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The Lost Universe 巨大翼竜④超巨大翼竜

ファンタジー世界の天空を舞う巨大なドラゴンは、多くの人々を虜にしています。翼竜は太古の飛竜ワイバーンとも称されますが、実在の生き物である彼らの大半はあくまで「飛行生物として現実的なサイズ」でした。ただし、一部の翼竜には伝説のドラゴンに迫るほどの巨体の持ち主がいました
飛行生物としての極限まで巨大化の道を歩んだ超巨大翼竜。彼らの生態を想像すると、無限の関心とロマンが湧いてきます。


中生代の天を翔ける超弩級のワイバーンたち

巨大化の道を選んだアズダルコ類とプテラノドン類

超巨大翼竜として著名な分類群がアズダルコ類です。ペルシアの伝説に登場するドラゴンであるアジ・ダハーカ(Aži Dahāka)が語源となっており、その名が示す通りに、本グループには圧倒的な存在感と巨体を誇る大型種が多数含まれています。サイズにおいては、これまで紹介してきた翼開長5 mクラスのアンハングエラやトゥプクスアラの比ではなく、アズダルコ類の頂点的な巨大翼竜には翼開長10 m以上の種類がいました

翼開長が約5 mあるアンハングエラ(徳島県立博物館にて撮影)。彼らも十分巨大なのですが、アズダルコ類の大型種はアンハングエラの2倍以上の大きさを誇っていました

アズダルコ類は主に白亜紀後期に大型化の道を歩み、史上最大の飛行生物たちを輩出しました。近い時代ではプテラノドンの仲間も大型種を生み出しており、中生代の末期の翼竜たちは総じて巨大化傾向にあったと思われます。
白亜紀前期までの翼竜は小型~中型の種類でも、地上の恐竜たちに負けないほど大いに繁栄してきました。では、なぜアズダルコ類やプテラノドン類はとてつもなく大型になったのでしょうか。

プテラノドンに近縁な大型翼竜ゲオステルンベルギアの頭骨(ミュージアムパーク茨城県立自然博物館 第89回企画展「恐竜vs哺乳類 -化石から読み解く進化の物語-」にて撮影)。頭だけで人間の体ほどの長さがあり、翼開長は6 m以上になったと考えられます。

1つの理由として考えられるのは、当時に勢力を伸ばし始めていた鳥類の影響です。鳥たちは活動能力の高さを活かし、様々な環境に適応していきました。食糧や生息場所をめぐって、小型翼竜と鳥類が激突することは多々あったはずです。
苛烈な競合を避けるために、翼竜は多くの鳥たちとは生態や食性の異なる道を選んだのかもしれません。生存競争と環境適応の果てに誕生したのが、アズダルコ類をはじめとする超巨大翼竜だったのです。

白亜紀の鳥類コンフウキウソルニスの一種(天草市立御所浦恐竜の島博物館にて撮影)。恐竜から進化してきた鳥たちは、翼竜にとって強力な空のライバルでした。

メガサイズの翼竜はどのように飛翔したのか?

翼竜の体重推定値には幅がありますが、最大級のアズダルコ類の翼竜は体重250 kg以上あったと言われています。これはライオンやトラと同じ重さであり、「そんなに重い動物がいったいどうやって空を飛んだんだ?」という疑問が必然的に生まれます。
これほど巨大な飛行生物は現代には存在しないため、超大型翼竜の飛び立ち方については、多くの議論が展開されてきました。航空力学的な観点から、彼らの離陸方法は他の飛翔動物とは異なっていたと考えられます。

プテラノドンの実物大模型(栃木県立博物館にて撮影)。大型アズダルコ類より軽量ですが、それでも現生の飛行生物と比べればはるかに大きく重い動物です。

ここで確実にお伝えしておきたいのは、翼竜は強靭な筋肉を有しており、羽ばたき飛行する能力があったという事実です。つまり、何らかの工夫で勢いがつけば、十分に巨体を舞い上がらせることが可能なのです。そして、広い翼で風を受ければ、(小型の飛行生物ほど軽やかでなくとも)はるかな空へと飛翔できたでしょう。
飛び立ち方に関してですが、「前足を支えにして後ろ足でジャンプ→翼を一気に伸ばして力強く羽ばたく→翼を広げて飛び立つ」というのが一般的な翼竜の離陸方法であったと考えられています。しかし、とてつもなく巨大な超大型翼竜たちが上記の方法で離陸できたのかは不明です。

プテラノドンの翼を支える前足の骨(岩手県立博物館にて撮影)。強力な翼を備えているので、力強い羽ばたき離陸ができたと思われます。ただし、大型アズダルコ類は本種よりさらに、軽やかな垂直離陸ができたかは疑問です。

「海の上に吹く気流に乗って飛んでたんだろう」と思う人もいらっしゃるかもしれませんが、大型翼竜の中にはは内陸部で暮らす種類もいたので、彼らはほぼ自力で地面から飛び立たなくてはなりません。一説によると、巨大翼竜は後足で立ち上がり、猛スピードで助走をつけて離陸していたと言われています。ただ、現在の説では、必ずしも全力ダッシュしなくてもアズダルコ類の翼竜たちは空へ飛び立てたと考えられています。
翼の前方にある骨を下向きに動かせば、翼の断面は緩やかな弧を描く形となり、翼の上方では下方よりも空気の流れが速くなります。それによって揚力が生まれ、巨大翼竜は離陸が可能となるのです。この構造は、鳥や飛行機の翼にも共通しています。

翼を広げたコサギの剥製(富山市科学館にて撮影)。種族は違えど、揚力を得られる翼の仕組みは翼竜と共通していました。

飛行生物の飛び方を知れば知るほど、超巨大翼竜の存在が不思議に思えてきます。地球の重力に挑むかのように、大きな体で天空へ飛翔していた太古の空の帝王。彼らはいったいどのような生態を有し、どのように暮らしていたのでしょうか。

超巨大翼竜(アズダルコ類・プテラノドン類)

ケツァルコアトルス 〜セスナ飛行機と同じサイズ? 史上最大級の飛行生物!〜

史上最大クラスの飛行生物として名前があがる翼竜は、全てアズダルコ類の仲間です。その中でも、最も完全な骨格が発見されている種類がケツァルコアトルス・ノルトロピ(Quetzalcoatlus northropi)です。白亜紀後期(約6800万〜約6600万年前)の北アメリカに生息していた新しいタイプの翼竜であり、ティラノサウルスやトリケラトプスなどの有名恐竜と同じ時代に生きていました。
大きさの推定値は研究者によって異なっていますが、その翼開長は確実に約11 mに達していたと考えられています。これはセスナ飛行機の機体の幅とほぼ同サイズであり、他の飛行生物を大きく引き離しています。翼を畳んで立っている状態でも体高は約6 mあり、背の高さはキリンと互角です

超巨大翼竜ケツァルコアトルスの全身骨格(北九州市立いのちのたび博物館にて撮影)。翼開長は10 m以上あり、史上最大級の飛行生物であったと言われています。でかすぎる!

これだけ大きいと体も相当重いです。名古屋大学の研究チームの試算によると、体重およそ259 kgと推定されています。まさに伝説のドラゴンと呼べる巨大飛竜であり、前項で述べた飛翔方法を用いて、力強く白亜紀の天空に舞い上がっていたことでしょう。さらに、これほどの大きさにも関わらず飛行速度はとても速く、時速60 kmのスピードで空を飛べたと考えられています。

超巨大翼竜ケツァルコアトルスの食性については、様々な説が提唱されています。とてつもない巨躯を誇るので、餌のサイズもかなり大きかったと思われます。中には、地上に降り立って小型の恐竜を捕食していたという意見もあります。
彼らのクチバシはとても鋭く、強烈な突きはかなりの威力があったと思われます。また、翼を広げたときの威圧感は相当なものであり、小型肉食恐竜ではなかなかケツァルコアトルスを攻撃できなかったでしょう。

ケツァルコアトルスの復元模型(神奈川県立生命の星・地球博物館にて撮影)。巨大な彼らは悠々と天を舞い、地上に降りた立って陸上動物を捕食していたと考えられます。

なお、恐ろしいことに、アズダルコ類の中には、ケツァルコアトルスよりも巨大な翼竜が存在していた可能性があります。部分的な化石しか発見されていませんが、ルーマニア産のハツェゴプテリクス・タンベマ(Hatzegopteryx thambema)は翼開長が12 m以上あったとも言われています。骨の密度の高いハツェゴプテリクスはケツァルコアトルスよりも体が重かったとされており、またしても「こんなに大きな生き物が本当に飛べたのか?」という論争が巻き起こっています。
白亜紀の大空には、我々の予想をはるかに超える超巨大翼竜が飛び交っていたのです。それはまさしく、天にドラゴンが舞い踊るファンタジー世界の光景と言えるでしょう。

プテラノドン 〜知名度も大きさも驚異的! アズダルコ類にも負けない翼竜界のトップスター〜

古生物学においてアズダルコ類は超巨大翼竜の顔として言われていますが、他のグループの中にも彼らに負けないサイズの大型種が存在していました。そう、古今問わず創作物にて大活躍する我らがプテラノドン・ロンギケプス(Pteranodon longiceps)です。
ケツァルコアトルスよりもやや古い時代(約8930万〜約7400万年前)に生きていた白亜紀の大型翼竜であり、翼開長は7~8 mあったと考えられています。周知の通り、頭部の大きなトサカが本種のアイデンティティとなっています。このトサカはオスのみに発達した特徴であり、性的ディスプレイの役割を果たしていたと考えられます。

プテラノドンの実物大復元模型(三笠市立博物館にて撮影)。最も人気の高い翼竜で、知名度の高さは全古生物の中でもトップクラスです。

プテラノドンのクチバシの化石の中から魚の骨が発見された事例があることから、彼らは沿岸部に棲む「海鳥型」の魚食性翼竜だったと思われます。巧みな飛行技術で海面近くを飛び、水鳥のように長大なクチバシを水中に差し込んで、魚を捕らえていたと推測されます。彼らは滑空メインの飛行スタイルだったと考えられるので、かなり遠くの沖合にまで魚を探して飛んでいけたはずです。
また、プテラノドンは力強い翼を有しており、ときおりダイナミックに羽ばたいていたと思われます。彼らの背中と腰の椎骨はくっついて一体化しており、飛行中に体幹がブレにくい安定構造となっていました。さらに、背骨の突起が連結して1枚の板のようになっていて、翼を動かす筋肉は大きくて強かったと考えられます。こういった先進的な飛行への解剖学的特徴は、ケツァルコアトルスのようなアズダルコ類にも認められます。

プテラノドンの骨格(神奈川県立生命の星・地球博物館にて撮影)。翼を動かす筋肉は大きく、飛行能力はとても高かったと思われます。

なお、創作物においては、よくプテラノドンが人間を掴んで飛び去る姿が描かれています。あの描写はパニック映画の伝統的なシーンと言えますが、体重の軽い子供や赤ん坊ならともかく、さすがに成人男性を持ち上げて飛び立つことは不可能であったと思われます。ただ、誇張した表現が描かれることは揺るぎない人気の証であり、プテラノドンの知名度は他の翼竜と一線を隠しているという事実が見て取れます。
学術界のみならずメディアにも強烈な印象を残すプテラノドン。その巨大さと名声から考えて、間違いなく彼らは翼竜界の王様です。これからも翼竜の王者として、多くの人々を魅了し続けてくれることでしょう。

古生物界において、恐竜と並んで圧倒的な人気を誇る翼竜。ダントツにかっこいい彼らの飛んでいる姿を一度は見てみたいと思うのは、世界人類の誰もが抱く夢だと思います。
実は、現代の地球上でも、翼竜と思しき未確認生物の目撃情報が多数報告されています。私たちは、はるかな時を越えて、太古のワイバーンと出会うことができるのでしょうか。

【前回の記事】

【参考文献】
ペーター・ヴェルンホファー(1993)『動物大百科別巻2 翼竜』平凡社
Buffetaut, E., et al.(2002)"A new giant pterosaur with a robust skull from the latest Cretaceous of Romania." Naturwissenschaften, 89(4): 180-184.
編:デイビッド・アンウィン(2007)『世界最大の翼竜展 恐竜時代の空の支配者 ガイドブック』朝日新聞社
Dyke, G., et al.(2010)"Early Cretaceous (Berriasian) birds and pterosaurs from the Cornet bauxite mine, Romania." Palaeontology, published online before print 15 September 2010.
Goto, Y., et al.(2022)"How did extinct giant birds and pterosaurs fly? A comprehensive modeling approach to evaluate soaring performance." PNAS Nexus, Volume 1, Issue 1
南部靖幸(2022)『熊本博物館特別展「世界の大翼竜展」展示ガイドブック』熊本市立熊本博物館

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