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#17 助っ人

母とソウタは小児科へ、私は内科へ

何時間か待たされたのち、風邪だろうというありきたりな診断で

点滴を打ってもらい、お昼を回ってしまった


「お母さん?ゴメン、遅くなった。今どこ?」

「けい、終わった?今、ソウタと4階の小児病棟にいる

 実は、ソウタ、入院になって。とにかく来て」


「え・・・・?!ウソやろ・・・」



ソウタは風邪をこじらせて、クループという病気にかかっていた

乾いた、高い声の咳が特徴で

夜になると特にひどくなるので入院することになったそうだ


小さな手には点滴が刺さっている

落ちないようにと用意されたベットには

やたらと高い柵がついていて、まるで動物園の檻のようだ


母には、もう帰ってもらうことにした

いつまでも父を一人にしておきたくない

徹夜の母に、心の中で、感謝とエールを送った

「踏ん張ろう、きっと大丈夫」


とはいえ、私の方もまだ熱が下がったわけではなく

へたり込みたい気分の上に

この檻の中で管をつけられ、動きを制限されて泣き叫んでいる動物と

今夜一晩、やっていけるのだろうか


考えただけでもゾッとした

頭を抱えていると、夫から電話が鳴った


「休みもらったから、今からそっちに行くわ」

ナイスーーーーーーー!!


この時ほど、夫にありがたいと思えたことはない

これぞ、天の助け!

こんなド田舎まで来てくれるなんて


それじゃあ、ソウタは夫に任せて

私は家に帰って、一晩ゆーっっくり寝ようと思っていた


ところが

「あかん、あかん、オレ一人じゃ無理やって、おっぱいどうすんの?」

「えーーー!じゃあ、私は寝てるだけで動かへんから

 あなたがソウタの面倒見てや」


という条件で、イヤイヤ一緒に泊まることにした


ウウウウうーーー寝苦しいーー・・・・

当たり前や!柵の着いたシングルベットに

点滴を刺した赤ん坊と、大人が2人寝ているのだから


昨夜と同じく、夜が更けるにつれて

ソウタの呼吸はゼーゼーと苦しそうになっていく


「ねえ、・・・ねえってば。ちょっと!看護師さん呼んでよ!」

何度起こしても、夫はぐっすり眠って起きようとしない

この人は、一体何をしにこんな所までやって来たのか


天の助け!と思った自分を消去したい

あーーーもう!

寝返りどころか、ピクリとも身体を動かすことができない程

ぎゅうぎゅう詰め状態で、イライラしてブチ切れそうだ


「もう、いい加減にして!狭い!寝るんやったらソファで寝て!」

夫を追い出し、自分でナースコールを押して、看護師さんに来てもらった


ソウタは息苦しそうだけど、体内の酸素量は平常だった

吸入をしてもらって落ち着いたので、再度寝ることにした

さすがに夫も、今度はベットに入ってこようとはしなかった


やれやれ、やっとゆっくり寝れる

朝方目が覚めると、いつの間にかまた、ちゃっかりベットに入って来ていた

しつこいヤツだ・・・


次の日もまだ身体はズーンと重たかったけど

夫には一度、家に帰ってもらうことにした

着替えや食料の調達、父の病院にも顔を出してやって欲しかった


夫は誰もいない家に帰って、まず、洗濯物を干しているようだった


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「けい、山のような洗濯物やな・・・

 やっと干し終わったと思ったら、また次のが洗濯し終わった・・・」


「干すのが遅すぎるだけやろ・・・」

と言いたいところだが、確かに山のような量であることは間違いない


大人5人と赤ちゃん1人

病人は、何かと汚すので着替えやタオル類が多くなる

赤ちゃんも然り

ジンは野球部のコーチをしていて、毎晩ドロドロのユニフォームで帰ってくる


晩ごはんの買い物も準備も、この家の主婦業は決して楽ではない


そういえば、後に兄が言っていた

「外回り営業の途中、トイレになって家に帰ったら

 誰かが洗濯物干しようやんか

 あれ?誰やろうと思うて見たら、おまえの旦那やった・・・

 オレはビックリした」


そりゃ、自分のパンツを義弟が干してたら、ビックリするやろう

おい!感謝しろよ!


なんとか洗濯物をやっつけ、父の病院にも行って

こっちの食料(カップラーメンやお菓子、ジュースが多かった)を

買い込んで戻って来た夫は


「お父さん、オムツやったなぁ。それどころじゃないわなぁ」

と呟いていた


父は急に体力が落ちたようだと母から聞いている

寝っぱなし、頼りっぱなしだそうだ


夜はこんこんと眠る

呼吸は1分間に9回、これは薬のせいらしい


この頃だったか、モルヒネでも痛みが取れず、麻薬が入りはじめている

夢と現実がこんがらがって、突拍子もないことを言ったりする


「ちょっと、パソコン貸してみい」

「野球部はどうや?」

とか、仕事の話が多い


ずっと学校に戻ることばかり考えているようだが

父自身、悲観的になってることも母から聞いている


「もうダメかもしれん

 おかあ(父の母)の顔見たら泣きそうになる

 人に笑われんように生きてきた、悔いは何もない」


そう言って、初めて泣いたという




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