議が、いくつも同時並行に開催されます。

本フォーラムの目的は、ビジネスに起因する人権侵害を防止・対処する上での傾向、課題、グッド・プラクティスを紹介すること、そして、それぞれのアクター(企業と被害者やNGO)が対話することです。

本記事では、昨年までの議論を振り返りつつ、今年の見どころを紹介します。

特徴1.  今年はオンラインで開催されます

LAC BHRフォーラムは、第1回は2013年8月にコロンビアの第2の都市メデジンで、第2回(2016年6月)・第3回(2017年1月)・第4回(2019年9月)はチリの首都サンティアゴで開催されました。

今年は新型コロナウイルスの影響で、オンラインでの開催です9月8日と9日のパラレルセッションには一般参加も可能で、スペイン語と英語の同時通訳付きで開催され、世界中のどこからでも視聴可能です。(視聴には申込が必要です。こちらへどうぞ)

プログラム・登壇者は、確定次第(おそらく直前1週間〜3日前くらいで)、こちらのウェブサイトで公開されます。

特徴2.  今年のテーマは、「困難な時代の責任あるビジネス慣行:課題をチャンスに変える」

新型コロナウイルスの流行は、格差と脆弱性を悪化させ、ラテンアメリカ・カリブ地域に前例のない影響をもたらしています。そして、あらゆる感染症対策の中心に「人」と「地球」を捉え経済的・社会的な影響を考慮し、包括的で責任ある持続可能な復興を目指すことが求められています。

この文脈で、本フォーラムでは、新型コロナウイルスや気候変動のような緊急の地球規模の課題への対応を定義・実施する際に、人権を尊重した持続可能なものにするために、ビジネスがどのように貢献できるかを探ります。

特徴3.  地域フォーラムの後は、世界フォーラムが開催される

本フォーラムの結果は、2020 年 11 月 16から18 日に開催される「国連ビジネスと人権フォーラム」にインプットされます。これまでスイスのジュネーブで開催されていましたが、今年はこちらの会議もオンラインで開催される予定です。(詳細はまだ発表されていませんが、随時こちらでアップデート予定)

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(出典:OHCHR

これまでの議論まとめ

第4回フォーラムでは、20 カ国から 230 名以上の参加者が集い、主に5つの分野が議論されました。

作業部会の報告書をもとに、要旨を以下にまとめます。

(i) 国の保護義務
NAP策定プロセス:市民社会、特に労働者、先住民族、女性、子どもの参加強化の必要性と重要性、政策の一貫性など。
国家の義務:公共調達における人権デューディリジェンスやFPIC原則、ビジネスと人権に関する指導原則の徹底実施、中小企業支援や脆弱層の雇用創出を目指す。
国営企業の義務:民間企業の模範を示す主体になるべき。
(ii) 人権尊重の企業責任
鉱業分野:リチウムなどの鉱業に関して、社会的・環境的紛争が増加。人権影響評価に関する情報へのアクセスと市民の参加が重要。
エネルギー転換:先住民族の人権を尊重したエネルギー開発。
中小企業:政府や大企業は、中小企業で働く人びとの人権に配慮。
人権デューディリジェンス:大企業だけではなく中小企業も実施し、より情報開示すべき。国ごとの文脈、言語、文化、ジェンダーや先住民族、実際の影響と潜在的な影響などを考慮した実施メカニズムの強化(罰則も含む)。
(iii) 効果的な救済メカニズムへのアクセス
被害者中心主義:文化的、ジェンダー的、利害関係者の意思決定の特性を考慮した司法的・非司法的な救済へのアクセス。
賠償メカニズム:経済的損害と合わせて、道徳的損害(感情的、精神的、文化的影響)も認識すべき。人権デューデリジェンスの結果、賠償を適用する事例の少なさが課題。産業別のメカニズムに関して、詳細調査の必要性。
OECD多国籍企業行動指針各国連絡窓口:過去の通報件数は20件以上。人権侵害事件の情報機密の徹底や人権擁護者保護の必要性。
(iv) 気候変動
パリ協定:人権について言及されているにもかかわらず、気候変動対策の設計と実施において、体系的な人権尊重のガイダンスが限定的。エネルギー転換に関しては、電力セクターが重要。
(v)重点課題
人権擁護者:脅迫、暴力、犯罪化、迫害の状況に直面したアマゾンの先住民族のリーダーを迅速かつ効果的にケアするためのメカニズム実施の重要性。
先住民族:権力の不均衡や国家の義務不履行により、暴力やコミュニティの分断が多発。水、土地、領土、自然資産に関する権利が侵害。
女性:女性の経済的エンパワーメントを強化。
子ども:NAP策定プロセスへの子どもの参画。ビジネスにおける子どもの権利に関するデューデリジェンスの徹底。
LGBTI・障がい者・移住者:上記と合わせて脆弱層として認識し、企業に適切な対応を促す。

OHCHRによれば、ラテンアメリカ ・カリブ地域の大企業の約68%が、サステナビリティに関する報告書に非財務情報を公開していると言われます。にもかかわらず、人権デューデリジェンスに関する報告内容が不十分であることが課題です。

また、市民社会や先住民族リーダーの声として、「ビジネスと人権に関する指導原則の条約化」を支持する意見が上がっており、ラテンアメリカ ・カリブ地域で活動する企業への人権に関する取組みの情報開示要求が高まっています。

今年の見どころ

1)救済メカニズム(苦情処理メカニズム)へのアクセスを促進

「ビジネスと人権に関する指導原則」のもとでは、人権侵害の被害者が救済メカニズムにアクセスできる環境が必要ですが、現状、国家の義務としての司法システムも、企業の義務としての非司法システムも十分に整備されていない、そして、影響のある人びとに適切な窓口が周知されていない、という課題があります。ラテンアメリカ ・カリブ地域でも課題なので、企業側の好事例の発表は見どころです。

2)「人権擁護者(Human Rights Defender: HRD)」の保護対策

ラテンアメリカで頻発する環境活動家や人権活動家などの「人権擁護者」に対する暴力に関して、彼らを保護するために、政府や企業が取り組むべき対策に関する議論も注目です。

3)気候変動とビジネスと人権の関連性

未だ認識されにくい、「気候変動」と「ビジネスと人権」の関連性について、気候変動の影響を受けやすく、それによって企業とコミュニティ間の紛争が多発しているラテンアメリカ・カリブ諸国のケースは要注目です。そこから、企業として今後の対策を考えることをお勧めします。

ラテンアメリカに特化した課題だけではなく、世界共通の課題も議論されますので、是非オンラインで参加してみてください。

※ラテンアメリカ・カリブ諸国の国別行動計画(NAP)の策定状況に関しては、別の記事にまとめていく予定です。

Social Connection for Human Rights/鈴木 真代

<参考資料>
●OCCHRラテンアメリカ ・カリブ地域オフィスウェブサイト内、ビジネスと人権フォーラム[V Foro Regional sobre Empresas y Derechos Humanos para América Latina y el Caribe (Semana virtual)]に関するページ
●OHCHRウェブサイト内、ビジネスと人権フォーラム[9th Annual Forum on Business and Human Rights]に関するページ
Asamblea General, Naciones Unidas, Consejo de Derechos Humanos 44 período de sesiones, "Cuarta Consulta regional para América Latina y el Caribe: Mirando hacia el futuro: acciones para fomentar una conducta empresarial responsable: Informe del Grupo de Trabajo sobre la cuestión de los derechos humanos y las empresas transnacionales y otras empresas"(A/HRC/44/43/Add.4, 2020年6月8日リリース, 国連人権理事会第44回、ビジネスと人権作業部会報告書)

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