【読書録】『本を読む人だけが手にするもの』藤原和博
要約
読書の重要性と効用について多方面から解説している。
成熟社会では、本を読んで、一人一人の幸福論を築かなければ生き残れない。本を読む習慣のある人とそうでない人に、二分される階層社会が来る。
読書する人とは、他人(著者)の脳のかけらを自分の脳につなげることで脳を拡張し、世界観を広げられる人。
読書によって得られる力は、想像する力、集中力、バランス感覚、異なる視点を得る力、引き寄せる力、情報編集力を高めるリテラシーとスキル(コミュニケーション、ロジック、シュミレーション、ロールプレイング、プレゼンテーション、複眼思考)。
感想・刺さったところ
この本の筋は、上記のように、読書の重要性と効用とその理由を述べるシンプルなものだ。私は、幸い、読書習慣があるから、彼のメッセージは心地よくスイスイと頭に入り、腹落ちした。けれども、読書習慣のない人にとっては、もしかしたら、あまりピンとこないかもしれない。
この本では、読書の有用性を説くため、色々な表現やエピソードを織り交ぜていた。そのうち、以下のような表現やエピソードが特に刺さった。
本がいじめられっ子を助けるという話(63頁)。エジプト考古学者の吉村作治さんは、小中学校時代、いじめられっ子で、休み時間に教室に居場所がなく、いつも図書館に逃げていた。そこで『ツタンカーメン王の秘密』という本に出会い、いじめられていることも忘れ、本の世界に入り込み、それが、彼が著名なエジプト考古学者となるきっかけとなった。読書によっていじめっ子が登ってくることができないステージに登ったのだ。
「脳のかけらを自分の脳につなげる」「脳を拡張する」などという表現(79頁)が斬新で、わかりやすかった。作者の世界観を追体験する、ということを言っているのだが、他人と脳を機械でつながれているような、SF映画のようなイメージが浮かび、わくわくする。
乱読は、「セレンディピティ」を誘発する(85頁)。セレンディピティとは、思いがけない発見や奇跡的な遭遇。これもまさにそのとおり。私は、時間があると、図書館や本屋に立ち寄って、ぶらぶらと本棚を眺めて回るのが好きだが、そういう時にふと目に留まった本が新しい世界に誘ってくれたりする。
「人間の脳は、10%しか機能していない」(85頁)という、リュック・ベッソン監督の『ルーシー』という映画のキャッチコピー。薬物で主人公の脳がどんどん活性化する話である。この映画のように人間の脳が100%活性化することはないが、読書経験を積むことで脳が活性化するというのは納得がいく。私はたまたまこの映画も観ていて、脳が活性化するイメージを持つことができた。
名作が読書嫌いを生む(102頁)という箇所もなるほどと思った。著者は、小学生のときに、ヘッセ『車輪の下』などの名作をを読まされて、読書嫌いになったとのこと。名作が面白くなかったために読書習慣を失った。子どもに読書させようと思っても、子供が面白いと思うのは、本の世界に自分を投影できるかどうかだから、面白いと思わない名作を読ませると逆効果だというのだ。
これには、なるほど、と思った。ちなみに、私は、子どもの頃は、推理小説(子ども用の、易しい言葉で書かれたもの)ばかり読んでいた。コナン・ドイルのシャーロックホームズ、モーリス・ルブランのアルセーヌ・ルパン、江戸川乱歩の少年探偵団と怪人二十面相などを、貪るように読んだ。単に、めちゃくちゃ面白かったからだ。特に、ルパンの『奇岩城』は、ドキドキハラハラしながら読んだ。
図書館が近くにあり、ゆっくり本を選べたし、また、欲しい本があると言えば、親が買い与えてくれたので、恵まれていたと思う。おかげで、子どもの頃に読書の習慣がついた。もし、親から、あれを読め、これを読めと、読むべき本を指定されていたら、本好きにはならなかったのではないか。
(なお、その流れで、その後、今に至るまで、推理小説が大好きである。特に、アガサ・クリスティー、松本清張の作品は殆ど読んだ。これらの作品については、今後少しずつ書いていきたい。)
読書で文字のシャワーを浴び続けることになると、ある量を超えると自分自身が文章を書くきっかけになる(125頁)という、教育学者の齋藤孝先生の話を紹介していた箇所も、腹落ちした。
読む時期や自分の置かれた環境によって、本の受けとめ方は変わる(178頁)。人間の意識や時代背景は常に変化しているからだ。本には人それぞれに読むのにいいタイミングがあるからこそ、こだわりを捨てて乱読すべき。
インプットだけではなく、アウトプットが大切(194頁)。本を読んでただ感想を持つだけではなく、自分の言葉でアウトプットすることによってそれを自分の意見に進化させることができる。
この本からの学びをどう活かすか
私は読書が好きだが、どうしても同じようなジャンルの本ばかり選んでしまい、自分の不慣れな分野については食わず嫌いの傾向がある。自分の苦手な分野(私にとっては、自然科学など)の本にも挑戦してみたいと思った。また、アウトプットも続けていこうと思った。さらに、一度読んだことのある本でも、再度読み返してみて、新たな学びを得たいと思った。
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