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「稚拙で猥雑な戦争劇場」5

    場面5/ルバムの村

    百合子、眠れず外にでて空を見ている。出てくる織部。

織部  「なに?眠れないの?・・・山羊を数えると眠れるよ」
百合子 「それ羊だと思うけど」
織部  「分かってるなら寝たほうがいいよ」
百合子 「おじさんは?」
織部  「傷がうずいてね」
百合子 「かすり傷だよね」
織部  「だって痛いんだよ」
百合子 「おじさん・・・おじさんは結婚してるの?」
織部  「え?結婚?それは一体どういう・・・え?」
百合子 「家族はいるのかなって思って」
織部  「なんだ、そういう意味か。今は家族は両親だけかな」
百合子 「モラトリアムなの?おじさんなのに」
織部  「え?モラ?」
百合子 「モラトリアム!まだ親のすねを齧ってるの?」
織部  「齧ってないよ。言わば出戻り。ようはバツイチ」
百合子 「バツイチか・・・子どもは?」
織部  「子どもは、小学生の娘がひとりね」
百合子 「名前は?」
織部  「ええ?明日香だけど」
百合子 「明日香ちゃんと一緒に住んでるの?」
織部  「一緒に住んでないよ。裁判で決まっちゃったから」
百合子 「一緒に住みたいと思わなかったの?」
織部  「言うよねー。できれば住みたかったけど。色々あるんだよ。百合
     子ちゃんは?」
百合子 「え?」
織部  「ご両親はどんな人なの?」
百合子 「ママは2年前に死んじゃった」
織部  「そうか・・・ごめん、変なこと聞いて」
百合子 「別にいいよ。仕方ないもん。おじさんは明日香ちゃんのこと好
     き?」
織部  「そりゃ好きだよ。僕のただひとつの宝物だよ」
百合子 「あれ?お金が大切なんじゃないの?」
織部  「それとこれとは別だよ」
百合子 「明日香ちゃんはお金で買えないもんね」
織部  「むしろお金取られまくってるけどね」
百合子 「それでも大切なんだ」
織部  「そうだねえ」
百合子 「もし明日香ちゃんが強盗とかで人質になったらどうする?」
織部  「え?なにそれ?」
百合子 「例えばの話。どうする?」
織部  「代われるものなら僕が代わりに人質になるかなあ」
百合子 「何で?自分は死ぬかも知れないんだよ?」
織部  「もし明日香が死んじゃうくらいなら、おじさんが死んだほうがい
     いでしょう」
百合子 「え?」
織部  「当たり前だよ。これでも親なんだから」
百合子 「そう。それが普通の親だよね・・・」
織部  「百合子ちゃんのお父さんも一緒だよ」
百合子 「そんなことない。パパは私のことよりも大切なことがありすぎ
     て」
織部  「大切なことがいっぱいあるんだ。うらやましいよ百合子ちゃんの
     お父さん」
百合子 「私は全然楽しくないけど」
織部  「そりゃあそうでしょう。でも百合子ちゃんのお父さんは一生懸命
     働いてるんでしょ?」
百合子 「うん、まあ」
織部  「百合子ちゃんに褒めてもらいたくて頑張ってるんじゃないかな
     あ」
百合子 「褒めてもらいたくて?バカみたい!・・・パパは私のことなんて
     ちゃんと見てくれたことない」
織部  「仕事が好きな人なんだろうね」
百合子 「そう、仕事ばっかり」
織部  「でも百合子ちゃんとも話したいんだと思うよ。父親って素直にな
     れないもんなんだよ。百合子ちゃんが大きくなればなるほど上手
     く伝えられない」
百合子 「なんで?」
織部  「仕事の相手より慎重なんじゃない?僕なんて娘に『くさいくさ
     い』って言われるよ。もう何にも言えない」
百合子 「私のパパもくさいよ。カレー臭」
織部  「まずは百合子ちゃんのほうから素直になってみたら?そうすれば
     何かが変わるかも知れないよ。好きなら好き、嫌いなら嫌いって
     言えばいいんだよ」
百合子 「本当にパパに嫌われてたら?」
織部  「親が子を嫌うなんてことがあったら、それは事件だよ。警察に行
     くしかない」
百合子 「じゃあうちのパパは警察行きだね」
織部  「そこまでお父さんを信じられないのかー」

    織部、百合子の胸のうちを想い頭をポンポンしてやる。
    その手を掴まれて拒絶される。

百合子 「パパは外面はいいんだけど、家の中では全然・・・機嫌のいいと
     きは仕事のことばかり。私の話なんて聞いてくれたことない」
織部  「百合子ちゃんはお父さんのことが好きなんだね」
百合子 「好きじゃないよ」
織部  「そうかな」
百合子 「好きじゃない」
織部  「それならいいじゃん。お互いに好きじゃないなら問題ないでし
     ょ」
百合子 「うん・・・」
織部  「さ、寝よう。明日も何があるか分からないんだから」
百合子 「うん」
織部  「あー!」
百合子 「どうしたの?」
織部  「明神くん!」
百合子 「誰?」
織部  「ホラ、百合子ちゃんとあった時に・・・落ちてった奴!」
百合子 「ああ」
織部  「あいつ探さなくちゃいけないんだった。いやあすっかり忘れて
     た。明神くん大丈夫かな」
百合子 「生きてるよ、きっと」
織部  「彼は生命力だけは強そうだからな・・・」

    そこへ来るチク。

チク  「ユリコ、カネガナルナリ、うーん」
百合子 「あ、起きちゃった?ごめんごめん」
織部  「悪いことしたねごめんごめん。寝よう寝よう」

    洞窟の中に入っていく。

    フセイン邸の一室。
    明神が一生懸命掃除をしている。そこへ来るエロ。

エロ  「ベルマーレ!ベルマーレ!ベルマーレはどうした?」
明神  「クイックルワイパーって言っていなくなりました」
エロ  「あの野郎。さぼりやがったな」
明神  「いいですよ。俺やっておきますから」
エロ  「ケンさん、掃除終ったら休んでいいぞ」
明神  「大丈夫ですよエロさん。ちゃんとやっときますから」
エロ  「ケンさんは働き者だな。日本人はみんなこんなに働くのか」
明神  「さあ、どうすかねえ。人によるんじゃないすか」
エロ  「人による・・・そうだな。ベルマーレが使えないのと一緒だ」
明神  「それにしても、自由はいいなあ!最高です」
エロ  「自由?ケンさんは自由ではないぞ。何かあれば私が銃殺する」
明神  「何もしません。だから銃殺もされません」
エロ  「そうか」
明神  「折角自由になったんだからエロさんのために頑張ろうって思いま
     す」
エロ  「私のために?」
明神  「そうです。エロさんのためです。エロさんは強くてたくましいけ
     ど、根が優しい女性ですから」
エロ  「私が優しい?」
明神  「優しいじゃないですか。今日だって美味しいカレーを作ってくれ
     たじゃないですか。俺、今まで松屋のカレーしか食べたことない
     から」
エロ  「松屋!私行ったことある」
明神  「え?知ってるの?」
エロ  「でも松屋は牛丼屋だな。カレーもあるのか」
明神  「松屋のカレー最強っすよ。でもエロさんのカレーのほうが美味い
     っす」
エロ  「おお、私のカレーは松屋より美味いか」
明神  「エロさんのカレーは俺史上ナンバーワンです」
エロ  「ケンさん、優しいな」
明神  「俺、優しいんです。誰も気付いてくれないけど・・・総理大臣も
     俺の存在に気付いてくれなかったし・・・日本に帰っても何があ
     るわけでもないし」
エロ  「ケンさん・・・(肩を抱く)」
明神  「俺、この国が向いてるかもしれない」
エロ  「ケンさん、ずっとここに住んだらいいじゃないか」
明神  「マジすか?エロさん・・・」
エロ  「そうだ。ここに住んだらいい」
明神  「エロさん、ずっと俺と一緒にいてください」
エロ  「いいぞ」
明神  「マジすか!キター」
エロ  「ずっと私の使用人でいたいということだな」
明神  「違います」
エロ  「じゃあなんだ?」
明神  「(カベドンして)エロさん、あなたの子どもが欲しい」
エロ  「そんな、そんな言葉で騙されるとでも思ってるのか」
明神  「じゃあ俺の目を見てください」
エロ  「(見て)見たぞ。だからなんだ?」
明神  「ああもう、じゃあ勝負しましょう」
エロ  「勝負?」
明神  「俺が勝ったら結婚してください」
エロ  「いいだろう。ケンさんが負けたら?」
明神  「そのときは、エロさんの好きにしてください」
エロ  「銃殺するかもしれない」
明神  「エロさんになら、構いません」
エロ  「ケンさん・・・わかった」
明神  「エロさんを笑わせたら僕の勝ち、それでいいですね」
エロ  「いいだろう」

    ネタをやる明神。

明神  「エロさん、俺と付き合ってください」
エロ  「ごめんなさい」
明神  「じゃあせめてお友達になってください」
エロ  「私のためにコーランを覚えてくれるなら」
明神  「死ぬ気で覚えます」
エロ  「ケンさん」
明神  「エロさん」

    手を取り合って。暗転。

6へ続く


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アラブ諸国の人が見るニュースと我々が見るニュースは全く違う。報道はいつも思想、政治、仮想敵国によって操作される。米国がジャイアンよろしく某…

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