The Lost Universe 巨大竜脚類恐竜⑤超々巨大竜脚類
最大最強の陸上動物である竜脚類の恐竜たち。現代では次々と超巨大恐竜が発見され、全長30 mを突破する種類もさほど珍しくなくなりました。恐ろしいことに、古生物研究史の中では、30 mクラスの巨竜たちでさえ小さく見えてしまうほどの超々超絶巨大恐竜の存在も記録されています。
信じがたい空前サイズの幻の竜脚類。彼らの真の姿を考察し、地球上で最大の動物は誰なのかを見極めたいと思います。
最強無敵の巨大恐竜の終焉
進化型の植物食恐竜との競合
桁違いの巨体とパワーを有する竜脚類は、タイマンの強さなら間違いなく無敵の存在です。しかし、自然界における強さとは、決して戦闘能力の高さではありません。いかに強大なパワーがあっても、より環境に順応した種類が登場すれば、資源競争の面で不利となり、衰退の道を歩むことになります。
竜脚類にとって生存競争のライバルは、効率的な摂食能力を備えた植物食恐竜たちです。特に、イグアノドン(ディズニー映画『ダイナソー』の主人公となった恐竜)などに代表される大型鳥脚類は、資源をめぐる争いにおいて強敵となったことでしょう。
鳥脚類が好敵手たる1つの要因は、発達した摂食能力です。竜脚類はあまり葉を噛み砕くことはなく、ほとんど丸飲みにし、巨大な胴体にある長い腸の中で時間をかけて消化していました。一方、進化型の鳥脚類は「デンタルバッテリー」という密に並んだ特殊な歯の構造を備えており、食糧を咀嚼して細かく噛み砕くことができました。これにより、食糧を短時間で消化可能となり、鳥脚類は長い腸を有する必要がなく、竜脚類に比べて胴体が細くなっていました。
つまり、鳥脚類は竜脚類よりも身軽に動き回り、たくさんの植物を効率よく食べることができたのです。硬い植物も柔らかい植物も幅広く摂食できたので、彼らは各地の環境に柔軟に適応できました。生存競争において有利な点がとても多く、白亜紀において鳥脚類は世界中で大繁栄を果たしたのです。
さらなるライバルは、トリケラトプスをはじめとする角竜類でした。彼らの摂食能力も極めて高く、強力な顎と歯で幅広い植物を食べられたと思われます。歯の構造上、竜脚類は主に葉を食べていたと考えられますが、角竜類の強力な口ならば根だろうと樹皮だろうとバリバリと噛み砕けた可能性があります。
資源競争において、角竜類が竜脚類にとっての脅威だったのかは定かではありません。ただ、角竜類は総じてパワフルで力が強く、若い木ならば力ずくで薙ぎ倒し、頑強な顎で葉も花も食べ尽くしたかもしれません。特にトリケラトプスは体重10 t以上の巨躯を誇り、おまけに長い角まで装備しているので、食糧の奪い合いになっても中型サイズの竜脚類が相手なら怯まず向かってきたことでしょう。
とはいえ、決して竜脚類の系統がついえたわけではありません。白亜紀末期までティタノサウルス類は力強く生き残っており、竜脚類の驚異的なタフネスが伺えます。
おそらく、彼らの巨大な形態は、鳥脚類や角竜類との生存競争においても役立ったのだと思われます。竜脚類は首が長く身の丈も高いので、他の植物食恐竜には届かない高所の葉を食べられます。また、体重30 t以上の大型種ならば、食糧資源の奪い合いになった際でも、雄大な体躯で圧倒して鳥脚類や角竜類を追い払えたかもしれません。
三畳紀に巨大化への道を歩み、白亜紀の最後まで恐竜時代を駆け抜けた竜脚類たち。中生代末期の環境激変が起こるまで彼らは「地上最大最強」の地位に君臨し続けたのです。
竜脚類恐竜が姿を消した後、彼らよりも大きな陸上動物は現れていません。爬虫類や哺乳類の中からは新生代に大型種が現れましたが、特大の竜脚類たちと並ぶとサイズの差は歴然です。
地球史上、最大最強の陸上動物。竜脚類の恐竜たちは、生命史に大きく名を馳せた動物群です。太古の地上を超巨大な竜たちが闊歩していたというロマンに、我々人類は強く惹かれるのかもしれません。
一番大きいのは誰なのか?
マメンチサウルス、トゥリアサウルス、ディプロドクス、スーパーサウルス、サウロポセイドン、パタゴティタンなど数多くの全長30 m以上の巨大恐竜たちを紹介してきました。では、最終的に誰が史上最大の陸上動物なのでしょうか。
現状では、絶対的な1位を決めることはかなり困難です。というのも、最長の恐竜と謳われるスーパーサウルスの最大全長40 m(全長50 mに達したと唱える研究者もいます)という数値もあくまで推定値であり、全身骨格が復元されている種類に比べると正確性に疑問が持たれます。ただし、スーパーサウルスの頸椎は竜脚類の中でも最長クラスなので、桁外れの巨大生物であったことは紛れもない事実です。
全身骨格が復元された竜脚類の中では、ティタノサウルス類の存在感が目立ちます。特に、前回の記事でご紹介したパタゴティタンは紛れもなく最大級の恐竜であり、全長37 mという巨躯は他の追随を許しません。ただ、重さに限って言えば、約9620万~約9219万年前(白亜紀後期)の南アメリカに生きていたアルゼンティノサウルス・フインクレンシス(Argentinosaurus huinculensis)が比肩しています。
全長30 mを超えるアルゼンティノサウルスの体型はとても頑強であり、一説によると体重は約80tに達したとも言われています。体重80 tともなれば陸上動物としては限界に近い大きさだと考えられ、まさに巨大化の極みに到達したと言えるでしょう。
ところが、古生物研究者の歴史の中には、人知を超えた巨大モンスターの記録があります。たった1つの発見によって、それまでの常識が覆ってしまうのが古生物学の醍醐味であり恐ろしさなのです。
ここからは、30 mや40 mどころではない幻の超絶巨大恐竜の実像を探っていきたいと思います。
実在したのか? 超々巨大竜脚類
アンフィコエリアス ~全長60 mの怪物? 謎に包まれた空前の超巨竜~
全長30 m以上の竜脚類の化石が見つかる度に、メディアは「最大級の恐竜を発見!」と報じますが、研究史に残る超大物は人間の想像の物差しをはるかに超えています。
存在そのものが疑問視されるほどの超々超絶巨大恐竜。その名は、アンフィコエリアス・フラギリムス(Amphicoelias fragillimus)。約1億5630万~約1億4580万年前(ジュラ紀後期)の北アメリカに生きていた、信じがたいサイズの幻の竜脚類です。
その化石自体は1877年に発見されており、古くから本種の存在は知られていました。ただ、その脊椎の骨は断片的でありながら約1.5 m(完全な形なら2.4mまたは2.7 m)と記録されています。ディプロドクス類を参考に全身の大きさを計算したところ、なんと全長60 m、体重150 t以上(200 tに達したとの説もあります)という空前絶後の超々巨大恐竜であると推測されました。
当然ながら、この数値には多くの疑義が投げかけられています。もしアンフィコエリアスのサイズが推測通りならば、陸上・水中を含めて地球最大の動物ということになります。
全長60 mの超絶巨大竜脚類が、果たして地球上に存在できたのでしょうか。水中と違って、地上は重力の影響を強く受けます。ですので、巨大化の限界値は水中よりも地上の方が低いのです。クジラ数頭分もの体重を誇る超絶ヘビー級の恐竜が、問題なく陸上で活動できたのかは多少疑問ありですが、記録者の数値が間違いでない限り、体重200 tの恐竜が存在したという事実は揺るぎません。
しかしながら、19世紀末に記録されたアンフィコエリアスの標本は、ニューヨークの博物館へ移送する最中に紛失しており、今も行方不明となっています。そのため、アンフィコエリアスの存在自体を疑問視する声も少なくありません。現在では、発見者の残した記録資料のみが本種を知る手がかりなのです。
なお、記録された脊椎の特徴から、アンフィコエリアスはディプロドクス上科のレバッキサウルス類の仲間だったという説もあります。レバッキサウルス類は脊椎骨の上部に長い突起があり、この種類をもとに全長を推測すれば現実味のあるサイズに収まります。本説を指示するなら、1877年発見の標本はアンフィコエリアス属ではなくなるので、新たにマラアプニサウルス・フラギリムス(Maraapunisaurus fragillimus)という学名が提唱されました。
ただ忘れてはならないのは、本種の標本はいまだに見つかっていないということです。
全長60 m、体重200 tもの幻の超巨大恐竜アンフィコエリアス。本当に存在したのかは不明ですが、もし実在していたのならば、全長40 mのスーパーサウルスさえも激しく驚きたじろいだことでしょう。まさしく、無限大のロマンを秘めた幻の恐竜です!
ブレビパロプス ~巨大すぎる足跡! 史上最大のブラキオサウルス類か?~
古生物の場合、骨格だけでなく足跡に学名が与えられるケースもあります。その事例は竜脚類にも存在します。竜脚類は種類によって足の形に特徴があり、足跡が鮮明ならば「科」の単位まで同定することが可能です。
「最も巨大な恐竜の足跡」として話題になったのが、謎の竜脚類ブレビパロプス・タグバロウテンシス(Breviparopus taghbaloutensis)です。彼らの足跡化石はモロッコのアトラス山脈にて発見されており、約1億6000万~1億7500万年前(ジュラ紀中期)に生きていた超大型竜脚類であると推測されました。
ブレビパロプスの足跡には親指の跡が残っており、ブラキオサウルス類である可能性が示唆されました。同じジュラ紀の竜脚類のディプロドクス類やカマラサウルス類は親指が高い位置にあって地面につきにくいので、ブラキオサウルス類とは容易に区別できます。
1980年の記録によると、ブレビパロプスの足跡の長さは約115 cm。これをブラキオサウルス類のプロポーションに当てはめて計算したところ、全長は約48 mと推定されました。一般的なブラキオサウルス類の2倍近い体躯があるので、この推定全長が正しければ、体重はパタゴティタンやアルゼンティノサウルス(体重70~80 t)をはるかに上回っていたかもれません。
ただでさえ強大で無敵なブラキオサウルス。そのはるか上をゆくブレビパロプスは、陸上動物の中で最強のパワーの持ち主と言っても過言ではありません。
しかしながら、ブレビパロプスの足跡の計測記録には疑義の声もあがっています。長さ115 cmの足跡は1つしか見つかっておらず、柔らかい土壌の上に偶発的に大きな足跡がつけられてしまったと解釈することもできます。詳細な検証の結果、ブレビパロプスの足跡の長さは約90 cmほどであったと報告されました。
ただ、長さ90 cmの足跡という時点で、かなり大きな恐竜であったことは間違いありません。少なくとも、全長30 mを超えていた可能性は高いと思われます。
なお、近年の研究では、ブレビパロプスをディプロドクス類だとする説も唱えられています。その場合でも全長30 mオーバーの巨大な竜脚類であったことは確実であり、超大型恐竜がモロッコに存在していた事実は揺るぎません。足跡からでも多角的に切り込んで発展していく古生物研究は、とても奥深く魅力的な学問だと実感します。
改めて、超絶的に巨大な竜脚類たちのスケールには驚かされます。新発見の度に我々の想像を絶する超大型恐竜が現れ、彼らの雄大さを感じさせてくれます。未来永劫、竜脚類の恐竜たちは最大最強の陸上動物であり続けるかもしれません。
博物館で彼らの雄大な骨格を見たとき、大地で彼らの力強い足跡を見たときには、竜脚類の姿をイメージしてみましょう。誰もかなわないほどの大きさを誇る、太古の巨大恐竜たちの足音が聞こえてくるはずです。
【前回の記事】
【参考文献】
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公式図録『巨大恐竜展2024』読売新聞社