【おすすめ?ラテン語教材】『英語とラテン語と君と』(北星堂)はすべてが規格外で、よほどな語学好きでないと手が出せない!?
先日のラテン語入門書の話の続き、ひさびさに「オススメの外国語教材」のほうの話題となります。
が・・・この本を紹介してしまって、果たしていいのかどうか迷います(笑)。
こんな本があると知った途端に「語学というのは極めるとここまでアートな世界に行くのか!」と開眼してしまうのか、「ドン引き」する人のほうが多いのではないか?
でも、私が面白いと思ったものは、よしんばドン引きされても一回はnoteに記事をあげておくのが、やはり正しいのではないか、とも思いなおし。やはり、ご紹介いたします。
本日の結論としては、「語学書というジャンルにもアヴァンギャルドがあるのだ!」となりましょうか。
菅沼惇先生の『ラテン語-英語とラテン語と君と』(北星堂)
こちらがその本なのですが、いやもう、凄い本なのです。
タイトルを見たかぎりでは、「お、英語とラテン語との関係を解説してくれる本なのかな?」と思いますよね。そして英語の上達に悩んでいる人が、うっかり、「英語の難しいところを、ラテン語からの発展の歴史、という背景から解説してくれる本なら、英語の勉強にもよいかもね!」と開いてしまうかもしれません。タイトルの中の「君と」というワードが、なんだか敷居が低い入門書の雰囲気を漂わせていますしね。
私も、てっきり、その手の本かと思って、手に取ってしまったのですが、開いてみてすかさず異次元に飛ばされました。
まずこれは、コテコテのラテン語の学習書となります。
ただし、ラテン語がどのように、現代のさまざまな言語に派生していっているか、を深いレベルで理解できる学習書となっています。
ハイ、英語だけじゃありません。「現代のさまざまな言語」です。
ドイツ語も、フランス語も、イタリア語も、ギリシャ語も、「ある程度、みんな知ってるよね?」という前提で、ボカボカ出てきます。なんてハードコアな!
いちおうクイズやコラムも豊富な語学書なのですが…
いちおう、対象は学生ないし入門者を想定してくれているようで、以下のような、楽しいクイズもいろいろ掲載されています。「人間のカラダの部位を示すラテン語単語を探してみよう!ヒントは右側!」というやつとか。
菅沼惇/『ラテン語-英語とラテン語と君と』(北星堂)
クイズの意図は、すごくよくわかります。「英語のlanguage(言語)やlinguistics(言語学)とかいったコトバの語源だとすると、lingua=舌かな?」とか、「歯医者さんのことをデンティスト、というから、dens=歯じゃないかな?」とか、そんなふうに、読者にあれこれ想像しながらクイズを解いてもらい、ラテン語に入門してもらおう、ということでしょう。「『ナーバスな』という和製英語があるから、nervus=神経かもしれない」とか。
しかし、なんとこれが冒頭、第一章の内容なのです。かなり「言語そのものが好き」な人でないと、これは敷居が高い!
そうなのです、この本、そうと書かずに、実際はかなり読者を選んでいます。
コトバ遊びとか、世界の諸言語の関係とか、「英語とフランス語のこの単語どうしはすごく形が似ているよね、何か理由があると思わない?」という疑問とか、そういうものに食いつく稀有な言語マニアを引き寄せ、「こういうネタが面白いと思わない読者は早々にページを閉じよ」と厳しく峻拒しているようなところがある!
でも、ラテン語の教本としては、伝統的に正しい態度なのかもしれない、とも思ったり。読者にまったく優しくないこの潔さはすごい。
なにせ、肝心の、「ラテン語と英語の関係」という話題、「英語のcontainという動詞は、con + tainと分解すると、ラテン語から説明できる」といったような話は、最終章に出てくるのです!そこまで行き着けなかった読者の屍の山を越えたものだけが、タイトルにある、「英語とラテン語と君と」の『君』に該当する人になれるのですね。
それよりも何よりも、スタイルがすごい!
だが、これでは話は終わりません。
この本、書かれている日本語のスタイル自体が、言葉遊びのラッシュになっているのです!
たとえば序文の「著者の自己紹介」のところは、以下のようにサラリと書かれています。
今日迄の私のその入力。教養部「ラテン語入門」(4単位)を源に、のちの英語学研究に光と影の諸々のラテン語句文遭遇・蓄積で学生へ熱烈教育⇒驚愕の出力。学問も熱中愛;エロス。(菅沼惇/『ラテン語-英語とラテン語と君と』(北星堂))
「い、いきなり、なんだ?!」と戸惑ってしまいつつ、よーく読むと...。
たしかに、だんだん、読めてくる。
これはおそらく、
「今日までの私の言語学者としての経歴(「入力」!?)。大学の教養部でラテン語入門という4単位の講義をやっているぞ。それを基に、英語学の研究をやっているぞ。ラテン語が英語にどういう影響を与えたかという研究をベースに熱心に学生を教育(「出力」!?)しているが、驚かれているかもしれないね。私自身は学問大好き、情熱をもってやっています!」
と言いたいのでしょう。でも、なんで語学の本を読んでいるつもりなのに、地の日本語文に逐一、暗号が仕込まれてくるのだろう?!
しかし含まれている語学の知識は圧巻の一言!
もはや「わざと読みにくくしている」としか思えない、実にイジワルな本。でも、がんばって読んでいくと、含まれている情報は、すさまじいのです!
たとえばラテン語のアルファベット表記について、「英語しか知らない読者は大混乱でしょうが、ドイツ語をやっている人なら8割、フランス語をやっている人なら6割が、初見で理解できるでしょう。フフ」みたいなことが書いてある。少なくとも表記については、ラテン語との関連ではドイツ語有利、というのは、この本に指摘されるまでまったく気づかなかった観点でした。それにしても「フフ」ってのはなんですかw、ともツッコミつつ。
著者の菅沼先生は、ネットでも続々論文を出している、英語史の泰斗。言語学を熱意をもって伝える、大学の先生です。
それにしても、この先生の下についた学生さんは、あれこれ難解なクイズを出されたり、試験がハードすぎたり、かなり大変なのではないでしょうか、と勝手に推測しつつ!
まとめ:つまりラテン語とか古代ギリシャ語をやるというのは、最終的にはこういうことだ!
私も逐一、外国語好きであることを公言しておりますが、いわゆる「TOEICで990スコアを目指して日々勉強している」ような人とは違う人種だと思っています。
外国語に関する資格試験で何点をとるか、とか、「ビジネスで使えるようになる」とかいった実益には、ほとんど興味がない。あるいは、興味がないわけではないが、そんなことをしている時間がないほど、次は〇〇語、その次は〇〇語と浮気が続いてしまう、と言いましょうか。
そして今回ご紹介した菅沼先生の本のようなものにハマッてしまう私のような人種は稀有なのかもしれない、と自分でも心配になりつつ、いっぽうで多少でも似た性向の人はきっと探せばそれなりの比率でいるはず、とも夢見て、こういう本も紹介させていただいた次第でした。
ラテン語や古代ギリシャ語の話題にからめた結論を出しますと、
「へえ、こういう話、面白そう!」と思った方こそ、ラテン語や古代ギリシャ語のような「実人生では絶対つかわない古代のコトバ」を勉強してみてください!いろんな意味で世界の見え方が覆り、生半可なカルト宗教や自己啓発なども色あせるほどのハイな世界に到達できるでしょう!
ですが、これから大学に進む人が「ラテン語を、古代ギリシャ語を、四年間やってみようかな」と思っているのであれば、事前に、よくよく親御さんとはご相談くださいね。いったん行ったら、引き返してくるのが大変な世界と相成りますので、、、!
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