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【読書録】『PEP TALK 部下のやる気を引き出すワンフレーズの言葉がけ』占部正尚

今日ご紹介するのは、『PEP TALK 部下のやる気を引き出すワンフレーズの言葉がけ』(2017年、日本実業出版社)という本。副題は、『ペップトークで不安を消す・励ます・元気づける』

著者の占部正尚(うらべ・まさたか)氏は、コンサルタントとして数々の研修や講演を実施されているほか、「日本ペップトーク普及協会」の理事でいらっしゃるとのこと。

「Pep talk」「ペップトーク」とは、一体何なのか。この本にもそれが述べられているが、著者の所属されている「日本ペップトーク普及協会」の以下のウェブサイトが、とても端的にそれを表現していた。

同サイトによると、ペップトークとは、もともとは、アメリカでスポーツの試合前に、監督やコーチが選手を励ますために行っている、短い激励のスピーチのことだそうだ。「Pep」は英語で、元気・活気・活力という意味がある。

同協会の代表理事である、アスレチックトレーナー岩﨑由純氏が、アメリカのスポーツ現場で学んだ「勇気を与える感動のスピーチ」をベースに、シンプルでポジティブなコミュニケーションスキルとして確立したという。

「ペップトークを通じて日本人の自己肯定感を世界レベルに上げる」という理念のもと、「日本が幸せであふれている状態」をビジョンとし、「言葉の力で日本を健康にする」ということをミッションとして掲げている。

私は、日本社会が、同調圧力が強く、減点主義であり、多様な生き方に寛容ではない傾向があると感じている。そして、そのことが、必要以上に日本人の自己肯定感を下げ、日本人を不幸にしているのではないかと考えている。だから、ペップトーク普及協会の理念、ビジョン、ミッションには強く共感し、興味を持った。

この本は、ペップトークが、上司が部下のやる気を引きだすために、大いに役立つことを丁寧に紹介するものだ。部下のタイプ別に具体的なペップトークの例が、すぐに使えて実践的だ。

ペップトークのポイント

ペップトークは以下の4つのポイントから成っているという。

①事実の受け入れ
②とらえかた変換(ポジティブな発想変換)
③してほしい変換(肯定形での言葉がけ)
④背中のひと押し

この本の序章では、この4つについてのエッセンスを解説する。そのうち重要な点を、以下に引用させていただく。

①事実の受け入れ

 世の中で成功している組織や個人の風土や思考の方向性を分析すると、多くは無いものねだりではなく「今あるものでベストを尽くす」という姿勢です。「人材がいないから、才能がないから」ではなく、「今いる人材で生産性をあげるにはどうしたらいいか。今の実力でどれだけ勉強したら目標を達成できるか」と、『事実を受け入れ』て考えたほうが建設的であり、成果に結びつきやすいでしょう。(p18)(太字は本書の著者が付したもの。以下同じ。)

②とらえかた変換(ポジティブな発想転換)

…仕事に着手していないという”状況・事実”は1つですが、それをどうとらえるか、解釈は複数存在することが多いのです。上司が部下の発言をどのようにとらえるかで、その後の人間関係や指導のあり方が大きく左右されます。(p19)

③してほしい変換(肯定形での言葉がけ)

 実は、人間の思考回路は「否定形に弱い」「最初に脳に入って来た情報に左右される」という特徴があるのです。(p20)
 ……否定形で指示を出しそうになったときは、ペップトークの『してほしい変換』と呼ばれる考え方に基づいて、肯定形に変換してから口に出してください。
 たとえば、(否定)「ミスをするな」ではなく、(肯定)「落ち着いて計算して、最後は見直しをしよう」(否定)「言い間違えるな」ではなく、(肯定)「大切な箇所は、ひと呼吸おいてゆっくり話そう」などと肯定的に直してから指示を出すと、相手は好ましい成果を出すための具体的な言動・行動がイメージできます。
 動機付けや指示・命令など大切な場面で使う言葉は、より相手の心に響くよう、ポジティブで肯定的な表現で、相手にしてほしいことをストレートに話すように心がけましょう。(p21-22)

④背中のひと押し

 相手に何らかの成果をあげてほしいときは、「あなたの成長を願って応援しているんだよ」という気持ちが伝わるよう、『背中をひと押し』するような言葉を一緒に添えましょう
 効果的に背中を押すためには、相手の性格や状況に応じて、"直情系"か”癒し系”のどちらかを選択するとよいでしょう。
 たとえば、新製品のプレゼンテーションに向かう部下に対して、普段からある程度前向きな言動が見られる場合は、「君ならできる!」「ウリである耐久性の良さを徹底的に訴求しろ!」と直情的に暑い声援を送ると成果をあげやすいでしょう。
 逆に自信のなさや大人しい性格が目立つ場合は、「何かあったらフォローしてあげるよ」「これまでの君の頑張りは私が一番知っている。大丈夫だ」と緊張した心を癒すような表現を選ぶとよいでしょう。(p22) 

感想

本書は、以上の4つの要素から成るペップトークの原則に基づき、第1章から第5章まで、多くのページ(p34-220)を割いて、部下のタイプ別に、それぞれのペップトークの実例を、詳しく解説してくれている。

たとえば、

「反応が薄く、自分を信頼していなさそうな部下」
「仕事に興味がなくて積極的に動かない部下」
「指示待ちの部下」
「不満を抱えていてやる気が出ない部下」
「ほめてもたいして喜ばない部下」
「叱られた経験が少なくメンタルの弱い部下」
「自分勝手な判断で仕事をする部下」

…などなど。

これは本書で取り上げられているケースの、ほんの一例だ。これらすべてのケースに対して、言ってはいけない「失敗しがちな一言」と、背中を押すための「ワンフレーズ」を載せていてくれている。

ケースごとに声がけのバリエーションが異なるのは、見事で、なるほどと考えさせられた。

上記で、背中を押す一言として、大きく分けて、「直情系」か「癒し系」のどちらかを選択するとよい、とあった。そして、そのいずれにも、さらに細かいバリエーションがある。ペップトークの奥深さと、それが細やかに研究されていることに感じ入った。

これをそのまま、口に出せばよいので、実践的で、大変便利だ。本棚に常に忍ばせておいて、新しいタイプの部下に出会うたびに、参照したい。

ところで、以前、次のような記事を書いた。

この記事は、外資系の人事評価の際に使われる英語のフレーズを紹介したものだ。「弱み」という言葉を使わずに「改善機会」というポジティブな言葉を使うことが、とても良いなと、常々感じていた。

これも、「背中を押す」という発想に基づくもので、根は同じなのではないかと感じた。

ご参考になれば幸いです!

部下との関係性に悩んでいる方は、こちらの記事もどうぞ。


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