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The Lost Universe 古代の巨大植物④巨大裸子植物

木がなければ、私たち人類の生活は成り立ちません。家屋をはじめ多くの建物には木材が使われらていますし、紙の原料も木です。他にも様々な産業で活用されており、あげればきりがありません。
資源として活用される樹木の大半は、裸子植物と呼ばれるグループに属しています。地球上の木々は、巨大なバイオマスであると共に、生態系の守り手でもあります。彼ら裸子植物は、誕生以来ずっと無数の生命を支えてきました。


裸子植物とは何者か?

地球と人類を支える雄大なヒーロー

裸子植物は、史上最大の生物を含む維管束植物です。古くから人類に資源利用されており、建築・製紙・工芸・燃料など様々な局面で文明の発展を支えてきた立役者です。
ここで勘違いしていただかないように申しますと、「木=裸子植物」というわけではありません。例えばサクラは硬い木質の体を持っていますが、裸子植物ではなく被子植物です。

間違えられることもありますが、サクラは木であっても裸子植物ではありません。胚珠(種子のもと)が子房という部位で覆われているため、サクラは被子植物に属します。

裸子植物とは、その名前の通り、種のもとになる胚珠が裸のまま剥き出しになっている植物のことを言います

胞子で増えるコケやシダとは異なり、裸子植物は種の発芽によって増えます。種子は休眠することが可能なので、胞子よりも生き残る確率が圧倒的に高くなっています。この長所によって、種子植物はコケやシダにとって過酷な環境下でも十分適応できるのです。

世界中の大森林を構成する裸子植物たち。彼ら巨木たちによって、超スケールの景観ができあがるのです。
そびえ立つイチョウ(小石川植物園にて撮影)。裸子植物は他の生物とは比較にならないほど巨大になります。

大型種子植物の特徴の1つは、植物体を支える頑丈な幹の構造です。古生代の巨大シダ植物や巨大小葉植物はリグニンで体を硬化させましたが、幹の中はほとんど空洞でした。それに対し、裸子植物の幹はしっかりとした「柱」になっており、高さ100 m以上の超巨木になっても体を支えることができます。
彼らの体組織はリグニンとセルロースからなる極めて強固なものです。建築物に例えるならば、セルロースが鉄筋、リグニンがコンクリートの役割を果たしています。
硬い体の中に頑丈な通道組織を有するだけでなく、裸子植物は大地の広範囲に幅広く根を張っています。土中水分の吸収能力、水や養分の輸送能力はシダ植物を上回っており、裸子植物は巨大化しても全身に水分・栄養分を効率よく運ぶことができるのです。

巨大な裸子植物ダグラスモミの幹の断面(大阪市立自然史博物館にて撮影)。この部分だけで直径2.6 mに達します。生前は樹高60 mクラスの巨木だったと考えられます

我々人間は、裸子植物がなくては我々は生きていけません。巨大な森林は大量の酸素を産生し、なおかつ様々な生態系サービスを私たちに提供してくれます。
それに加えて、裸子植物が生み出す大いなる景観は、人間に癒しを与えてくれます。公園や緑地など我々の身近な環境にはポプラやセコイアなどの木々が植樹されており、彼らの織り成す緑の世界に人は安らぎを感じます。また、秋の紅葉のように四季折々の表情を見せてくれるので、裸子植物は文化的な側面でも人類を豊かにしてくれているのです。

公共施設の敷地に植えられた木々。神社のご神木や街路樹など、私たちの生活環境において、たくさんの裸子植物が関わっています。
紅葉する裸子植物はとても魅力的です。植物学に関心の薄い人でも、色づく秋の木々には惹かれるのではないでしょうか。

最大の恐竜さえ凌駕する巨大裸子植物

地球上で最大の生物は、恐竜でもシロナガスクジラでもありません。大森林を構成する裸子植物たちの中には高さ30 m、50 mクラスの巨樹がザラにいます。それどころか、樹高100 mにも達する超ジャイアント・ツリーさえ存在しています。
植生豊かな中生代の大地。樹齢1000年以上の巨木と並んだら、一番大きな恐竜でさえも霞んで見えてしまうでしょう

ジュラ紀の中国をイメージしたジオラマ(福井県立恐竜博物館にて撮影)。背の高い木の葉を、恐竜オメイサウルスが食べています。どんどん大きくなる裸子植物を追いかけるように、植物食恐竜たちも巨大化していきました。

裸子植物の出現はかなり古く、石炭紀にまで遡ります。古生物図鑑の背景によく描かれるソテツ類も、この時期に生まれました。コケやシダ以上の卓越した環境適応能力により、後代では地上の植生において主役級の大繁栄を成し遂げます。
古生代の後半から中生代にかけて、現生裸子植物に通じるグループの祖先が続々と出揃ってきます。細い針状の葉を備えるマツなどの針葉樹、そしてイチョウの仲間も中生代に栄華を極めました。

古生代に誕生し、中生代に大繁栄したソテツ(岡山理科大学にて撮影)。大小様々な種類が現代も力強く生きています。
ジュラシックツリーの異名を持つ針葉樹ウォレミア(岡山理科大学にて撮影)。本種は厳密には化石植物ではありませんが、近縁種が中生代で大繁栄を成し遂げています。

裸子植物で構成された超巨大森林は、大型の植物食恐竜に計り知れない量の食糧を提供すると共に、重なり合う木の枝や幹のウロが多くの動物たちの棲家となります。もちろん、それらを餌とする肉食恐竜たちも続々と森の中に集まってきます。

地球の生態系を支え続け、巨大な恐竜たちを育てた裸子植物。彼らの懐の深さは計り知れず、そのスケールも圧倒的です。古代現代を問わず、裸子植物の存在感は群を抜いており、彼らのグループの中には地球上で最大の生き物も含まれていました。

古代の巨大裸子植物

カセキイチョウ ~恐竜たちが見上げた太古の紅葉~

明るく黄葉する秋のイチョウを見て、誰もが美しいと思うことでしょう。歴史上の歌人たちも風流を感じながら、趣あるイチョウの句を読みました。日本文化に根づいたイメージがあるためか、イチョウは古風な植物だと思われがちです。ただ、その「古さ」は人間の歴史の物差しで測れるレベルではなく、最古のイチョウ類は恐竜が生まれるよりも以前に出現していました
イチョウ類は古生代に誕生し、度重なる環境激変を生き延びて、現代にまで系統をつないでいます。その中でも、カセキイチョウ属(Ginkgoites)は中生代に栄華を極めたことで知られています。

中生代ジュラ紀のイチョウ類の化石(豊橋市自然史博物館にて撮影)。古生物学に馴染みのない方でも、葉の形を見れば、本種がイチョウの仲間だとすぐにわかると思います。

イチョウは高さ30 mクラス、幹の直径2 mにも達することのある大型裸子植物です。カセキイチョウの仲間もかなりの大きさになったと考えられ、これほどの巨木に口が届いたのは、大型の恐竜たちだけだったと思われます。
ジュラ紀の森の中で、イチョウの葉のトンネルを歩くブラキオサウルス。イメージすると、太古の地球のロマンを強く感じますね。

中生代白亜紀のイチョウ類の化石(東北大学理学部自然史標本館にて撮影)。かつてイチョウの仲間は世界中にたくさんの種類がいましたが、現存しているのは1種のみです。

中生代に大繁栄し、陸上植物界でかなり優位に立っていたイチョウ類。しかし、彼らは白亜紀以降になると徐々に衰退していき、イチョウ類の数は激減していきました。その原因は他の植物たちとの競合、そして度重なる地球の寒冷化であったと考えられます。

では、なぜ衰退傾向にあったイチョウが今も生き残っているのかと言えば、人間が保護したからです。紅葉の景観を形成する秋の風物詩としての側面に加え、その独特な臭いのする種子ーーすなわちギンナンが人間に好まれ、栽培植物として重宝されていきました。ギンナンは古来より人間にとって貴重な食糧であり、漢方薬の原料にも活用されてきました。
現在の地球に生きているイチョウは、ギンクゴ・ビロバ(Ginkgo biloba)1種類のみ。日本でも野生種は絶滅しており、IUCNのレッドリストでは絶滅危惧種に指定されています。しかし、これからの彼らの未来は決して暗くはないと思われます。
偉大な歌人や芸術家がイチョウを愛していたように、我々現代人にもイチョウは重要な裸子植物です。植物そのものの人気が、種の存続へとつながることもあるのです。紅葉を愛でる文化が世界に在る限り、イチョウはずっと生き続けるでしょう。

メタセコイア ~高さはゴジラ級? 今も生き続ける巨大樹!~

セコイアの仲間には、地球上で最大級の生物が含まれます。アメリカ沿岸部に生息する種類の中には、樹高115 m以上にも達する超々巨大な木も存在します。植物体のボリュームではセコイアデンドロン(樹高90 m、体重1200 t以上)に劣るものの、背の高さでは文句なしに世界一の生物です。

現生セコイアの種子および写真付きキャプション(豊橋市自然史博物館にて撮影)。高さ100 m以上に成長することもある地球史上最大の生物です!

そんな規格外のセコイアに近縁の種類の中で、はるかな古代から現代にまで生き抜いてきた裸子植物が存在します。それがメタセコイア属(Metasequoia)であり、セコイア亜科の落葉針葉樹です。サイズではセコイア属には及ばないものの、それでも他の植物より圧倒的に大きく、特大個体の高さは初代ゴジラと同等の約50 mに達します

メタセコイアは落葉樹であり、秋には紅葉し、冬には葉を落とします。四季を通じて、メタセコイアが植えられた場所の景観は実に見事です。

本属は恐竜時代の末期である白亜紀後期に姿を現し、新生代の初期においては世界中に分布を広げました。日本国内においても、新生代の地層からメタセコイア属の化石が産出しています。野生個体は中国に生息していますが、大きく美しい樹形の木であることから、世界中の多くの国で植栽されています。

宮城県で発見された、300万年前のセコイア類の珪化木(東北大学理学部自然史標本館にて撮影)。化石になる過程で珪酸成分がしみ込み、石英のように硬くなっています。

恐竜時代から血脈を継ぎ、「生きている化石」と呼ばれるメタセコイア。もちろん植物食恐竜たちの重要な食糧になったと思われますが、いかに恐竜が巨大であるとはいえ、高さ30~50 mクラスにまで成長したメタセコイアの葉を食べられる種類は限られていました。首の長いアラモサウルス(ブラキオサウルスやアパトサウルスのような竜脚類)でも、ちょっと高いところに生えている枝に口が届くレベルでしたので、トリケラトプスやアンキロサウルスでは実生のメタセコイアを食べることかできなかったでしょう。
一方で、鳥や翼竜にとっては有用な休息場所・営巣箇所になったと思われます。現代においても、この巨木は鳥たちの大切な「家」となっています。自然公園の中でメタセコイアを見つけたら、上部を見上げて観察してみましょう。思わぬ生命の営みを発見できるかもしれません。

裸子植物の大繁栄によって、恐竜時代の大地は緑に覆われる美しい星となりました。そして中生代の後半になると、植物界にもう1つの革命が訪れます。
大自然を彩る「花」の誕生。森や草原に様々な色が生まれ、カラフルな世界が地球に広がっていきます。

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【参考文献】
矢頭献一(1964)『図説 樹木学 針葉樹編』朝倉書店
辻井達一 (1995)『日本の樹木』 中央公論社
Sun, W. (1998) “Ginkgo biloba”. The IUCN Red List of Threatened Species 1998.
鈴木英治(2002)『植物はなぜ5000年も生きるのか』講談社
サカタのタネ(2010)『タネの大図鑑―身近な花・木から野菜・果物まで 色・形・大きさがよくわかる』PHP研究所
巌佐庸・倉谷滋・斉藤成也・塚谷裕一(2013)『生物学事典 第5版』岩波書店
SARAH GIBBENS(著), 鈴木和博(訳)(2020)「生きた化石イチョウ 絶滅逃れた復活理由は人との共存」NATIONAL GEOGRAPHIC, 日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO67065720X01C20A2000000/
寺田和雄(2021)「愛媛県伊予市の更新統郡中層から産出した扶桑木の樹種」愛媛県総合科学博物館研究報告 26: 43-49.
The Gymnosperm Database “Sequoia sempervirens” https://www.conifers.org/cu/Sequoia.php
The Gymnosperm Database “Sequoia“Sequoiadendron giganteum” https://www.conifers.org/cu/Sequoiadendron.php
岡山理科大学 生物地球学部 生物地球学科 http://www1.ous.ac.jp/garden/hada/index[1].html
豊橋市自然史博物館の展示キャプション
東北大学理学部自然史標本館の展示キャプション
岡山理科大学内の植物展示キャプション

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