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【読書録】『モンスター部下』石川弘子

今日ご紹介するのは、社会保険労務士である石川弘子氏の『モンスター部下』(2019年、日経プレミアシリーズ)。

私がこの本を読んでみたいと思ったのは、私自身、何人かの「モンスター部下」に悩まされた経験があるからだ。

私が初めて部下を持ったのは、30代半ば。その頃は、部下2-3人の小さなチームだった。それから約15年。今では2桁の人数のチームを預かっている。過去に直接・間接に私の部下として働いてくださった方の数を合わせると、おそらく、50名近くになると思う。

私はよく、周りから、人付き合いが上手だね、と言われてきた。自分でも、まあまあそうかな、と思うし、実際、殆どの部下とは、良好な関係を築いてきた。

しかし、15年間の間、その約50名の部下のうち、これは、恐ろしいモンスターだ!と、恐怖すら感じた人が、ひとりだけいた。

そのほかにも、とてもやりづらいな、と感じた小モンスターが、数人はいた。

小モンスター部下のひとりが、私に対する不平不満を、会社の、しかも外国のグローバル本社の内部通報窓口に通報し、大問題になりそうなこともあった。幸い、調査の結果、事実無根ということで無罪放免となったのだが…。

モンスター部下たちからの、逆ハラスメント的な言動には、夜も眠れないほど悩んだ。彼、彼女らに厳しく指導しなければならないときには、いっそのこと、仕事を放り出して、逃げ出してしまいたいと思った。

そんな苦い経験があったことから、この本のタイトルを見たとき、すぐに飛びついた。

いろいろなモンスター部下の事例が豊富に紹介されている。タイプ別の対処法が、実践的だ。先に述べた、私が対応に困っていた大小のモンスター部下たちについても、大抵、似た事例があった。

ああ、あのとき、このような本があったら、どんなに勇気づけられただろうか…。これからは、この本を本棚に忍ばせておき、モンスターに出会うたびに、開いてみようと思った。

しかし、本書の最後のほうで、次のような、ドキリとさせられる記載があった。

 これまで、さまざまなモンスター部下の事例や対処法を述べてきたが、実は、モンスター部下というのは、あくまでも見る側が生み出しているものであるということにお気づきだろうか?
 ある人の言動に対して、その言動が全く気にならなければ、「モンスター」とは思わないだろうし、その言動に悩まされるようだと、場合によっては「あの人はモンスターだ」と解釈する。つまり、「モンスター」とは事実として存在しているのではなく、あくまでも受け手側の解釈だ。見る人が違えば、その人の言動も「モンスター」という解釈にはならない可能性がある。(p227-228)
 社会では、人間関係や組織運営をスムーズにするため、大多数の人の「常識」「良心」「共通感覚」を共有し合うことが必要となる。そこから大きくはみ出した人は、社会に受け入れられず、「モンスター」として排除される。
 しかし、そのような人たちも、生まれながらに「モンスター」だったわけではない。さまざまな経験を通して、人間不信になったり、自信をなくしたり、不安を抱えたり、自分の居場所を見つけられず問題行動を起こすようになっていったはずだ。彼らが自分の問題に気付き、変わることができる可能性もゼロではない。
 会社という組織の中で、その会社に合わない価値観を持つモンスター部下は、組織を守るためにも対処しなければならないが、彼らの人間性まで否定する社会であってはならないと考える。どんなモンスターであっても、人として敬意を持って接することを忘れないようにしたい。(p229)

モンスター部下のモンスター性は、あくまで受け手の解釈、だという。

このくだりを読んだ瞬間、少々、反発を覚えた。優等生的な結論に思え、「そんなキレイ事では、実務は回らんし!」と、心の中でツッコミを入れた。

しかし、冷静に考えると、書かれていることは、まさにそのとおりだと思った。モンスターかどうか、というのは、確かに、主観的、相対的なものと言える。多様な個性のぶつかり合いによる副作用、と言ってもよいかもしれない。

確かに、ある部署での厄介者が、部署異動になった途端にうまくいった、という例もある。社内での評判は散々だが、社外での評価がよい、またはその逆、あるいは社内でも社外でも、評価が真っ二つに分かれる、という例も知っている。

そして、どんなにモンスターだと思える部下でも、人間性まで否定してはならないし、敬意を持って接することを忘れてはならない、ということは、100%正しいと思う。

部下の指導は、上司の仕事だ。モンスター部下に、自身のモンスター的な要素に気づいてもらい、周りとの協調性を身につけてもらいつつ、個性や強みを活かして会社に貢献してもらう。そんなwin-winの関係を築くことができれば、素晴らしいだろう。そういう成果が出せれば、上司冥利に尽きるだろう。

ただし、上司も生身の人間。神様でも仙人でも、精神科医でもカウンセラーでもない。鉄のメンタルを持つ上司も、それほど多くはないだろう。

会社は、モンスター部下対策を、上司だけに任せきりにしておいてはならない。人事部門などを中心に、会社全体の問題として、モンスター部下と対話する上司をサポートをする仕組みを整えることも重要だ。そして上司も、自分だけの問題として抱え込まずに、必要に応じて、会社にサポートを求めていくのがよいだろう。

この本は、モンスター部下に悩んでいる方には、即効性のある処方箋として、おすすめ。また、これから管理職になる方や、人事部門の方にも、大いに参考になるのではないかと思う。

ご参考になれば幸いです!


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