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【読書録】『スマホ脳』アンデシュ・ハンセン

今日ご紹介するのは、アンデシュ・ハンセン氏の『スマホ脳』(新潮新書、2020年11月。本国では2019年出版。)。訳は久山葉子氏。

こちらは、最近の超ベストセラーであり、話題作だ。写真の表紙にも大きく書かれているとおり、「オリコン年間BOOKランキング」上、2021年で一番売れた本だということだ。今月(2022年2月)、いくつかの書店をのぞいてみたが、どの書店でもいまだに平積みされていた。

著者アンデシュ・ハンセン氏は、スウェーデン生まれの精神科医。この本のテーマは、スマホやデジタル社会が人間に及ぼす影響を解き明かすこと。どうしてスマホ依存症になるのか。それがどう私たちに悪影響を与えるのか。脳のメカニズムや様々な研究結果を引用しながら論じる。

何を隠そう、私も、スマホ依存症だ。家族に、いつも「何でそんなにずっとスマホを手放せないんだ?」と言われ、呆れられている。

スマホは人間に悪影響を及ぼす、ということ自体は、巷でよく言われる。自分でも、スマホを使いすぎて、視力は急激に悪くなった。ついスマホのニュースやSNSが気になって、何となく落ち着かない。スマホに支配されているようで、何だか良くないなあ、とは思っていた。しかし、そのはっきりとした理由は分からなかった。

それをこの本が、見事に解き明かしてくれたのだ。

以下、例によって、私が特に記録しておきたいくだりを書き出しておく(有益な情報が満載だったので、いつもの読書録よりも、ずいぶん長い引用になってしまった。)。

人類の進化と環境のミスマッチ

(...)なぜこれほど多くの人が、物質的には恵まれているのに、不安を感じているのだろうか。今までになく他人と接続しているのに、なぜ孤独を感じるのか。それが次第にわかってきた。答えの一部は、今、私たちが暮らす世界が人間にとって非常に異質なものだという事実だ。このミスマッチ、つまり、私たちを取り巻く環境と、人間の進化の結果が合っていないことが、私たちの心に影響を及ぼしているのだ。(p8)
(…)脳はこの1万年変化していない ー それが現実なのだ。(...)
(...)生物学的にはサバンナの時代から変わっていないという事実が、重要な鍵になる。なぜ人間に睡眠運動の必要性、それにお互いへの強い欲求が備わっているのかを理解するために。(p9)(※太字は原文ママ、以下同じ。)
 睡眠、運動、そして他者との関わりが、精神的な不調から身をまもる3つの重要な要素だ。それは研究でもはっきり示されている。それらが減ると、調子が悪くなる。守ってくれる要素がなくなるからだ。だから生活は快適になったのに、なぜ精神状態が悪くなるのか理解できるようになる。(p10)
(...)私たちに様々な行動をとらせ、瞬時に全力で行動に出られるようにするのが感情だ。(p37-38)
 ネガティブな感情はポジティブな感情に勝る。人類の歴史の中で、不の感情は脅威に結びつくことが多かった。そして脅威には即座に対応しなければいけない。食べたり飲んだり、眠ったり交尾したりは先延ばしにできるが、脅威への対処は先延ばしにできない。強いストレスや心配事があると、それ以外のことを考えられなくなるのはこれが原因だ。(p39)

ストレスとうつ

(...)強いストレスにさらされると「闘争か逃走か」という選択しかなくなり、緻密なプレーをする余裕はなくなる。(p46)
 うつを引き起こす原因としていちばん多いのは長期のストレスだ。今の私たちにとって、ストレスというのは日々の予定を焦ってやりくりするといったことだ。だが祖先のストレスシステムを作動させていたのは、溢れかけたメールボックスや難航する風呂場改修工事ではない。猛獣や自分を殺そうとする人間、飢餓や感染症だ。長期間強いストレスにさらされていた人は、危険でいっぱいの世界に住んでいたわけだ。それが私たちにも残っている。
 強いストレスを感じるということはつまり、危険がそこら中にある。脳はそう解釈する。だから、頭から毛布をかぶって隠れていろ、と脳が命令するのだ。そのとき脳がどんな手段で私たちを動かすのかというと、もちろん「感情」だ。脳は私たちの「気分」を使って、危険いっぱいの環境から私たちを遠ざけようとする。ひどく気分を落ち込ませることで、引きこもらせるのだ。
 もし脳が現代社会に完全に適応していれば、こういう長期ストレスのおかげでさらに実力を発揮できることになっていただろう。だって、この患者のストレス要因は、頭から毛布をかぶって隠れたところで解決はしない。しかし脳にとってそんなロジックは無意味だ。現代社会に適応するようには進化していないのだから。そして、逃げるという解決策を取る。脳にとってストレスとは、「ここは危険」という意味だ。人類の歴史上ほぼずっと、それがストレスの意味するところだったのだから。(p60-61)

スマホ依存のメカニズム

 進化の観点から見れば、人間が知識を渇望するのは不思議なことではない。周囲をより深く知ることで、生存の可能性が強まるからだ。(p71)
 周囲の環境を理解するほど、生き延びられる可能性が高まる ー その結果、自然は人間に、新しい情報を探そうとする本能を与えた。(...)新しいことを学ぶと脳はドーパミンを放出する。それだけではない。ドーパミンのおかげで人間はもっと詳しく学びたいと思うのだ。
 脳は単に新しい情報だけを欲しいわけではない。新しい環境や出来事といったニュースも欲しがる。(p72)
(...)脳は基本的に昔と同じままで、新しいものへの欲求も残っている。しかし、それが単に新しい場所を見たいという以上の意味を持つようになった。それはパソコンやスマホが運んでくる。新しい知識や情報への欲求だ。パソコンやスマホのページをめくるごとに、脳がドーパミンを放出し、その結果、私たちはクリックが大好きになる。しかも実は、今読んでいるページよりも次のページに夢中になっているのだ。(...)
 新しい情報を得ると ー それがニュースサイトだろうと、メールやSNSだろうと同じことなのだが ー 脳の報酬システムが、私たちの祖先が新しい場所や環境を見つけたときと同じように作動する。見返りを欲する報酬探索行動と、情報を欲する情報探索行動は脳内で密接した関係で、実際にはそのふたつを見分けられない場合もあるほどだ(p71-72)
 報酬システムを激しく作動させるのは、お金、食べ物、セックス、承認、新しい経験のいずれでもなく、それに対する期待だ。何かが起こるかもという期待以上に、報酬中枢を駆り立てるものはない(p74)
 人間に組み込まれた不確かな結果への偏愛。現代ではそれが問題を引き起こしている。例えば、スロットマシーンやカジノテーブルから離れられなくなる。(...)脳の報酬システムが、不確かな結果にこんなにも報酬を与えてくれるのだから、ギャンブルの不確かさもとてつもなく魅力的に思えるはずだ。(...)
 このメカニズムをうまく利用しているのは、ゲーム会社やカジノだけではない。チャットやメールの着信音がなるとスマホを手に取りたくなるのもそのせいなのだ。何か大事な連絡かもしれないー。たいていの場合、着信音が聞こえたときの方が、実際にメールやチャットを読んでいるよりもドーパミンの量が増える。(p76)
 SNSの開発者は、人間の報酬システムを詳しく研究し、脳が不確かな結果を偏愛していることや、どのくらいの頻度が効果的なのかを、ちゃんとわかっている。時間を問わずスマホを手に取りたくなるような、驚きの瞬間を創造する知識も持っている。(...)
 このような企業の多くは、行動科学や脳科学の専門家を雇っている。そのアプリが極力効果的に脳の報酬システムを直撃し、最大限の依存症を実現するためにだ。金儲けという意味で言えば、私たちの脳のハッキングに成功したのは間違いない。(p78)
 極めてテクノロジーに精通している人ほど、その魅力が度を過ぎていることを認識し、制限したほうがいいと考えているようだ。(p79)
(...)スティーブ・ジョブズの10代の子供は、iPadを使ってよい時間を厳しく制限されていた。ジョブズは皆の先を行っていたのだ。テクノロジーの開発だけでなく、それが私たちに与える影響においても。
 絶対的な影響力を持つIT企業のトップたち。その中でスティーブ・ジョブズが極端な例だったわけではない。ビル・ゲイツは子供が14歳になるまでスマホは持たせなかったと話す。(p82)

集中力の低下

 脳には、膨大な数の手順を同時処理するという信じられないほどすごい能力があるが、知能の処理能力には著しく限定された領域がひとつある。それは集中だ。私たちは一度にひとつのことにしか集中できない。複数の作業を同時にこなしていると思っていても、実際にやっていることは、作業の間を行ったり来たりしているだけなのだ。(p88)
 脳には切り替え時間が必要で、さっきまでやっていた作業に残っている状態を専門用語で注意残余(attention residue)と呼ぶ。(...)集中する先を切り替えた後、再び元の作業に100%集中できるまでには何分も時間がかかるという。(p89)
 マルチタスクは集中力が低下するだけではない、作業記憶(ワーキングメモリ)にも同じ影響が及ぶ。(p91)
 実験を行った研究者はこんな結論を出した。マルチタスクを頻繁にやる人は、些末な情報を選り分けて無視するのが苦手なようだ。つまり「常に気が散る人はほぼ確実に、脳が最適な状態で動かなくなる」(p92)
 ポケットの中のスマホが持つデジタルな魔力を、脳は無意識のレベルで感知し、「スマホを無視すること」に知能の処理能力を使ってしまうようだ。その結果、本来の集中力を発揮できなくなる。よく考えてみると、それほどおかしなことではない。ドーパミンが、何が大事で何に集中すべきかを脳に語り掛けるのだから。日に何百回とドーパミンを放出させるスマホ、あなたはそれが気になって仕方がない。(p94)
 常にデジタルな邪魔が入ることで、気を散らされることにますます脆弱になるようなのだ。それがこの数年、これだけ大勢の人が、インターネットを使っていないときでも集中できない理由ではないだろうか。(p96)
 (...)記憶するためには、集中しなければいけない。そして次の段階で、情報を作業記憶に入れる。そこで初めて、脳は固定化によって長期記憶を作ることができる。ただし、インスタグラムやチャット、ツイート、メール、ニュース速報、フェイスブックを次々にチェックして、間断なく脳に印象を与え続けると、情報が記憶に変わるこのプロセスを妨げることになる。色々な形で邪魔が入るからだ。(...)
 デジタルな娯楽の間を行ったり来たりするのは、情報を効率よく取り入れていると思いがちだ。だがそれはあくまで表面的なもので、情報がしっかり頭に入るわけではない。それなのに続けてしまう「原動力」は、そうすることが好きだから。そう、ドーパミンが放出されるからだ。(p100-101)
 グーグル効果とかデジタル健忘症と呼ばれるのは、別の場所に保存されているからと、脳が自分では覚えようとしない現象だ。(p104)
(...)本当の意味で何かを深く学ぶためには、集中と熟考の両方が求められる。素早いクリックに溢れた世界では、それが忘れ去られている危険性が高い。ウェブページを次から次へと移動している人は、脳に情報を消化するための時間を与えていないのだ。(p105)
(...)スマホが魅力的すぎて、周囲に関心がもてなくなってしまう。(p106)
(...)毎日何千という小さなドーパミン報酬を与えてくれる物体が目の前にあれば、脳は当然そっちに気をひかれる。スマホを手に取りたいという衝動に抵抗するために、限りある集中力が使われる。(...)(p106)
(...)一言で言えば、目の前にスマホを置いていると相手と一緒にいるのが少しつまらなくなるのだ。(p107)

スクリーンのメンタルヘルスや睡眠への影響

 極端なスマホの使用が、ストレスと不安を引き起こす。だが、何よりも影響を受けるのが睡眠だ。(p116)
 眠りにつく前にスマホやタブレット端末を使うと、ブルーライトが脳を目覚めさせ、メラトニンの分泌を抑えるだけでなく、分泌を2~3時間遅らせる。つまりブルーライトがあなたの体内時計を2~3時間巻き戻すのだ。(...)そのうえ、スマホがストレスを生み、ストレスが睡眠を妨げる。それでも足りないみたいに、すでに書いたようなアプリやSNS、ゲームなど、ドーパミンと関係するあらゆる刺激によって脳が目覚めてしまう。(p122-123)

SNSの影響

 他の人が何をしているのか、互いにどんな関係にあるのか。これを知っておくと有利だったため、人間にはそういう情報を得たいという強い欲求がある。(p130)
 噂話を通じて互いに目を配るのは敵から身を守るためだけではない、他の動物と違い、人間は本質的に社交性がある。お互いに協力して生き延びてこられたのはそのおかげだ。多くの研究により、社交的な人のほうが長く健康に生きられるのもわかっている。逆に孤独だと、病気になり早死にする危険性がある。(p132)
 社交への欲求は生まれたときから見られる。(...)ただし今の時代、噂話をし、コミュニケーションを取り、互いの情報を得るという社交への強い欲求は、スマホやパソコンの中に移動している。この欲求が史上最高の成功を収めた企業の基礎になっているのだ。つまり、フェイスブックと呼ばれる企業の。(p132)
 セロトニンはこれまで、心の平安、バランス、精神力に関わるとされてきた。気分に影響するだけでなく、集団の中での地位にも影響するようだ。(p138)
 セロトニン量のいちばん多いサルがボスになるだけでなく、自分がボスであることや社会的に高い位置にいることを理解して、セロトニン量が増えるのだ。(p140)
 これまでの経験から、うつには主に2種類あると気づいた。職場や人間関係など、長期のストレスに起因するものそれから、社会的な地位を失ったことに起因するもの。クビになったりパートナーに捨てられたりした場合だ。(p142)
(...)他人と競争して負ける、特に地位が下がると、人は不安になり心の健康を損なう。なのに、現代の私たちは競争ばかりしている。(p142)
 人間の祖先も部族内で競い合ってはいたが、ライバルはせいぜい20~30人だった。一方で、現在の私たちは何百万人もの相手と張り合っている。何をしても、自分より上手だったり、賢かったり、かっこよかったり、リッチだったり、より成功していたりする人がいる。ヒエラルキーにおける地位が精神状態に影響するなら、この接続(コネクト)された世界 ー あらゆる次元で常にお互いを比べ合っている世界が、私たちの精神に影響を及ぼすのはおかしなことではない。(p143)
 それ以外の場所で他の人からしっかり支えられている人は、SNSを社交生活をさらに引き立てる手段、友人や知人と連絡を保つための手段として利用している。そうした人たちの多くは、良い影響を受ける。対して、社交生活の代わりにSNSを利用する人たちは、精神状態を悪くする。(p148)
 人間の歴史のほぼ全期間、人口の1〜2割が他の人間に殺されていた結果、私たちは紛争や脅威のニュースに格段の関心を持つようになった。それが生死にかかわる情報だからだ。フェイスブックのアルゴリズムはニュースの選定がいい加減で、私たちが読んで拡散するかどうかだけで決まる。ということは、紛争や脅威に関連したニュースがとりわけ速いスピードで拡散される可能性がある。極端に明るいニュースについても同じだ。それが真っ赤な嘘で固められた内容だとしても。(p165)

子供や若者への影響

(...)数年前の実験で、スマホを使っていない被験者数人にスマホを持たせた(...)。知りたいのは、報酬を先延ばしにする能力がスマホを使い始めることで変化するのかどうかだった。そして、まさにその通りになった。(p181)
(...)スマホの過剰使用で若者の精神状態が悪くなるメカニズムは複数考えられる。ストレスを引き起こして精神状態を悪化させていることもあれば、若者の自尊心を壊してしまうこともある。フェイスブックの親指マークやインスタグラムのハートによって、常に他人を自分と比較し、1秒ごとに何百人という同年代の若者に批評される。そして、自分がヒエラルキーの最下層にいるように感じてしまう。
 さらに問題なのは、それ以外のことをする時間、特に心の不調をガードする活動の時間を奪ってしまうことだ。毎日スクリーンの前で4時間も過ごしていると、子供や若者は遊んだり「本当の」社会的接触を持ったりする暇がなくなる。運動やしっかり睡眠を取る時間もない。(...)(p195)

運動の効果

 脳の大部分はサバンナでの日々から変わっていないわけだから、身体を動かすことであなたや私の集中力は高まる。(...)この時代にも可能な限りうまく機能するためには、生物学的な生存メカニズムを活用すればいい。(p208-209)
 身体を動かすとストレスへの耐性がつくし、現代では貴重品になった集中力を与えてくれるから、デジタルな時代を生き抜く助けにもなる。ただ問題は、運動量がどんどん減っていることだ。今でも狩猟採集民として原始的な農耕社会に暮らす部族を調査すると、私たちの祖先は毎日1万4000歩から1万8000歩、歩いていたと思われる。今の私たちは1日5000歩にも満たない。そしてその数字は10年ごとに減っている。(p213)
 いちばんいいのは、6か月間に最低52時間身体を動かすことだ。これは週に2時間という計算になり、さらに分割すると、例えば45分が3回になる。それより長く運動しても、さらに効果があるわけではないようだ。もちろん身体にコンディションはよくなるが。脳だけの話をすると、週に2時間あたりのどこかで効果に限界がくる。言い換えれば、マラソンまではする必要なしということだ。
 脳の観点から見ると、心拍数は上げないより上げたほうがいい。と言っても、速足で歩くだけでも驚くほどの効果がある。できることをやって、心拍数が上がればなおよしというわけだ。(p216)

不幸にならないために

 私たち人間は自然に幸せな気分にはならない生き物だ。人間を形成してきた世界では、半数が10歳にならずに亡くなり、平均寿命は30歳で、感染症や飢餓、殺人、事故、そして猛獣に殺されてきた。癌や心臓病ではなく。そんな世界で生き延びるためには、心配性で警戒心が強いことが調書だた(p233)
 私たちの祖先の99.9%にとって食べ物、安全、見通せる未来といったセーフティネットは、日常には存在しなかった。今のような余裕のある環境に、自然はまだ人間を適応させられていない。だから私たちは不安を感じ、危険を探し続ける。本当はもうそんなことをする必要はないのに。(p235)
 ここまで読んで、あなたはがっかりしただろうか。その気持ちはよくわかる。だが絶望のあまり本を閉じてしまう前に、私はこう言いたい。実際には、必然的に不幸になると決められているわけではない。ほとんど全員が元気になれるようなコツがいくつかある。睡眠を優先し、身体をよく動かし、社会的な関係を作り、適度なストレスに自分をさらし、スマホの使用を制限すること。個人的にはもっと多くの人が心の不調を予防することが解決策だと思っている。解決法は薬箱の中にあると反射的に思いがちだが。(p235)

感想

精神科医でいらっしゃるだけあって、科学的かつ論理的。読み進めるにつれて、スマホ依存症になったり、集中力を欠いたりするメカニズムが腑に落ち、「そうだったのか!」と霧が晴れるような納得感と、その深刻さにぞっとするような恐怖感を味わった。

まず、目から鱗の気づきを得たのは、脳は人類の進化に追いついていない、ということだ。脳の大部分は、私たちの祖先がサバンナで狩猟をしていた日々から変わっていないというのだ。

私たちには、生存のための生物学的なメカニズムが依然として存在していて、感情や行動がコントロールされてしまう。それにより、食料事情が良いにもかかわらず減退しないカロリー欲求や、新しい情報や知識への欲求などの説明がつく。不確かな結果への偏愛が、ドーパミンを放出し、感情や気分がコントロールされ、ギャンブル依存症などの影響を引き起こすというのも合点がいった。

そんななか、スマホやSNSが登場した。新しい情報を四六時中いとも簡単にもたらしてくれるスマホやSNSに対して、生物学的メカニズムによって、私たちは常にスマホに注意を奪われ、スマホに依存してしまう。

ITの開発者たちが、このような危険性を十分に承知していて、自分の子供たちに対してはデジタルの使用を制限しているというのが、なんとも皮肉で、やるせない気持ちになる。

そして、スマホ依存が、私たちの集中力や記憶に悪影響を与える。スマホが魅力的すぎて、リアルな対人関係がつまらなくなる。SNS上では、何百万の人との競争にさらされ、人々を常に不安な状態にする。フェイクニュースが一瞬にして世界中に広まる。悪いことばかりだ。

本書の後半で筆者が提案する対応策は、睡眠をしっかり取ろう、運動しよう、スマホ使用やSNSを制限しよう、本来の社会的つながりを作ろう、という、巷でよく言われる、ありきたりなものだ。そんなメッセージを知ると、「なんだ、それだけか」とがっかりする読者もいるかもしれない。

しかし、この本を最初からしっかり読みこんで、生物学的メカニズムについて1つ1つレクチャーを受けた後で、この提言を聞くと、とても重みがある。これらの対策が、生物学上とても重要であることが、しっかりと腹落ちするのだ。

この本に出会えて、本当に良かった。スマホの使い方やスマホに対する意識次第で、スマホが自分の精神や生活へ及ぼす影響が大きくも小さくもなるということが、嫌というほど理解できた。1000円程度の新書の料金で、これだけの知識と気づきを得られるとは、何とコストパフォーマンスの高い学びだろうか。うつ病予防策としても、手軽だし、効果も絶大だと思う。

ぜひ一度、この本を、最初から最後まで読み通してほしい。それこそ、読書の途中で、あなたのすぐ側に置かれているスマホが気になり、誘惑に駆られて、集中力が切れて、スマホをいじってしまいたくなるかもしれないが…。

でも、この本だけは、それをぐっと我慢して、通読してみてほしい。きっと、あなたのスマホ依存症を解決し、スマホとの上手な付き合い方を見つけるきっかけを与えてくれるだろう。

ご参考になれば幸いです!

※私の過去の読書録記事へは、こちらのリンク集からどうぞ!


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