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パンクロッカーに憧れた少女の日記(仮)56


中三・冬休み
今日は超久しぶりに伊勢佐木町に行かれた。お父さんが会社の人たちと釣りに朝から出掛けていなかったのと、例の人の機嫌が良かったから。おまけに里香は友達の家に行ってたから私一人で行くことが出来てラッキーだった。いつものことながら、例の人の機嫌のいいときってのは何か悪いことをしてる時なんだけどね。でもどうしようもない。CDでも買おうとまずはハマ楽器に行ったけどこれといってほしいものはなかったから次は有隣堂に行こうかと思ったけど、前から気になってた、いせ一にまず行った。舶来品のお菓子やお酒が売ってるってことは知ってたけど、見たこともないお菓子がいっぱいあって感動した。ブラジルのチョコレートなんて初めて見たよ。やけに甘ったるそうな、でっかい箱の。そういえば幼稚園の頃、商店街のはじっこにある酒屋で例の人によく舶来品のお菓子を買ってもらった。今その店はお菓子はほとんど売ってなくて、お酒とたばこばっかりだけど。懐かしいな、コインの形したガムとか、指人形のおまけが入ったお菓子の詰め合わせとか。例の人はなぜか昔からお菓子だけはよく買ってくれた。私は特に袋に動物の顔が描いてあるアメがお気に入りで、あれもブラジル産だったのを覚えてる。あんまりおいしくなかったけど、カラフルで、なんかすごく好きだった。いせ一では目移りしたけど、ロンドンバスの形した箱に入ったアメを買った。買った後歩きながら食べたけどおいしかった。そんで有隣堂に行って、まずは哲学や心理学のコーナーを見て、面白そうな本があったけど、洋書コーナーを見てから買うかどうか考えようと思って階段を上ってる途中、トイレに行きたくなったから入って、出たらメリーさんに遭遇した。鏡の前で髪を直してて、鏡ごしに目が合ってしまい、何か声をかけようかな、どうしようかと考えてたら人が入ってきたけどその人はメリーさんを見てびっくりしたのか去って行った。メリーさんを知らないんならモグリの偽ハマッ子かよそ者だろう。その人はおばさんだったけど中学生の私でも知ってるのにさ。私が手を洗って、ドアを開けたらメリーさんも出ようとしたから先にどうぞって手ぶりをしたらThank youって小さな声がした。確かにそう聞こえた。元々、洋書コーナーに行くつもりだったけど、メリーさんに背中を押されたような気がして一目散に向かった。メリーさんはこんな私みたいなガキなんて、眼中になかっただろうけどさ。まず洋雑誌のコーナーを見たけど、こういう時に限って買いたいと思うほどのものがなかったりするもんだから、さんざん悩んだ。せっかく来たのに何にも買わずに帰りたくないって。でもいくらお年玉を例の人に取られたくないからって、欲しくもないものを買うのはごめんだ。お年玉いっぱいもらったわけでもないし。でも取られるのはシャクにさわる。思想、哲学のコーナーにまた戻ろうかなと思ったとき、何となく語学と辞書のコーナーが気になって寄ってみた。色んな国の言葉の参考書があるんだなとながめたり、英検の問題集をパラパラ読んだりした。でもほしいものは見つからなくて、何度もうろうろしてたら、そうだ、今持ってる辞書は中1の時に買ってもらったしょぼいやつだから、もっといっぱい単語が載ってるやつほしいなと英和辞典の棚を見てみたら、すごいのがあって、これだ!と思った。手に取って、ケースから取り出してずっしりと重さを感じながら、パラパラとめくって見たけど、そんなことしなくてももう心の中では買うってことを決めていた。お年玉で辞書を買う中学生なんておかしいかも知れないけど、ちょっと贅沢したい気分になった。レジに持って行ったら「ご自宅用ですか?」って聞かれたから、はいって答えたけど店の名前が入ってる包み紙できれいに包んでから紙袋に入れて、それから手さげ袋に入れてくれた。何か宝物のように感じて嬉しかった。本当にいい買い物をしたよ。ちょっと高かったけど気にならない。これで今までの辞書では載ってなかった、洋雑誌に載ってる単語や、英語の歌詞の意味が分かるようになるぞ。イエ~!もう、使っちゃったもんね、お年玉。少しは残ってるけどさ。もし例の人に返品して来いなんて言われたら嫌だから(返品できるか知らないけど、例の人が強引に店の人に迫るのも見たくはない)、自分の名前を油性ペンで裏表紙の裏に小さく書いた。表紙と裏表紙の裏には、世界地図が載ってる。Union of Soviet Socialist Republicsか、、ソ連はこの間、なくなってしまったよ。。。この地図、ドイツもまだ東と西に分かれてるや。次の版が出るときにはもう、当然東ドイツもソ連も、地図に載ってないんだよなぁ。ある意味これは貴重な資料だと思おう。よし、ベルリンにもロシアにも絶対に行くぞ。アメリカやイギリスはその次の次くらいでいい。今日はいい日だ。例の人の機嫌が妙に良かったのは気になるところだけど、私がどうにかできることでもないからなぁ。気に病んでもしょうがない。まぁ、気に病んでしまうのだけれど。。。今日はこのリーダーズ英和辞典のお陰で一日生き延びることが出来た。きっとあと1週間くらいはこれのお陰で生きてられる気がするよ。ああ、ちゃんと勉強がしたい。高校になったらもう塾には行かせてもらえないから、家での勉強だけが勝負になる。学校に自習できるような教室があればいいけど、あったとしても、例の人は帰りが遅いって怒るかも知れないな。本当はもう少しだけでも遠くの高校行きたい。けど私には選択権がない。この辞書でまず、'fuck'を引いてみた。意味なんてとっくに分かってるのに。なんか自分で引いておいて大笑いしてしまった。fuckが今年の初笑いだなんて、一体どんな年になるんだろうか。