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妻のキャリア形成について。

冒頭の写真は、夫のいる関西で週末を過ごした後、月曜日の早朝に、現在の仕事上の拠点のある東京へ出かけるため、ひとり、新幹線「のぞみ」の車内にて食べる朝食だ。

朝マックの、エッグマックマフィンとカフェラテのコンボを食すのがルーティン。楽しかった週末の思い出に後ろ髪を引かれつつ、これからの1週間の仕事モードに切り替えるための、ちょっとした儀式のようなものだ。

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私は、単身赴任をしている。別居婚、ともいえる。

日本では、多くのサラリーマンにとって、単身赴任は珍しいものではない。普通は、夫が、転勤や転職のため、拠点を移す必要がある場合に、妻子を伴って新拠点に行くか、妻子が現拠点に残る必要がある場合は、単身赴任を選択して、単身、新拠点に赴き、週末や長期休暇に家族の元に帰るパターンが多いと思う。

私のように、妻が、夫を残して、新拠点に単身赴任するパターンは、最近でこそ、ちらほら耳にするようになってきたが、まだまだかなりの少数派だと思う。

そういう状況だからか、私が単身赴任をしていると言うと、驚きの反応を示された上で、時々言われる言葉がある。

「ご主人、よく許してくれたね。」

と。

許す? 妻が仕事で拠点を移すには、夫の「許し」が必要なのか。 

確かに、離れて暮らすことは簡単なことではない。そのため、夫とは話し合った。そして、夫とは、私が単身赴任することについて合意した。少なくとも私は、それが、「許し」であったとは認識していない。

これは、日本での、家庭における男女の役割分担についての先入観に基づくものだと感じている。男性は一家の働き手で、妻は夫の勤務地についていくか、そうでなければ地元で夫の留守を守るものだ。妻が自分の職業のために夫を残して別拠点に移動するのはおかしい、という先入観によるものではないだろうか。

実は、私が、結婚後に単身赴任するのは、現在が初めてではない。結婚した後、私だけ、海外の大学院に留学する機会があった。その頃、まだアラサーだった私は、国境を越えた単身赴任を経験した。

そのときも、日本人の留学生たちからは、上記と同じセリフ、すなわち、

「ご主人、よく許してくれたね。」

と言われた。何度も。本当に、何度も。

ただ、私が単身赴任であることを知った、(日本人以外の)外国人留学生たちの反応は、全く違っていた。好対照だった。彼らは、口々に、こう言ったのだ。

「何故、あなたのハズバンド(夫)は、一緒に来なかったんだ?」

と。

そして、「夫に許される」という趣旨の発言は、彼ら、外国人留学生からは、一度も聞かなかった。ただの一度も。

そして、仲良くなったクラスメートたちの中に、台湾出身の留学生と、南米出身の留学生がいたのだが、いずれも女性で、いずれも夫を連れて留学に来ていたのだった。彼女たちの夫は、それぞれ、留学生である妻をサポートするために、国での仕事を中断し、奥さんについて来ていたのだった!

これには、結構、衝撃を受けた。この違いは、一体、何なのか。

日本人の留学生の中には、そんな風に、奥さんが留学していて、旦那さんがついて来たという夫婦は一組もいなかった。逆に、奥さんが旦那さんの留学について来た夫婦は、何組もあった。むしろ、多数派と言ってよかった。

このことに気づき、思った。日本では、家庭における男女の役割分担についての先入観によって、本当は、学びたかったことが学べなかったり、就いてみたかった仕事に就くことを断念した女性たちが、ものすごく大勢、いるのではないか。

そして、それは、もしかすると日本だけの話で、少なくとも多くの外国では、女性はそのような我慢を強いられなくてもよいのではないか。

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最近、ポストコロナの働き方について、テレワークを原則とする働き方を推進する企業が増えていると聞く。特に、先日、富士通さんが、先陣を切って、従業員およそ8万人を対象に、テレワークを原則とする働き方に改める改革をしたということで、NHKのニュースで報道されていた。そして、単身赴任をやめ、遠方からテレワークと出張で働けるようにする方針にしたということだ。

そして、奈良にお住まいの、同社の男性社員の方のインタビューが流れた。同社の改革のおかげで、単身赴任を免れることができてハッピーだという。ネットにその記事が載っていたので、NHKのホームページから引用する。

東京異動でも 奈良の自宅で勤務
今月1日付けで、大阪の営業部門から東京の本社に異動となり、本来は単身赴任するはずだった広報IR室のマネージャー、大野貴弘さん(43)は、奈良県にある自宅からテレワークで本社の業務を行っています。

大野さんは「当初は仕事と生活の両方が変わってしまうという不安もあったが、生活は変わらずに済んだので仕事に専念できる安心感が生まれた。一方、新しい職場の人と直接、顔を合わせることがなく、仕事を見聞きして覚えることができないので、これまで以上に工夫して働く必要性を感じている」と話していました。

大野さんは奈良県の自宅に15年間暮らし、妻の実家が近くにあるほか、中学2年生と小学5年生の子どもが地元の学校に通っています。

大野さんは「転勤するかもしれないと子どもに伝えたときは、さみしそうな顔をしていたが、自宅にいられることを伝えたら喜んでくれた。自分の都合で家族を振り回したくないと思っていたのでありがたい。これまでは会社が指定した働き方に自分を合わせていくことが求められたが、今後は与えられた自由を、いかに活用して価値を高めていくかが重要だと思った」と話していました。

確かに、これは素晴らしい制度だと思う。本当は単身赴任をしたくないけれど、キャリアを考えたときに、渋々、家族離れて生活する生活を選択せざるを得なかった人々にとっては。この、奈良の男性社員の大野さんにとっても、本当に良かったなあと心から思った。

だけど、こうも思った。

NHKよ、そこで、単身赴任を回避できた男性だけを取材するのではなく、もう一歩踏み込めなかったのか。つまり、同じような立場の、女性をも取材したらよかったのでは? 

日本社会の固定的な先入観を破り、一念発起して、単身赴任も辞さずに、自分のキャリアを築こうとしていた女性が、肩身の狭い思いをしたり、社会から奇異な目で見られることなく、キャリアと家庭を両立することができるようになった、と、報道できれば、さらに素晴らしかったのではないかと思ったのだ。もっとも、そのような事例が、富士通さんにはなかったのかもしれないが。

今後も、夫婦が、夫も妻も、可能な限り、それぞれのキャリアを追求できるような、より多様な選択肢が提供されるとよいと思う。そして、それを機に、妻のキャリア形成も、夫のキャリア形成と同様に重要なのだという考え方が、日本でもっと浸透するとよいなと、心から思う。

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