2021年最新の都市型農業について徹底解説!
スーパーで野菜を栽培する?究極の地産地消の形
スーパー店内にある「畑」で栽培されたハーブをその場で販売する。海外の事例が、日本でも見られるようになっています。
ドイツの屋内都市型農業のスタートアップ、Infarmが2020年2月に、アジア初の拠点として、東京都にInfarm-Indoor Urban Farming Japan株式会社を設立しました。日本での事業展開にあたって、東日本旅客鉄道株式会社(以下、JR東日本)と提携しており、JR東日本傘下の株式会社紀ノ國屋の店舗にスマート栽培ユニットを導入し、現在では、東京都内を中心に国内の6店舗のスーパーで野菜の販売を行っています。
出典:crunchbase Infarmページ
Infarmのように、世界の人口増加に伴う食糧危機に対するソリューションとして、都市型農業が注目されており、各国が取り組みを進めています。都市型農業とは、需要や働き手が十分にある、大都市や大都市近郊の限られた土地で、高効率に行われる農業のことを指します。
さて、今回のnoteでは、私たちが事業開発の中で取り組んでいる、重点テーマ【農業】【医療】【教育】の中から、【農業】を取り上げ、都市型農業の事例や、現在注目されている「アクアポニックス」という技術について、さらに、その今後の展開についてご紹介します。
都市型農業により、限られた土地で植物を育てることができる
都市型農業のメリットとして、消費面では「消費者ニーズへの対応」、そして流通面でも「都市から近いため、流通コストを下げられる」ことが挙げられます。一方で、デメリットとしては、「農地面積が限られているために、大量生産に向いていない」というものがあります。
農地面積の課題を解決するために、垂直栽培が行われることがあります。垂直栽培とは、土地に対して垂直に積み重ねられた状態で栽培される農法であり、この技術により、作物は都会の限られた土地でも効率的に生育させることができます。そして、垂直栽培の中でも、植物が植え付けられる素材によって、水耕栽培、ポリエステル培地、エアロポニックスの3つに分類できます。
図のように、都市型農業に用いられる技術は多岐に渡ります。
最近では、究極のエコ農業として、「アクアポニックス」が専門家の間で関心を集めています。アクアポニックスとは、既存の水耕栽培と、魚の養殖を組み合わせたもので、従来の都市型農業に比べて、水資源のロスが圧倒的に少なく、また、農薬の使用も格段に抑えられるという特徴があります。
さらに、Report Oceanが発表した最新の調査によると、2017年で5000万ドル程度のアクアボニックスの世界の市場規模は、2026年までに10億1900万ドルまで上ると予想されています。
究極のエコ農業「アクアポニックス」とは
水産物の養殖の「Aquaculture」と、水耕栽培の「Hydroponics」からなる造語で、1980年頃アメリカで始まったのが発祥だとされています。現在では、日本だけではなく、ヨーロッパやオーストラリアなど、さまざまな国で実践されています。魚の養殖と植物の生育(主にサニーレタスなどの葉物野菜)を同じシステム内で行う栽培方法であり、次の図のように、システム内に水を循環させることによって、水資源の大幅な節約や、農薬の不使用を実現しています。このシステムを使用することで、サステナブルに食物を生産することができるため、環境保全の観点で注目を集めています
日本国内では、株式会社プラントフォームや株式会社アクポニが、アクアポニックスの生産としては大手で、それぞれ、生産物の販売や、家庭用アクアポニックス用ミニキットの販売、アクアポニックスの参入支援サービスを展開しています。株式会社プラントフォームは、2020年の3月に株式会社メタウォーターから1.9億円の資金調達を獲得したことでも注目を集めており、企業のESGの観点からも、アクアポニックスが注目を集めていることがわかります。(参考:https://www.kankyo-business.jp/news/024443.php)
次に、アクアポニックス事業導入のメリットとデメリットについて、ご説明していきたいと思います。
●アクアポニックスの事業導入のメリット
①環境負荷が低い
水を捨てることがなく、循環させて使用できるため、環境負荷が少ない。
養殖の水槽も、植物によって清潔に保たれるため、廃棄物が従来よりも少ない。
②有機栽培で生産ができる
魚の廃棄物を養分として、植物を生育させるため、農薬を使わずに栽培することができる。
③生産性が高い
食物栽培において、アクアポニックスは、露地栽培のように、植物が土をかき分けて成長する必要がないため、露地栽培の2.6倍もの生産性がある。
④小さい面積でも栽培が可能
垂直栽培で、土地に対する生産効率が高く、家庭用キットなどもあるように、小さい面積からの栽培が可能。
●アクアポニックスの事業導入のデメリット
①販売価格が低い
現在アクアポニックスの認知度が低いため、アクアポニックス産の野菜がブランディングできていないため、付加価値を生み出せず、露地栽培で生産された値段と同じ価格で販売されることが多い。
②初期投資が高い
露地栽培と比較して、システム導入のための費用が必要なため、初期費用が高い。
また、実際の運用までに、実証実験が必要なため、費用回収するのに時間がかかる。
③淡水魚しか育てられない
システム上、淡水魚しか育てられない。日本では、海水魚に比べて淡水魚の需要があまり高くない。
④病害虫対策が必要
有機栽培のために害虫対策が必要になる。
【独自予想】アクアポニックスの今後の展開について
アクアポニックスの世界市場は、これからも大きく拡大していくことが予想されますが、国内では当面、アクアポニックスのブランディングが各企業の課題になっています。
アメリカでは、アメリカではアクアポニックスで採れた生産物に対して、USDA(オーガニック認証)の取得が認められており、アクアポニックス産の生産品は、その質の高さから、通常生産品の価格の1.5〜2倍ほどの価格がつくのに対して、日本では、比較的安価で買取されます。そのため、各社は、生産販売以外の栽培キットの販売やワークショップ、参入支援サービスなどのポイントで収益化をしています。しかし、競合が多くなったり、アクアポニックスの生産量が多くなるにつれて、ワークショップや農場設営コンサルタントの価値が下がってくるため、より生産販売での収益化が重要になってくることが考えられます。
日本では、水耕栽培よりも土耕栽培で生産された食物を好む傾向にあります。その背景には日照時間の不足などの懸念や、土耕栽培の方が力強く元気な植物ができるという考えがあるようです。したがって、今後のブランディングの課題として、アクアポニックス産の生産品の品質を、農場内レストランなどの取り組みを通して、アピールしていくことが今後の鍵となると言えるでしょう。
国外に目を向けると、このアクアポニックスの生産方式は、特に、生産のための土地がない地域、あるいは水資源が乏しい地域との相性が良いです。実際に、中国・台湾・シンガポール・マレーシア等の国でもアクアポニックスが徐々に導入されています。そして、今後、普及していくにあたり、葉物野菜だけではなく根菜を栽培したり、販売生産以外での収益割合を増やしたりなど、その地域の食文化や農作物販売に合った生産方法や収益方法が必要になります。
さいごに
今回は都市型農業、そして特に今注目されている、最新の都市型農業であるアクアポニックスについて取り上げました。今後、アクアポニックスが他の国々に展開されていく様子に注目しても、面白いかもしれません。
今後も皆さんのビジネスのヒントになるような記事をご紹介していきたいと思います。それではまた次回お会いしましょう。
出所
1. PRタイムズ 「アジア初!店内で育てられるInfarm(インファーム)のハーブ・野菜が都内スーパーマーケットで販売開始」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000003.000070560.html
2. Crunchbase infarmページ
https://www.crunchbase.com/organization/infarm
3. NEWS CAST 「世界のアクアポニックス市場は2026年までに10億1900万ドルに達する見込み」
https://newscast.jp/news/7409825
4. 株式会社プラントフォーム ページ
https://www.plantform.co.jp/
5. 株式会社アクポニ
https://aquaponics.co.jp/
トップ画像出所:https://www.afpbb.com/articles/-/3285783?cx_part=search
スライド内画像出所
・https://www.flickr.com/photos/nikunoki/38459770052/
・https://www.vogue.co.jp/change/article/change-challenge-recycled-fiber-soil-sakura-karugane
・https://smartagri.jp/p/173/
・https://diamond-rm.net/management/75713/
・https://aquaponics.co.jp/about-aquaponics/