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ファッションを捨てられないミニマリストと、シャネルスーツ

漠然と、シャネルスーツを着てみたいなぁという願望が昔からある。

いつ着る、どこで着る、何のために着るなどと条件はさておき、一度着てみたい。

この願望は、子供が無邪気にお化粧品に憧れたり大人サイズの野球グローブに憧れるような感覚に近い。

素敵だから憧れている。
いつか着てみたいな、と年に数回思ったりする。
それが例え現実にならなくても良いのである。

シャネルスーツに憧れがあるだけで、シャネルというブランド自体にものすごい憧れがあるわけではない。

ココ・シャネルを題材にした映画は好きで繰り返し見たりもしているが、シャネルならなんでも良いわけではない。
今のところシャネルのお財布やバッグが欲しいという願望はない。

何故だろう、シャネルスーツが良いのである。

私が所有する、唯一のシャネル

私が所有する唯一のシャネルは、ネイルエナメルである。
マニキュアだ。

カラーは落ち着いたピンクベージュ。
フォーマルにもカジュアルにも使いやすい、ベーシックな色。

これを買うとき、売り場で随分悩んだことを覚えている。
その時、本当に欲しかったのはワインレッドだった。目星もつけてあったはずなのに、売り場に並ぶ色とりどりのボトルを見ていたら、何故か目立つ色以上に「馴染む色」が魅力的に思えたのだ。

派手な色が欲しくてデパートまで行ったのに、購入したのは無難なピンクベージュ。

せっかくお店に来たのだから派手な色も一つ買っておこうかとも思ったのだが、この1本だけにした。

結果として、とても良い買い物をしたと思っている。

指先のお守り

派手なマニキュアが好きだった頃もある。
ネイルサロンに通っていたこともあるし、セルフで塗るためのマニキュアをごっそり持っていた時期もあった。

でも今は、シャネルの無難なピンクベージュが1本あれば十分なのだ。

あ、私、いまシャネルのマニキュア使ってるんだった。

この小さな満足感が、ちょうど良く心を満たしてくれる。
ちょっと嫌なことがあったり面倒なことがあった時に指先を見る。触る。

あ、そうだ、今シャネル身につけてるんだった。

憧れのシャネルスーツは着られないけれど、別な形で小さく夢を叶えているような気分にさせてくれる。

指先のお守りなのである。

ファッションを捨てられないミニマリスト、いつかシャネルスーツを買う日が来る?

そもそもモノを極力所有したくない性格なので、着る機会が年に1回あるかないかのシャネルスーツを購入する日は永遠に来ない。と、思う。

今のところ買う予定もないし、試着すらしたことがない。

欲しいと買うはまた別物なのだ。
「買う」意思がないから、試着しない。

一度も腕を通したことがない。ただ漠然と、いいなぁと思う。
だが、その方が夢があって良いのだ。

叶うことはなさそうな、叶えたいようで叶えるつもりはない…と言いながらやっぱり欲しいと思ってしまう、危ういバランスの上で成り立つ夢。

その夢を、夢として楽しませてくれるピンクベージュの爪が、今日もツヤツヤと輝いている。



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