学ぶということ 大人の学びがなぜ難しいのか

先日ある方から、マーチャンダイジングについて質問を受けました。職場の前任者の方が作成した資料が腑に落ちないということでした。

この方は色々なことについてしっかり勉強されている方で、ただ見聞きしただけの内容で判断する方ではありません。
このとき資料作成の参考にしたという書籍も併せて紹介していただきました。それなりに売れている本ではありますが、簡単な図解の、ハウトゥ本に近いものと言ってよい部類のものでした。

これでは質問を下さった方が納得できなくて当然かと。

そのため今回は、大人の学びについて、あらためて考えてみることにしました。

・日本のビジネス書の特徴
考えてみると、日本のビジネス書では、こうした図解のものやエッセンス版をさらに噛み砕いたものなど、よく言えば‘とっつきやすい’、悪く言えば‘子供騙し’のような本がかなり存在します。
また本だけでく、セミナーなどもそうですが、名言集や成功体験のようなものもかなり多いように思います。

僕はnoteの記事で何度も書いてきたことですが、こうしたものは一定の知識が無い方には、‘基本的に’何の勉強にもならないと考えています。
なぜなら図解やチャートのものは、言葉やプロセスなどを‘丸覚え’するだけにとどまってしまいます。エッセンス版は‘エッセンス:要点’を汲み上げていますが、日本のビジネス書の場合、それも噛み砕いてしまっているように思います。成功談や名言集などは、発言した人物が、いつ、どのような環境で、どんな信念に基づいて、誰に言った言葉なのかを知ったうえで読まなければなりません。

いずれにせよ大切なのは「理解」をすることです。しかしこうした書籍から、原理原則や理論を、文字通り「論理的」に理解することは、かなり難しいのではないでしょうか。

・なぜ大人の学びが難しいのか①
色々な方と話をしていると、一定の割合で「学校の勉強は役に立たない」とか「教育が悪い」などといった言葉を聞きます。

果たして本当にそうなのでしょうか。

僕はデザイン専門学校で、ロジカルシンキングとマーケティングの講義を担当しています。どちらも大学での基礎ゼミや講義で行っていたものと同じ内容で、決して専門学校のレベルに合わせるということはしていません。

勿論、僕が担当している専門学校の学際さんが皆さんかなり熱心だということもあります。意欲の差はたとえ大学であっても重要です。
特にマーケティングの講義は、初回にわざと名古屋でそれなりにレベルの高い大学(非常勤講師で国際交通論を担当していました)の名前を挙げて、「〇〇大学と同じレベルで行います」と言うようにしています。
学生さんは決まって「えー」と、不安を顕にしますが、これまでついてこれなかった学生さんはいません。それどころか、名前を挙げた大学の学生さんよりもしっかり学ぶ学生さんが少くありません。

それは1年生のロジカルシンキングの際に、勉強の方法を話しているからです。
この話は大人の勉強会でも話しますが、決まって「それを知ってたらもっと上の大学へ行けた」とか「今受験したら」といった声を聞きます。

どんな話かというと、「理解」する勉強の方法です。

話が逸れましたが、勉強で大切なのは、「覚える」かことではなく「理解」することです。よく東大に合格する学生さんはあまり勉強しないという話を聞きます。これは時間が短いだけで、実は密度が高い、つまり学校で学んだことを全て理解しているのです。
本当に教育が悪いのであれば、日本が発展することはなかったでしょうし、優れた人物も出てきません。

勿論、学校の勉強が全てではありません。しかし「学校の勉強は役に立たない」とか「教育が悪い」という人は、基本的にちゃんと勉強しなかった人の言葉だと思っています。

・なぜ大人の学びが難しいのか②
世の中で評価されている方の中に、「独学で学んだ」というかたがおられます。

これはとても素晴らしいことだと思います。なぜなら、適切に理解するためには、結局のところ、適切な教育機関で学ぶことが、金銭的、時間的にも最も効率的だからです。

最初に挙げたビジネス書の話しを含めて、多くの人が‘独学’で、色々なことを学んでいますが、ものになったという方にはなかなか会えません。それはどうしてなのでしょうか。
実は「学ぶ」という行為はとても難しいからです。

ちなみに、ここで言う「学ぶ」とは、「覚える」という行為とは異なります。

書店では定期的に歴史の本が流行ります。1つの人物やテーマについて、レベルや表現など、多くの本が並びます。なぜなら、実は歴史は、「勉強したつもり」になれるジャンルの1つだからです。
ある程度の年齢になれば、大なり小なり勉強しようという気持ちになります。このとき歴史は、とりあえず覚えさえすれば、「このとき〇〇があった」といった話ができます。他の人より多く記憶していれば、「勉強熱心な人」と言う評価を得られます。
しかしこうした方々の会話から、歴史を自分の人生や仕事に活かすような話は滅多に聞きません。それは単に「覚えただけ」だからではないでしょうか。

これでは雑学の粋を出ません。

本当に学ぶというのは、背景や理論を理解することです。そうして初めて、活きた‘智’になります。

大人の学びが難しい理由は他にもあります。これについては以前の記事、「マネジメント リカレント教育:日本的経営が残した問題」 https://note.com/sbelabo/n/n0034245c50be でも記しましたが、根本的な問題は、今回述べた点にあるかと思います。

何かを学びたいと考えている方は、参考にしていただければと思います。


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