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The Lost Universe 巨大翼竜③魚食性巨大翼竜

「古代の生き物は何を食べていたのか?」というテーマに関心おありの方は多いのではないでしょうか。その謎の答えは、化石が雄弁に語ってくれます。
彼らの体を仔細に分析し、現代の生物と比較することで、確固たる真実が見えてきます。古代の天空の王者たちは、どのようなものを食べて生きていたのでしょうか。


翼竜たちは何を食べていたのか?

驚くほど幅広い食性のバリエーション

結論から言いますと、翼竜は種類によって食べるものがまったく異なっていました。歯や顎の構造や、胃の付近に残っていた小動物の化石の研究から、翼竜たちの食性が徐々に明らかになってきました。
多くの翼竜は鋭い歯を備えていて、肉食性の種類が多かったと思われます。翼竜は空中での複雑な運動が可能であり、トンボ類などの飛翔性昆虫を巧みに追いかけ回して捕食できたでしょう。また、現在の水鳥と同じように、浅い水辺や干潟に飛来して、カニやエビを食べることもあったかもしれません。

鋭い歯を備える小型翼竜スカフォグナトゥス(天草市立御所浦恐竜の島博物館にて撮影)。昆虫あるいは魚を捕食していたと思われます。
白亜紀のイントトンボ類の化石(城西大学水田記念博物館大石化石ギャラリーにて撮影)。当時の昆虫たちは現代種よりも大きく、翼竜たちにとっては重要なタンパク源となったことでしょう。

翼竜たちの中には、一風変わった食性を有する種類が確認されています。代表的な例が、白亜紀前期に生きていたプテロダウストロです。彼らは下顎にブラシ状の剛毛を約2000本も備えており、この顎を水中につけて振るうことで、プランクトンを濾し取って食べていたと考えられています。現生動物においても、フラミンゴが水中微生物の濾過食者として知られています。

プランクトンを食べる翼竜であるプテロダウストロの頭部(いわき市石炭・化石館ほるるにて撮影)。下顎に約2000本ものブラシ状の毛が生えており、水の中の微生物を濾しとって食べていたと考えられています。

なお、翼竜は決して全ての種類が肉食性だったわけではありません。現代のある種類の鳥と同じように、木の実を食べる果実食性翼竜もいたと考えられています。
代表的な種類が白亜紀前期のブラジルに生息していたタペジャラです。クチバシの形態が果実食性の鳥とよく似ており、口吻が比較的短いことから、魚よりも果実を食べていたと考える方が自然だと思われます。ただ、タペジャラが果実食だという確証はなく、今後の研究や発見によって覆るかもしれません。

タペジャラの頭骨(いわき市石炭・化石館ほるるにて撮影)。この強力なクチバシを巧みに使い、植物の果実を割って食べていたという説があります

これほどまでに食性バリエーションが豊かならば、我々が想像つかないようなものを食べる種類もいたかもしれません。動物の血を吸う翼竜、長いクチバシで地中のミミズを食べる翼竜だっていた可能性もあるのです。
次々と明らかになる翼竜たちの生態の不思議。
これからどんな新発見が出てくるのか、とても楽しみですね。

魚を食べる「海鳥型」の翼竜たち

現代において魚を専門に捕食する海鳥がいるように、中生代の翼竜たちの中にも、水辺に棲んで魚を主食とする「海鳥型」の種類が存在していました。大型翼竜たちの強みは高い滑空能力と抜群の長距離飛行能力であり、餌となる魚を求めて、はるかな外洋の上空へ飛んでいくことができました。

小笠原諸島の沖合にて発見した海鳥カツオドリ。撮影ポイントは陸地から何キロも離れた洋上であり、彼らの飛行能力の高さを実感します。
カツオドリが魚を発見して急降下し始めています。翼竜たちも同様の生態をしていたと思われますが、魚の捕り方は異なっていました。

現生の海鳥と同じように、魚食性翼竜たちは海辺の崖の上に営巣して暮らしていたと思われます。空を飛べることは翼竜たちの大きな強みであり、高台に巣を作ってしまえば、地上の肉食恐竜たちには手出しができません
翼竜たちは崖上の安全地帯で卵や子供の世話をして、狩りの際には力強く飛び立ち、はるかな大洋の空にて魚を捕まえていたことでしょう。ただし、当時の海には恐ろしい肉食性爬虫類も数多く生息していたので、翼竜たちの魚獲りは命がけの漁となったはずです。

魚食性翼竜たちの生活をイメージしたジオラマ(群馬県立自然史博物館にて撮影)。翼竜たちは優れた飛行能力と空中姿勢コントロール能力を活かし、魚たちの動きを空から追随していたと思われます。

古代の魚と聞くと、ごつごつしてあまりおいしくなさそうな印象を抱く方もいらっしゃるかもしれませんが、中生代には現代種に通じる種類がたくさん生きていました。白亜紀にはスズキ類の魚たちが爆発的に増加し、魚食性翼竜たちはおいしくて栄養満点の鮮魚をたらふく食べていたと考えられます。海洋の上空に飛んでいって魚を捕らえるのはもちろんのこと、海浜に漂着した魚の死骸を食べることもできるので、海辺に棲むメリットはかなり大きかったと思われます。

カライワシ類のダヴィクティス(城西大学水田記念博物館大石化石ギャラリーにて撮影)。中生代の海には多種多様な魚たちが生きていて、巨大な魚食性翼竜ならば、中型~大型の海水魚を捕食できたと考えられます。

天空を飛び交いながら、魚という海の恵みを享受する数々の魚食性翼竜。現代のウミネコやアホウドリなどの海鳥が群生地を作るように、翼竜たちも大規模な群れで海辺を陣取っていたのかもしれません。はるかな水平線の彼方を舞う彼らの無限なる姿は、さぞかし壮観だったことでしょう。

魚食性巨大翼竜

アンハングエラ ~鋭い歯で魚を急襲! 空中漁のプロフェッショナル~

有名なプテラノドンを除くと、魚食性翼竜の代表格として名があがるのは、十中八九アンハングエラ属(Anhanguera)です。約1億2000万年前(白亜紀前期)の海辺で大繁栄していた翼竜であり、ブラジルやイギリスで化石の発見報告があります。大型種のアンハングエラ・ピスカトル(Anhanguera piscator)の模式標本は若い個体でありながら、翼開長が約5 mにも達したと考えられています。

アンハングエラの全身骨格(ミュージアムパーク茨城県立自然博物館にて撮影)。翼開長は約5 mあったと考えられています。

目を引く大きな特徴の1つが、その独特な頭部の形態です。まず、長い口に円錐形の歯がズラリと並んでいます。これらの歯は上下でしっかり噛み合うように配置されており、魚食性のワニや肉食魚アリゲーターガーとよく似ています。アンハングエラはこの口を飛行中に海面へと突き入れ、水面下の魚を捕獲していたと思われます。彼らの強力な歯に捕まったら、魚たちはいくら暴れても逃れられなかったでしょう。

アンハングエラの頭骨(城西大学水田記念博物館大石化石ギャラリーにて撮影)。上下の鋭い歯が噛み合わさるように並んでおり、魚をがっちりと捕らえることができました。

第2の頭部の特徴が、上顎と下顎の先端部にあるトサカです。このトサカの用途に関しては諸説ありますが、魚を捕食する際の水切り板として使われたという説が一際有名です。口先を海面に差し込めば、船のキールのようなトサカが水の抵抗を減らし、スムーズに水面下の魚を捕食できたと唱えられています。アンハングエラは飛びながら魚を捕獲し、効率よく食事をすることができたのです。一方で、トサカのない個体の化石も発見されており、トサカはオスの性的ディスプレイ器官だったとする説もあります。

独特な頭部を有するアンハングエラ(天草市立御所浦恐竜の島博物館にて撮影)。上顎と下顎についた薄い突起には水の抵抗を減らす機能があり、飛行中に水面下に顎を差し込み、飛びながら魚を捕まえられたと考えられています。

前述の通り、アンハングエラの化石は南アメリカのブラジルとヨーロッパのイギリスで発見されています。これは彼らが極めて長距離の移動をしていた証拠であり、翼竜の飛行能力の高さを裏打ちしています。
種族の血脈をつなぐため、生命は世界の至るところへ広がっていきます。まさしく翼竜は、中生代の偉大なる旅行者なのです。

ケアラダクティルス ~太古の水平線を統べた大型アンハングエラ類~

白亜紀のブラジルには多様な魚食性翼竜が生息しており、アンハングエラの仲間には多くの種類が確認されています。その中の一種にケアラダクティルス・アトロックス(Cearadactylus atrox)が存在しています。サンタナにある約1億1200万年前(白亜紀前期)の地層から化石が発見されており、生息年代・生息場所はアンハングエラと同じであったと思われます。

ケアラダクティルスの全身骨格(北九州市立いのちのたび博物館にて撮影)。翼開長は約5.5 mに達しており、海上を飛び回る姿は迫力があったことでしょう。

本種は保存状態の良い化石が出土しており、形態的な研究がとても進んでいます。クチバシの先端部にトサカがあったと考えられていますが、アンハングエラに比べて相対的に小さなものでした。歯の大きさや並び方に関してもアンハングエラと異なっており、ケアラダクティルスの口先の歯は大きく、奥の方の歯は小さくなっています。

ケアラダクティルスもアンハングエラも多くの鳥やコウモリよりもはるかに巨大な飛行動物であり、彼らがどのような方法で海へ向かって飛んでいったのかは非常に気になる点です。そのヒントは、現代の海鳥が持っています。
海が生み出す自然の風を利用して飛翔する方法。それこそ、多くの海鳥が実践する「ダイナミックソアリング」です。簡潔に述べますと、海から吹く気流に乗って飛んでいるのです。アホウドリなどの海鳥は、海面上の風速勾配を利用して、あまり羽ばたかずにグライダーのように滑空しながら長時間飛行することが可能です。ケアラダクティルスも、同じように大きな翼にめいっぱい風を受けながら、彼方の大洋に向かって飛翔していったのかもしれません。

アホウドリの剥製(我孫子市鳥の博物館にて撮影)。彼らは海面から吹く気流を利用し、最小限の羽ばたきで長距離を飛行します。ケアラダクティルスやアンハングエラも、同様の飛翔様式だったと思われます。

アンハングエラ類は、顎や歯の構造も、飛行方法も、海辺でのハンティングに特化していたと言えます。翼竜も鳥も、個々の環境や食性に合わせて、最適な形態へと進化していったのです。優れた生物群である彼らが空を制したのは、まさしく必然であると思います。

ここまでの考察を踏まえて、皆さんの中には、ある考えを抱いた方もいらっしゃるかもしれません。
「翼竜はいろいろなものを食べてるとわかったけど、恐竜を襲って食べる翼竜はいなかったの?」という疑問です。空の王者たる翼竜は、地上最強の恐竜たちに戦いを挑んだのでしょうか。

答えはイエスです。
次回では、恐竜さえ捕食してしまうほどの超巨大翼竜が登場します!

【前回の記事】

【参考文献】
ペーター・ヴェルンホファー(1993)『動物大百科別巻2 翼竜』平凡社Kellner, A. W. A., et al.(2000) "Description of a New Species of Anhangueridae (Pterodctyloidea) with Comment on the Pterosaur Fauna from the Santana Formation (Aptian-Albian), Northeastern Brazil" National Science Museum Monographs 17:1-135
Bruno C. V. N., et al.(2010) "Short note on the phylogenetic position of Cearadactylus atrox, and comments regarding its relationships to other pterosaurs", Acta Geoscientica Sinica 31 Supp.1: 73–75
南部靖幸(2022)『熊本博物館特別展「世界の大翼竜展」展示ガイドブック』熊本市立熊本博物館
大阪市立自然史博物館「自然史博物館によせられた質問(質問番号:489)」 https://www2.omnh.jp/scripts/faqbbs.exe?threadN=489
天草市立御所浦恐竜の島博物館の解説キャプション
いわき市石炭・化石館ほるるの解説キャプション

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