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母は何も答えらえれず、涙が止まらなかったそうだ そんなこともあってか、付き添いは母でないと嫌がるようになった ソウタも順調に良くなって、私も3日程で元気になったので ソウタを夫に任せて、父の付き添いをすることもあったが 1時間もすると 「お母さんに電話して」 と必ず言い始める 一応電話はするのだが、母は戻ってこない 母もゆっくりご飯を食べたり、持病の治療に行ったり 何かと済ませておきたい用事もあるだろう だけど、2時間が限界だ 「はよう帰って来いって言え
母とソウタは小児科へ、私は内科へ 何時間か待たされたのち、風邪だろうというありきたりな診断で 点滴を打ってもらい、お昼を回ってしまった 「お母さん?ゴメン、遅くなった。今どこ?」 「けい、終わった?今、ソウタと4階の小児病棟にいる 実は、ソウタ、入院になって。とにかく来て」 「え・・・・?!ウソやろ・・・」 ソウタは風邪をこじらせて、クループという病気にかかっていた 乾いた、高い声の咳が特徴で 夜になると特にひどくなるので入院することになったそうだ 小さ
8/1 AM5:00 母からのメール お父さんが眠りから覚めん、心配です、熱もある 様子を見るということで、心電図をつけています 病院へ向かう途中、高鳴る心臓にゆっくりと空気を送り込む 「ふうーーーーーーーー」 落ち着け、大丈夫、大丈夫、、、 「お父さん、お父さん」 呼びかけると 「ん?」 返事をした。 目は開けないが、寝ているだけだろう、そう言い聞かせた 「疲れが出たがやろうかね、ちょっと忙しかったもんね」 母はまだ心配そうに言った このところ、
「でめきんやーーー!目でかっ! わはははははーーーーー けいに似いちょうにゃあ おまえ、でめきんって名前に変えれ でめきんー、でめきんーーーーー!! わははははーー」 金魚を見ると思い出す 小さい頃から男勝りだった私は いじめられたことはない それどころか 宿題ができずに泣いている男子が先生に怒られないよう 休み時間、勉強を教えたり いじめっこの男子にムカついて 掃除用具からホウキを引っ張り出して追いかけたこともある 先生が止めなかったら、
父は私を見てすぐに 「帰れ」と言った 月に何度も帰省を繰り返し ソウタも疲れているだろうから、家で休め という意味なのか 自分の身体がキツいので帰ってくれという意味なのか 私もその場にいるのが苦しくなり 早々と病院を出た ものすごい不安の塊に押し潰されそうな気がした 死神というものがいるのなら 詰め寄られているような気持ちになった 子どもの頃、将棋を指したとき 次々と駒を取られ、逃げ場がなくなった王将が 次なる手を必死で探しながら、半ば諦めてしまいそ
7月13日 昼前、風呂に入るといって家に帰る リンパ球も打ちました でも、痛い、とっても痛い 7月16日 調子がいいようにも思えるが、モルヒネの量は増えている 7月19日 昼から仕事を休んで付き添いです 「あれやれ、これやれ」「遅い、とろい」 と、ケンカばかりです モルヒネがキツくなっている分、痛みも和らいでいるだろうし 東京の薬も効いていると信じて、できるだけ側にいようと思っています 7月28日 こちらはグッとしんどくなっています 母からのメ
プーはだいぶ放っておかれたのか けむくじゃらの黒くて怪しい物体になっている まずはこの伸び放題のクリ毛を散髪して 身体もキレイに洗わなければならない 私がそんなことをしている暇はないので 行きつけのペットショップに電話をした 今や空前のペットブームで 1週間、予約がいっぱいだという 仕方ない 1週間後がXデーだ プー、お父さんの病室まで連れて行くからね もうすぐ会えるよ その日は絶好の夏日和で、散髪日和だった 出来上がってきたプーは、流行のテディベア
「もしもし、松永さんのお宅です?〇〇病院の院長です 娘さんですか?松永さん、どうですか?」 50代くらいの男性の院長先生の声は、さっきの受付とは違って 穏やかだが強く、緊迫していた 無駄がなく、だけど冷酷さはない 痛みはどうか、腹水の量はどのくらいか、何か食べられるようになったか 父の様子や、母と血液を提供したジンのことまで、細かく聞いてくれた おっと、感心している場合ではい 電話をした目的を話さなければならない 「先生、どうか父に薬を送っていただけません
次の日の朝、母に聞いた電話番号を回してみた 出たのは、受付らしい男性だった 「もしもし、先日お世話になりました 松永の身内のものですけど、院長先生おられますか?」 精一杯のええ声を出した 「少々お待ちください」 待ちますとも、待ちますとも お忙しいですもんねぇ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
その晩父は、早めに睡眠薬を飲み ひとまず静かに寝ているようだった 私はハッとして 「ちょっと行ってくる!」 ソウタをベビーカーに乗せ、走り出していた 母の声が聞こえる 「こんな時にどこ行くが? 病院にはお兄ちゃんがおるけん、家におりやー!」 病院のエレベーターに乗りこんで、父の病室を飛び越えた 向かっていたのは屋上だ 忘れるところだった 今日は7/7、年に1度の七夕だ 暗い屋上で、ソウタは不安なのか泣きそうな顔をしている 「ソウタ、大丈夫、一緒にお
7/6 午前0時 夢の中で電話が鳴っている うるさいな・・・強い、はっきりとしたその音は 「これは夢じゃない!」 急いで電話をとった 「夜分にすみません、松永さんのお宅でしょうか? 市民病院のものです 実は、松永さん、晩に睡眠薬を飲んだんですけど どうも合わなかったようで、動いたりして、目が離せないんです どなたか家族の方に来ていただけませんか?」 「わかりました、すぐに行きます」 母と兄を起こして、向かったのは兄だった 気になって、いてもた
「私は怒っちょうがやけんね! お母さんにも、お兄ちゃんにも、ジンにも。本当に腹が立つ! なんで1年も何も言うてくれんかったがか。腹が立つ!!」 「悪かったと思いよるがよ ソウタを妊娠して、切迫流産になっちょったけん 心配かけられんと思うたら、言えんかったがよ」 母の言葉は何度か聞いたし、それくらい考えればわかる だけど、止まらなかった 「だって、ソウタが産まれてもう8ヶ月経っちょうがで なんでそんなにも長い間黙っちょられないかんが?」 とうとうジ
「ただいま」 家には誰もいなかったので、病院へ直行した 見慣れた病院の一室にいる父母の姿を確認すると それだけで安心するものだ 久しぶりの実家には 母・兄・弟が暮らしているが 3人とも働き盛りで その上、父の病院に順番に足を運んでいる 家には、朝から晩まで誰もいない 実家でソウタと2人、何ができるだろう・・・ そんなことを考えながら、次の日の朝を迎えた 目が覚めると、頭がガンガンして身体が熱い 布団から起き上がれない 人の気配を感じて、力の限り声を出
キーンと静かな時が流れていた 父は、悲しそうにどこか遠くを見ているようだった 私は、髪を切られながら考えたことを もう1度整理していた 怒られてもいい また、殴られても仕方ない それでも我慢しようと思った 学校に戻りたかった というより 学校しか行く所がなかった いつの間にか この学校の中にも 自分の居場所ができていたのだ 「辞めたくない。学校に行きたい」 涙がこぼれ落ちた 「そうか… じゃあ、誰になんと言われても頑張って行こう お父さん