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【読書録】『マネジメント(エッセンシャル版) 基本と原則』P.F.ドラッカー

今日ご紹介するのは、経営学の父としてあまりにも有名な、ピーター・F・ドラッカー氏の名著『マネジメント』。分厚い『完全版』もあるのだが、私が読んだのは、その『エッセンシャル版』(2001年、ダイヤモンド社)だ。

編訳は、上田惇生氏。ドラッカー氏と直接対話しながらこの大作を手掛けられたという。前書きにおいて、ドラッカー氏自身が、本書を上田氏に捧げると書かれており、上田氏を信頼していたことがよく分かる。

私は、マネジャーになったときに、この本を読んで、マネジメントについて考える機会を得た。この本には、仕事で迷ったら読み直して学び直すべき要素が本当に多い。

ここでは、私にとって特に大きな学びとなったくだりを、抜粋・要約しておく。

人のマネジメント

 人のマネジメントとは、人の強みを発揮させることである。人は弱い。悲しいほどに弱い。問題を起こす手続きや雑事を必要とする。人とは、費用であり、脅威である。
 しかし人は、これらのことのゆえに雇われるのではない。人が雇われるのは、強みのゆえであり能力のゆえである。組織の目的は、人の強みを生産に結び付け、人の弱みを中和することにある。(p80)(太字部分はサザヱ付す。以下同じ。)
人こそ最大の資産である」(p81)

「人は最大の資産」「人のマネジメントは、人の強みを発揮させること」「組織の目的は、人の強みを生産に結び付け、人の弱みを中和すること」。ドラッカー氏の名言として、よく言及されるフレーズである。清々しいほどストレートに、組織のマネジメントの本質をついた名言であると思う。

マネージャーの2つの役割

①第一の役割は、部分の和よりも大きな全体、すなわち投入した資源の総和よりも大きなものを生み出す生産体を創造することである。(p128)

②第二の役割は、そのあらゆる決定と行動において、ただちに必要とされているものと遠い将来に必要とされるものを調和させていくことである。いずれを犠牲にしても組織は危険にさらされる。(p129)

この2つの視点について、忘れないように心がけている。マネジャーは忙しいので、いつも雑事に追われがちだが、①の観点から、個々のプロジェクトの進捗ではなく、チーム全体として大きくアウトプットが出せているかという点、また、②の観点から、近視眼的になっていないか、中長期的な視野を持って決定や行動をしているか、を時々問いかけるのが重要かなと思う。

マネジャーの仕事

 あらゆるマネジャーに共通の仕事は五つである。
目標を設定する。
組織する。
動機づけとコミュニケーションを図る。
評価測定する。
人材を開発する。(p129)

明確である。この5つのどれが欠けても良いチームマネジメントはできない。すべてきっちりできているか、時折、自己点検する必要があると思う。特に③と⑤は、人間力が問われると感じる。いつも試行錯誤しながら取り組んでいる。

マネジャーの資質

 マネジャーは、人という特殊な資源とともに仕事をする。人は、ともに働く者に特別の資質を要求する。(...)根本的な資質が必要である。真摯さである。(...)
 (...)マネジャーにできなければならないことは、そのほとんどが教わらなくとも学ぶことができる。しかし、学ぶことのできない資質、後天的に獲得することのできない資質、始めから身につけていなければいけない資質が、一つだけある。才能ではない。真摯さである。

この真摯さの原語は、"integrity"だ。これは私の勤めた複数の外資系企業で、行動規範や守るべき価値観として取り上げられていた。いつも"integrity"を日本語に訳すのにピンとくる訳がなかったが、上田氏は「真摯さ」と訳した。正直言って、この訳も完全にピンとくるわけではないが、ニュアンスは十分伝わり、背筋が伸びる思いになる。

確かに、「真摯さ」に欠けるような人は、絶対にマネジャーにすべきではない。それは分かる。しかし、この資質を「学ぶことができない」「後天的に獲得することができない」と言っているのは衝撃的だ。真摯さに欠ける人が後天的に真摯さを獲得できないのなら、なおさら、人選は絶対に誤ってはならない。確かに、私の長い会社員生活において、真摯さに欠ける人がチームを率いようとして失敗した例は、いくつか見てきた。会社における人事は、本当に大切だ。

マネジャー失格とすべき真摯さの欠如

 ①強みよりも弱みに目を向ける者をマネジャーに任命してはならない。できないことに気づいても、できることに目のいかない者は、やがて組織の精神を低下させる。
 ②何が正しいかよりも、誰が正しいかに関心を持つ者をマネジャーに任命してはならない。仕事よりも人を重視することは、一種の堕落であり、やがては組織全体を堕落させる。
 ③真摯さよりも、頭のよさを重視する者をマネジャーに任命してはならない。そのような者は人として未熟であって、しかもその未熟は通常なおらない。
 ④部下に脅威を感じる者を昇進させてはならない。そのような者は人間として弱い。
 ⑤自らの仕事に高い基準を設定しない者もマネジャーに任命してはならない。そのような者をマネジャーにすることは、やがてマネジメントと仕事に対するあなどりを生む。(p147)
 知識もさしてなく、仕事ぶりもお粗末であって判断力や行動力が欠如していても、マネジャーとして無害なことがある。しかし、いかに知識があり、聡明であって上手に仕事をこなしても、真摯さに欠けていては組織を破壊する。組織にとってもっとも重要な資源である人間を破壊する。組織の精神を損ない、業績を低下させる。(p148)

これらの言葉も、重い。再び、「真摯さ」というキーワードが出てくる。マネジャーは、人という、重要で繊細な資源を扱う、難しい仕事だ。マネージャーが真摯さ持つことの重要性が身に染みる。

トップマネジメントの多元的な役割

事業の目的を考える役割
基準を設定する役割
組織をつくりあげ、それを維持する役割
渉外の役割(顧客、取引先、金融機関、労働組合、政府機関との関係)。
儀礼的な役割。
重大な危機に際しては、自ら出動する役割、著しく悪化した問題に取り組む役割。(p224を要約)

トップマネジメントに求められる性格

トップマネジメントは少なくとも4種類の性格が必要。
考える人」「行動する人」「人間的な人」「表に立つ人」(p225より要約)

トップマネジメントはチーム

トップマネジメントの役割が、課題としては常に存在していながら仕事としては常に存在しているわけではないという事実と、トップマネジメントの役割が多様な能力と性格を要求しているという事実とが、トップマネジメントの役割のすべてを複数の人間に割り当てることを必須にする。(p225)
 トップマネジメントとは、一人ではなくチームによる仕事である。トップマネジメントの役割が要求するさまざまな体質を一人で合わせ持つことは不可能である。しかも、一人ではこなしきれない量の仕事がある。健全な企業では、組織図における肩書の如何にかかわらず、トップマネジメントの役割はほとんど常にチームで遂行している。(p226)

トップマネジメントがチームとして機能する条件

①メンバーは、それぞれの担当分野において最終的な決定権を持つ
②メンバーは、自らの担当以外の分野について意思決定を行ってはならない
③メンバーは、仲良くする必要はない。尊敬し合う必要もない。ただし、攻撃し合ってはならない。会議室の外で、互いのことをとやかく言ったり、批判したり、けなしたりしてはならない。ほめあうことさえしないほうがよい。
④トップマネジメントは委員会ではない。チームである。チームにはキャプテンがいる。キャプテンはボスではなくリーダーである。危機時には、他のメンバーの責任を一手に引き受ける意欲、能力、権限を持つ。全体の危機に際しては、一貫した命令系統が不可欠。
⑤メンバーは、自らの担当分野では意思決定を行わなければならないが、チームとしてのみ判断しうる問題は、チーム内で検討しなければならない。
⑥トップマネジメントの仕事は、意思の疎通に精力的に取り組むことを要求する。それは、各メンバーが、それぞれの担当する分野で最大限の自立性を持って行動しなければならないからである。そのような自立性は、自らの考えと行動を周知徹底させているときのみに許される。(p228-229から要約)

トップマネジメントの担う機能は多岐にわたり、求められる能力や役割も多く、多様だ。とても1人だけで担えるものではない。だから、トップマネジメントは、リーダー(社長)を中心として、複数のメンバー(役員や部門長など)で強みや弱みを補い合って、チーム全体としてしっかりとまとまっていなければならない。

私は、今まで複数の会社で、複数のトップマネジメントチームを近くで見る機会があった。また、状況によっては、私自身が、トップマネジメントの一端を担う立場に置かれることもあった。

そんななか、うまくいっているトップマネジメントチームは、確かに、チームとしてよく機能していた。どのメンバーがどういう役割を担い、どういうときに意思決定権者になるのかが明確で、決断が速い。メンバーが同じ方向を向いていて、ぶれない。お互いがよくコミュニケーションを取っていて、リーダーを中心に、お互い協力し合っている。そういうトップマネジメントチームを見ていると、自分もあのようになりたいと思えたし、会社の雰囲気も良く、誰もが楽しそうに仕事をしていた。

逆に、うまくいっていないトップマネジメントチームはどうか。案件の決裁者が誰であるかが不明確で、案件の了承を得るために、複数の役員のところに何度も足を運んで説明しなければならない。役員が別の役員についての不平を述べたり、皮肉を言ったりしている。チームとして行った意思決定に対して、あとから、「俺は反対だったんだけどな」などと、チームの一体感を阻害するような発言をする。そういうトップマネジメントメンバーの言動に失望し、会社の雰囲気は悪くなり、社員の士気もみるみる低下する。

今まで仕えたトップマネジメントチームの様子を思い返しながら、いちいち頷きながら、これらのくだりを読んだ。

トップマネジメントの舵取り如何で、従業員のモチベーションも、業績も、大いに左右される。だから、トップマネジメントメンバーの人選と、チームワーク、それを指揮する優れたリーダーの存在は、本当に重要だ。

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こうして、マネジャーとトップマネジメントについてまとめていると、サッカーなどのチームスポーツに共通する要素がとても多いなと感じた。目標設定と組織作り。真摯さ。メンバーが自分の役割を自主的にしっかりこなす。良いコミュニケーションを取り合い、励まし合い、助け合う。

これを書いている今は、2022年2月21日。つい前日に、北京冬季オリンピックが終わったばかりのタイミングだ。

この冬季五輪で見事に銀メダルを獲得した、女子カーリングチーム「ロコ・ソラーレ」と、彼女たち5人の選手の力を引き出したコーチであるリンド氏の姿が目に浮かんだ。

いつもポジティブに支え合う、素晴らしいチームだった。会社でも、そのほかのコミュニティの活動でも、チームとして行動する場合は、こうありたいなと思える、お手本のようなイメージを与えてくれた。ドラッカー氏の理想とするマネジメント像と大いに通じるところがあると感じた。

ご参考になれば幸いです!

※私の過去の読書録記事へは、こちらのリンク集からどうぞ!


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