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映画「日本のいちばん長い日」(1967)感想

明治維新と終戦

自他ともに認める歴女の私。

子どもの頃は戦国時代が一番好きだったが、大人になってからは明治維新と終戦にも興味を持つようになった。

なぜなら、この二つは我が国にとって最もドラマティックな出来事だから。

どちらも一歩間違えれば日本が滅んだかもしれないギリギリの状況の中、当時の為政者たちは”天皇制”という最後のカードを使い難局を乗り越えた。

明治維新も終戦も、”天皇”という存在がなければ成功しなかっただろう。

そんな歴史を振り返ると、天皇制ってすごいなと感心せざるを得ない。

そこから私は天皇の歴史にも興味を持ち、色々調べるようになった。

・・・早速話が脱線してしまったが、今回は終戦にまつわる様々なドラマを描いた映画「日本のいちばん長い日」の感想を述べたいと思う。

この映画を知ったきっかけ

数年前、TVの戦争特集で私はこの映画の存在を知った。

なんとなく日本史で覚えた「1945年8月15日 終戦」という歴史用語。

当番組は、終戦の裏に戦争を終わらせたい人と終わらせたくない人の様々なドラマがあったことを無知な私に教えてくれた。

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私はまず原作である『日本のいちばん長い日 運命の八月十五日』を読んだ。

とても読み応えのある内容で、是非映画も観てみたいと思った。

先日WOWOWで1967年版が放送されたので、鑑賞した次第である。(2015年上映のリメイク版は未視聴)

映画「日本のいちばん長い日」

「日本のいちばん長い日」のあらすじは以下の通り。

ーあらすじー
広島と長崎への原爆投下やソ連の参戦など、日本の敗戦が決定的となった昭和二十年八月、特別御前会議でポツダム宣言の受諾が正式に決定した。
だが終戦に反対する陸軍将校たちはクーデターを計画、一方、終戦処理を進める政府は天皇陛下による玉音放送を閣議決定する。
終戦反対派は各部隊ごとにバラバラに行動を開始、やがて終戦を受け入れようとする師団長を射殺したり、玉音放送を中止すべく録音物を奪取しようとするなど、その行動が徐々にエスカレートしていく。

当作品は、御前会議、玉音放送までの詔書作成、宮城事件、鈴木首相宅焼き討ち、厚木航空隊事件、児玉航空基地での特攻隊出撃シーン等を絡めつつ8月15日正午の玉音放送までを描く・・・という構成になっている。

映画の舞台となったあの場所へ、私は足を運んでいた。詳細なレポをどうぞ。
旧近衛師団司令部庁舎→美術館:東京国立近代美術館工芸館
陸軍士官学校本部→市ヶ谷記念館:防衛省見学ツアー
宮城→皇居:平成最後の天皇誕生日 一般参賀

ではお待ちかね、Sayulist独自の視点で書いた感想をどうぞ。(※今回もツッコミ気味です)



タイトルが出てくるまでが、日本でいちばん長い

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全編157分の映画で、タイトルが出てくるのが開始21分後

忘れかけてた頃に題字が出てきて、その瞬間思わず「おそっっ!!」と言ってしまった。

これは、「日本でいちばん遅くタイトルの出てくる映画」と言っても過言ではないだろう。

親切な配慮

大臣やら軍人やら、とにかく登場人物が多い当作品。

歴史マニアじゃなくてもわかるように、登場人物が出てくる際、このように名前+役職のテロップを付けてくれる配慮は大変ありがたい。

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↑主役級の阿南惟幾陸軍大臣。あの三船敏郎が演じている。

初めはテロップに従って、「フムフム、この人は〇〇大臣の○○さんだな」「○○軍の○○という階級の○○さんか」と覚えていたのだが・・・。

次々と出てくる軍人に至っては、だんだん顔と名前が一致しなくなってきた・・・。

モノクロ映画だし、出てくるのは全員成人男性で(女性の登場人物はたった一人!!)、基本的に軍服だし(文官やNHK職員はスーツだが)、よほど特徴のある顔でない限り、そりゃみんな一緒に見えてくるよ・・・。

視聴注意の過激な描写

戦争を取り扱う映画だけに、殺人や切腹などの生々しいシーンが出てくるのも覚悟しなければならない。

一番ビックリしたのは、首が切られて胴体から離れるシーン。

思わず、「えぇ~!!」と声を出してしまった。

そして、阿南大臣の切腹シーンはわかっていてもやり切れなかった(その様子を見届けた者の証言によると、彼は介錯を断ったという)

モノクロなので真っ赤な血を見ずに済むのはマシだが、そういったシーンが苦手な方は鑑賞前に注意していただきたい。

とにかく騒がしい

幼少期からガチガチの軍国教育を受け、軍人となった日本男児たち。

天皇を現人神(あらひとがみ)として崇拝し、お国のために死ぬことを信じて疑わない彼らのメンタルは、現代のイスラム過激派の若者たちと変わらないのではないか・・・。

天皇の御聖断で終戦が決定したと知られた後も、一部の者は「戦争はやめさせない。本土決戦に持ち込むんだ!!」とばかりに玉音盤(天皇の言葉を録音したレコード)を奪おうとしたり、他にも色々とめちゃくちゃな行動をし、その声も音もとにかくやかましかった。

玉音盤を求めて宮内省内を泥棒のごとくドタバタと漁りまわる、鈴木首相官邸などをドンパチと襲撃、8月15日の朝も馬を走らせ大声をあげビラをばらまく・・・。

血気盛んな若者だし命がけなのはわからなくもないが、常に目ん玉ひん剥いて「ウォ~!!」という感じで、平和ボケしている現代の日本人にはとても付いていけないテンション・・・。

最後の方はボリュームを絞って鑑賞したことは言うまでもない。

端々に感じられる天皇の神聖性

御聖断、御前会議、玉音、宮城(※”みやぎ”ではなく”きゅうじょう”と読む。皇居のこと)・・・現代では使われない用語がどんどん出てくるが、天皇にしか使えない特別な用語が私は好きだ。

映画の中でやたらと出てくる「国体護持」という言葉は「天皇の国法上の地位と権威を守ること」という意味だが、現代人の感覚だと「国体(=国民体育大会)1位」とかで使われる国体しか出てこない・・・。(汗)

70年余りしか経っていないのに、隔世の感を禁じ得ないよね・・・。


一番印象的だったのが、昭和天皇のお姿をなかなか映さないところ。

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↑ 1回目の御前会議。金屏風の前に座っているのが昭和天皇だが、閣僚の顔であまり見えないようになっている。


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↑ 2回目の御前会議。菊の御紋の椅子から頭が映っているだけだが、日本人ならこれだけで昭和天皇だと推測できる。

「やがて天皇が静かに立ち上がられた。」とナレーションが流れるが・・・。

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やはり人の頭で、よく顔が見えないようになっている。


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「私自身はいかようになろうとも、国民にこれ以上苦痛を舐めさせることは、私には忍びえない。」と、涙ながらに閣僚たちに訴える昭和天皇。(顔のアップはこのアングルのみ)


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ハンカチで涙を拭った後、手の震えで悲しみを表現している。


戦前、天皇は現人神と呼ばれ、その姿を見ることなど畏れ多いといわれてきたが、当作品でも畏敬の念がこういった描写によく表れている。


そして、さらに驚いたのは配役のクレジットタイトル!!

昭和天皇役は、八代目松本幸四郎が演じたが、重要な登場人物かつ存命で在位中の時代ということもあり、クレジットもパンフレットにも紹介されないなど、扱われ方に特別な配慮がなされたそう。

1967年というと終戦から22年経っていたわけだが、まだまだ天皇を映画の登場人物として出すのは畏れ多いという気持ちが強かったようだ・・・。


ちなみに昭和天皇は、この映画を公開年の12月29日に家族とともに鑑賞されたという。

一体陛下はどんな感想をお持ちになったのだろうか?

玉音放送なのにいいの!?

そんなありがたい昭和天皇のお声が入った玉音放送。

私は歴史的価値のあるこのお言葉をじっくり拝聴しようと、耳を傾けた。

「朕(チン)深ク世界ノ大勢ト帝国ノ現状トニ鑑(カンガ)ミ非常ノ措置ヲ以テ時局ヲ収拾セムト欲シ茲(ココ)ニ忠良ナル爾(ナンジ)臣民ニ告ク

朕ハ帝国政府ヲシテ米英支蘇四国ニ対シ其ノ共同宣言ヲ受諾スル旨通告セシメタリ」

うんうん・・・。

「長い長い24時間だった。」

へ!?

「かくして、日本のそのいちばん長い日が終わった・・・。」

・・・いやいやいやいや、それはないだろう。

な、なんと、玉音放送にナレーターの声が被さるという演出が・・・。

え~、映画のラストを飾る玉音放送をゆっくり聴かせてよ。

天皇の描写に細かく配慮していたのに、「玉音放送にナレーターの声を被せるのは畏れ多くはないのか!?」と思わずツッコんでしまった。

エンドロールが・・・

「あぁ終わった。とりあえず誰がどの役をやったか、エンドロールでゆっくり確認しよう」と思っていたら・・・

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↑キャスト紹介、雑すぎやしないか!?

作品の性格上、誰が主役とかどういう順番に載せるのかとか苦慮するのは理解できるので登場順というのは構わない。

しかし、せめてどの俳優が誰の役を演じたのかぐらいは書いて欲しかった・・・。(まぁ、今の時代ネットで調べればわかるけどね)

・・・というわけで、最後までツッコミどころの多い映画であった。

総論

とまぁ気になる点は色々あるが、製作陣も俳優たちもほぼ戦前生まれ(多分)で、当時の若者たちの熱量をしっかり表現してくれたのは良かったと思う。

是非、当作品を観ていただき、「戦争を終わらせるのはこんなに大変なことなんだな。彼らのおかげで、現在の日本の平和があるのか・・・」と、先人たちの努力を知っていただきたい。

え・・・私が繰り返し観るかって!?

欲をいうならば、現代の技術を活用してカラーで再現できないだろうか。

それならば、是非また観てみたいと思う。

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