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【読書録】『パーソナリティを科学する』ダニエル・ネトル

今日ご紹介するのは、ダニエル・ネトル著(竹内和世訳)『パーソナリティを科学する』(白揚社、2009年)。副題は、『特性5因子であなたがわかる』だ。

ひとことで言ってしまうと、科学に基づく性格分析の本だ。

ダニエル・ネトル氏は、英国ニューカッスル大学生物心理学部准教授。心理学と人類学の学位を取得されており、人間と文化のさまざまな面について論じた多数の著書がある。

そして、本書は、かなりのページを割いて、5つのパーソナリティ(特性5因子)について、本それぞれの因子をもたらすメカニズム(「コアメカニズム」)を、科学的に論証しようとしており、論証にかなりのページを割いている。

性格分析について論じる本は、巷にあふれている。しかし、本書は、著者の学問的バックグラウンドからも、また、本文中の科学的な記述からも、ずいぶん信頼できそうだという印象を持った。

本書の巻末に付録として付けられている、「ニューカッスル・パーソナリティ評定尺度表」というツールを使い、簡単な質問に答えてそれを計算するだけで、5つのパーソナリティの度合いが簡単にはかれる。これを行ってから本文を読むと、自分の性格がどんどん明らかになっていくようで、引き込まれるようにして一気に読んでしまった。

本書については、忘れたくない記載がたくさんあるので、以下、備忘も兼ねて引用しておきたい。

特性5因子とは

5つのパーソナリティ傾向(特性5因子)があるという。

 本書はパーソナリティの心理学について考察するものである。このなかで私は、人間には永続的なパーソナリティ傾向があることを証明するつもりだ。それらのパーソナリティ傾向は神経システムの配線のされ方に由来するものであり、さまざまな状況でどのように行動するかをある程度まで予測するものである。(p14-15)
パーソナリティ特性とは、さまざまな種類の行動における、意味のある、安定した、そしてなかば遺伝的に受け継がれてきた首尾一貫性にほかならない。これらの特性は、評定(レイティング)を使って測定することができる。多くの事例にわたって集められたとき、評定は予測力をもつ。特性は人生の出来事(ライフ・イベント)に対する私たちの反応に影響を及ぼすだけでなく、私たちがどのような人生の出来事を経験するかにも影響する。一人の人間の気質を組み立てる多くの狭い特性は集中する傾向をもち、ここから五つの広い特性ファミリーーービッグファイブーーが現れた。(p61)

そして、各パーソナリティ傾向の高い低いは、良し悪しとイコールでは決してない。

本書の中心をなすテーマは、すべてのパーソナリティ特性はコストとともに利益をもたらすということである。(p133)
 本書のポジティブなメッセージとは、自分の基本的なパーソナリティの傾向が今と違ってほしいと願う理由など、まったくないということである。これまで私が一貫して論じてきたのは、すべてのビッグファイブ次元において、どのレベルにも利益不利益があるということであった。こちらのほうが本来的に良いとか悪いとかいったパーソナリティ・プロフィールなどというのはないのである。(p258)

そして、パーソナリティ特性に影響を及ぼすものの半分は、遺伝子だという。

行動遺伝学者によれば、パーソナリティにおける遺伝的構成要素のサイズは、全体のおおよそ50%だという。言い換えると、ビッグファイブのようなパーソナリティ特性に見られる個人差のほぼ半分は、遺伝子型(ゲノムタイプ)の変異に結びついているというわけだ。残りの半分はむろん、遺伝子型とは無関係ということになる。パーソナリティ特性には、両親から受け継いだ遺伝子型とは関係のない、もうひとつの重要な個体間の違いがあるわけだ。(p223)

では、残りの半分は? 

ここで、多くの人は、親の影響や、きょうだいの生まれ順などを思いつくだろうが、それらは関係ないという。

親のパーソナリティは子供のパーソナリティに何ら重要な影響をもちえない(もちろん遺伝子経由は別として)。子育てスタイル(どの子に対しても同じであるかぎり)は、子供のパーソナリティに何ら重要な影響をもちえない。親の摂食、禁煙、家族数、教育、人生哲学、性についての態度、結婚生活の状況、離婚、もしくは再婚は、子供のパーソナリティには何ら重要な影響をもちえない。(p228-229)
通常の家族の範囲内において、共有された家族の要素が大人のパーソナリティに何の影響ももたない(p229)
(...)生まれ順がパーソナリティ形成に及ぼす重要性については、真に説得力のある科学的裏付けはない(p237)
パーソナリティの違いへの環境的影響の存在を証明するのに、生まれ順はほとんど役にたっていないようだ。これについては、一九八三年に行われた大きな調査ですでに結論が出ていたにもかかわらず、なぜか人々はその考えを頑なに捨てようとはしない。(p238)

では、そのほかには…?

 母親の栄養が代謝の発達に与える影響については、いくらかの科学的根拠がある。(p241)
人の環境への反応の仕方を決定づけるきわめて重要な側面は、身体をはじめとしてその人のもつさまざまな特徴である。(中略)進化が私たちのなかに、それぞれの健康、知能、体格、魅力に合わせてパーソナリティを調整する能力を作りだしたという考えは、きわめて道理にかなっている。(p243)

母親の栄養、身体的特徴…。

そうすると、パーソナリティ傾向というのは、あまり自分でコントロールできるものではなさそうだ。そうすると、誰でも思うのは、生まれ持った性格は変えられないのか?ということだろう。本書も、最終章で、その問題提起をしている。

遺伝子の影響にせよ、胎児期環境の影響にせよ、出生後の環境の影響にせよ、それらはすべて、私たちが自覚した大人になるよりもずっと前から、自動的に、容赦なく、そして私たちとの意志とは明らかに無関係に、それぞれの仕事を果たしてきたのである。そこで私たちは最後の問に行きつく。人はパーソナリティを変えられるのか、それともあくまでそれを守り続けるしかないのか。(p246)

その問いに対する本書の答えは、以下のくだりにあらわれている。

(...)大切なのはむしろ、自分がたまたま受け継いできたパーソナリティ・プロフィールの強みを利用し、弱点からくる影響をできるだけ小さくすることによって、実り豊かな表出を見つけ出すことなのだ。このように見るならば、個人のもつ性格とは利用されるべき資源であって、なくなってほしい災いではない。(p258)
(...)パーソナリティが結果的に何を引き起こすかを理解し、その情報を使って賢い選択をするということだ。そのためには多くのことが必要とされる。自己を知るというのもそのひとつだ。自己認識というこの貴重な財産を自分のものにするうえで、本書が少しでも役に立ったとすれば、私がこれを書いた目的は達せられたことになる。(p261)

どうやら、生まれ持ったパーソナリティ傾向を自己認識して、人生の賢い選択に生かすために使えばよい、ということらしい。

確かに、自己の特性を知っていると知っていないでは、ライフイベントに応じていろいろな事態に遭遇しても、自分の感情や考えや行動傾向を予測して、必要に応じて修正したり、うまくいかない事態をうまく消化したり、ストレスをやりすごしたりするために役立つのかもしれない。

特性5因子の特徴

では、いよいよ、その特性5因子の特徴を、要約してみよう。

外向性(Extraversion)
スコアが高い人の特徴(+):社交的、ものごとに熱中する
スコアが低い人の特徴(-):よそよそしい・物静か
コアメカニズム:報酬への反応(中脳ドーパミン報酬システム)
利益:報酬を求め手に入れることの増強
コスト:肉体的な危険、家族の安定欠如
神経質傾向(Neuroticism)
+:ストレスを受けやすい、心配性の傾向
-:情緒的に安定
コアメカニズム:脅威への反応(扁桃および大脳辺縁系、セロトニン)
利益:警戒、努力
コスト:不安、うつ
誠実性(Conscientiousness)
+:有能・自己管理できる
-:衝動的・不注意
コアメカニズム:反応抑制(背外側前頭前皮質)
利益:プランニング、自己抑制
コスト:融通のなさ、自発的反応の欠如
調和性(Agreeableness)
+:人を信頼する・共感できる
-:非協力的・敵対的
コアメカニズム:他社への配慮(心の理論、共感要素)
利益:調和的社会関係
コスト:ステータスを失う
開放性(Openness)
+:独創性・創造力に富む・エキセントリック
-:実際的・因習的
コアメカニズム:心の連想の広がり
利益:芸術的感受性、拡散的思考
コスト:異常な信念、精神病傾向

これら5因子について、それぞれの1章を割いて、詳しく解説している。そこから、まとめ的なセンテンスを引用してみる。

まず、外向性。

(...)外向性とは、ポジティブな情動の反応に見られる個人差である。外向性のスコアが高い人は反応性が高く、仲間、興奮、達成、賛美、ロマンスなどの快感を手に入れるために必死になる。一方、スコアの低い人はポジティブな情動システムの反応性が低いため、こうしたものを手にいれることの心理的利益も少ない。両者にとってそれらを手にいれるためのコストが同じだとすれば、内向的な人は外向的な人ほどその獲得に心をそそられないのである。(p104)

神経質傾向。

(...)神経質傾向のスコアは、ネガティブな情動に関わっている。前に述べた実験で、面白い映画の一場面を見たり、自分の素晴らしい経験について書いたあとなどに、外向性のスコアの高い人は、気分が大きく高揚した。それと同じように、恐ろしい場面を見たり、ひどい経験について書いたあとなどに、どれほどネガティブな気分になるかを予測するのが、神経質傾向のスコアなのだ。(p119)

誠実性。

パーソナリティの五因子モデルにおいて、衝動のコントロールに関わる次元は「誠実性」と呼ばれている。誠実性のスコアの高い人はまじめできちんとしており、自己をコントロールできる。一方スコアの低い人は、衝動的で、気の向くままに行動し、意志が弱い。(p149-150)

調和性。この因子には、明確に男女差があるらしい。

(...)調和性で高いスコアを取る人は、協力的で信頼でき、共感性があるとされ、逆にスコアが低い人は、冷淡で、敵意があり、不服従だとされる。(p174)
(...)調和性が高いとは、他社の心の状態に注意を払う傾向があるということであり、また決定的なのは、それを行動の選択要因のなかに含めるということである。(p175)
パーソナリティ研究における男女間の違いのうち、最も確かなもののひとつに、女性が男性よりも調和性が高いという事実がある。標準偏差の半分以上、上回るのだ。男女間で重複している部分は多いにせよ、このことは、平均的な男性が取るスコアは女性全体の七割よりも低いことを意味する。(p192)

最後に、開放性。

(...)開放性のスコアは、あらゆる種類の文化的、芸術的活動にどれほど関わっているかを強く予測するという。人によっては読書を好み、また人によっては画廊に行くのを好む、ということではない。一方には読書にも画廊にも劇場にも音楽にも熱心な人がおり、他方ではそのどれにもたいして興味がない人がいる。あらゆる文化的余暇活動に関わろうとするこの傾向は、ただひとつ、開放性によって予測される(...)。(p198)
(...)だれもが完全に同意できるその特徴とは、開放性の高い人間の典型が詩人もしくは芸術家だということである。多くの研究が示しているように、開放性は、想像力と芸術性を追求する才能とその創作に、とくに関連しているのだ。(p199)

私のパーソナリティ(自己評定結果)

ここで、私の自己評定結果をみてみよう。結果は、次のとおりだった。

外向性:スコア8(中間~高)
神経質傾向:スコア8(中間~高)
誠実性:スコア8(中間~高)
調和性:スコア13(男女全体では、中間~高、女性としては、中間~低)
開放性:スコア10(中間~低)

まず、すべての要素が、いずれも高すぎず、低すぎるわけではない「中間」のくくりのなかに位置した。何か特別に際立ったパーソナリティがあるわけではなさそうだ。要は、平凡な人間だということだろう。

強いていえば、5つの「中間」に位置する要素のなかでも、外向性、神経質傾向、誠実性、調和性については高め(性差のある調和性については、女性としては低め)と出て、それに対して、開放性についてだけは低め、と出た。自分には、ものごとに熱中したり、ものごとを心配したり、他人に共感したりすることが多い反面、あまり独創性や芸術的感性がないなと常々感じていたため、この相対的な差異にも納得感があった。

感想

いやあ、読み応えのある本だった。

パーソナリティは変えられない。遺伝が半分、その他、幼少期までの影響が半分。大人になるまでに、人のパーソナリティは決まってしまっている。

自分のパーソナリティが、自分の理想に沿うものではなかったとしても、それがダメだ、人生終わりだと決めつけてるものではない。全ての因子には、ポジティブな面とネガティブな面が両方ある。

ポジティブな点は多いに享受し、ネガティブな面はそれを理解して対応を考えればよいのだ。困難にやみくもに立ち向かうのではなく、自分についての傾向を知って、それに応じた対策を立てる。そうして賢くふるまい、幸せな人生を送るための助けとすればよいのだ。

みなさんも、この本のテストを実施されてみてはいかがだろうか。そして、周りの人にも試してみてもらい、それぞれのパーソナリティを分析してみてはいかがだろうか。

もしかすると、自分や周りの人々の特性を知ることによって、今後のライフイベントにおける向き合い方や、周りの人々との関係性を良好に保つためのヒントが得られるかもしれない。

ご参考になれば幸いです!

きょうだいの生まれ順によった性格分析の本について取り上げた、過去の記事もどうぞ!(今日ご紹介の本の結論とは相容れないものの、個人的には、かなり、当たっていると思っています。)

※私の過去の読書録記事へは、こちらのリンク集からどうぞ!


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