マーケティング・リサーチ3 定量分析と定性分析

以前も記しましたが研究者はあまりフレームワークを使用しません。分析対象を見て、どのような分析が必要なのかをすぐに網羅的に判断するからです。これは特に職務に熟練している方なら、どんな仕事でも皆さん同じなのではないでしょうか。

さて、マーケティング・リサーチを行う際にビジネスフレームワークを使用する時、実は決定的な問題が起こる可能性があります。それは多くの人に馴染みのあるフレームワークが、定性的な分析であるという点です。
僕たちが行う時は、冒頭にも述べた通り必要な分析項目を網羅しています。例えフレームワークに当てはめるとしても、一般的に説明されている項目に関係なく考えます。その時最初に必ず行うのは定量分析です。

ここで、定量分析と定性分析について説明しましょう。
定量分析とは、文字どおり「量的」な分析です。結果は全て数字で求められます。一方、定性分析は数字で表さない「成分」や「特性」の分析です。
定量分析は、客観性が極めて高く、見た人の個人的なブレがありません。予測性も高く、的確な行動判断をすることができます。
定性分析は人の感情や考え方など、数値では表せない特徴を理解することに長けています。

例として人事評価を挙げたいと思います。
特に営業力などのテクニカルスキルであれば、成績は数値で表すことができます。売上高や契約数を見れば一目瞭然です。一方でコミュニケーションなどのヒューマンスキルは、数値以外の判断が必要になります。

つまり定量、定性両者の要素を総合的に判断しなければ、正しい評価はできません。

マーケティング・リサーチでも市場や企業、製品・サービスの現状を正確に把握するためには、やはりや定量分析が不可欠です。むしろ定量分析なしに判断することは不可能と言うべきでしょう。
フレームワークを使用する時でも、僕は必ず定量分析の内容から記入します。例えばSWOT分析であれば、客観的に判断するため外部環境から、つまりTOWSの順に記入することが望ましいのですが、定量分析の結果が記入されていれば、定性分析の結果を記入する場所を間違うことはありません。

まずは定量分析ありきなのです。

よく「数字に表せない情報が大切」という意見を聞きますが、ビッグデータやAIが注目されている現在、あらゆるものが数値化されています。むしろ数値化された情報の分析から行う方が確実性も高いでしょう。
「マーケティングリサーチは誰でもできる」で記した通り、マーケティングリサーチは、1次情報と2次情報に分けて分析します。1次情報はそれぞれの会社内に蓄積された情報です。例えば個人商店でも、レシートや売上帳簿、仕入伝票、支払い伝票などがあるはずです。それだけでも膨大な情報が含まれています。
2次情報は外部情報ですが、中小・零細企業の事業に必要な情報を得ることはそれほど難しくありません。実はこの時役に立つのがフレームワークです。様々なフレームワークの項目に従ってデータを収集すれば、情報の出所さえ間違えなければ十分な情報を得ることができるでしょう。実際に僕が博士論文を書いた時、論文を書く時など、ほとんどインターネットは使用していませんし、特別な方法で集めた情報もありません。
大学では経済情報処理という科目を担当しました。この時はコンピュータ教室を使用しましたから、インターネットを使用しましたが、行政や企業などの情報源から適切なデータを収集し、Excelを使用して表やグラフなどにまとめ、内容を文章にするというものでした。学生さんの中には、とても面白い分析がありました。

肝心なのは、「多い・少ない」とか「増えた・減った」「強い・弱い」といった形容詞で表す内容を数値化して証明すればよいのです。そこから特徴的な現象を抽出することで、今後の戦略の根拠を得ることができます。またこれらを踏まえることで、定性的な情報に客観性がもたらされます。
ここまでの分析でも心配はいりません。経済性分析を行わなければ、中学1年生までの数学で十分ですし、Excelの基本的な操作で可能です。

定性分析も勿論必要です。しかし実は定性分析の方がとても難しいです。
定性分析を適切に行うためには、まず分析の背景となる理論が必要になります。例えばマーケティングの講義で、ポジショニングの説明する際、競争優位を確立する特徴として以下の例を挙げます。

・重要性  :自社の特徴によって、標的消費者に高価値のベネフィットを
       もたらす。
・差異   :自社が際立った方法で特徴を示す。
・優位性  :顧客が同様のベネフィットを得られるとみられる他の方法に
       対して、自社の特徴が優位になる。
・伝達性  :自社の特徴が購買者に対して伝達可能であり、認識される。
・先制性  :競合他社が簡単に自社の特徴を真似できない。
・入手可能性:購買者が自社の特徴に対して費用を支払うことができる。
・収益性  :企業がその特徴を導入し、利益をあげることができる。

それぞれの特徴については、それぞれ個々に色々な理論や特徴があります。これらを全て考えながら、市場特性や経済性分析、行動経済学分析、政略的特徴、資源分配など、様々な視点から演繹的に分析します。
つまりマーケティングにおける定性分析は、経営学や経済学、マーケティングの理論を基に演繹しなければなりません。

しかし多くの事例を見ると、極めて主観的で論拠のない分析結果が目立ちます。とはいえ、インターネットなどでは、こうした説明はほぼ見られません。
実際の業務でもこうした質問が多く、結局専門的な知識が必要という結果になります。

定性分析と定量分析はセットで考えて頂くことが望ましいです。そのうえで付け加えて言うのであれば、定量分析の方がとても簡単で、すぐに役立つと考えて下さい。

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