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「稚拙で猥雑な戦争劇場」6

場面6/ルバム国・荒野の砂漠

    強風の中、グーグルマップを見ながら電話をしている峰不二子。

不二子 「・・・いいえ、手がかりはない状態です・・・すいません、引き    
     続き探します。(電話を切る)」

    目線の先に気付いて隠れる。
    二人の兵士(黒い袋で顔を隠した)が白い袋に顔を隠された白人兵 
    士を連行している。兵士跪かされ、ビデオカメラがセットされる。
    白人兵士、オバマ大統領が犯した罪についてブツブツと語られる。
    やがて大きなナイフを首元に押し付けられ、ナイフが横に引かれ
    る。

    ナイフ音・照明で場内が真っ赤に染まる。
    照明・強風が戻ってきて、不二子が佇んでいる。

不二子 「人間のできることじゃなか・・・神様(十字を切る)」

    御麿が来る。

御麿  「違うでオマ。これは人間にしかできないことでオマ」
不二子 「神様?」
御麿  「御麿でオマ。これが戦争でオマ。戦争は人間が考えた究極の正義
     でオマ」
不二子 「戦争が究極の正義・・・神様、どういうことですか」
御麿  「では、正義とはなんでオマ?」
不二子 「正義?正義は自分の思った誠実な心のことではないでしょうか」
御麿  「ではそれが狂気的に行き過ぎてしまったら?一個人の誠実は、一
     個人の正しさは、常に全人類にとっての正しさだと思いますか」
不二子 「そうとは限らないと思います」
御麿  「正義は時として欲望にすり替わってしまうのです」
不二子 「確かに・・・欲望の言い訳が正義だってことがあります」
御麿  「どんな正義を振りかざしても、殺し合いは道徳に反する。戦争は
     道徳に反する」
不二子 「はい」
御麿  「では、これで」
不二子 「神様!」
御麿  「なんでオマ?」
不二子 「世界が平和になるにはどうしたらよいのでしょう?」
御麿  「簡単でオマ。全ての人が『手に入れる喜び』を捨てればよいので
     オマ」
不二子 「手に入れる喜び?」
御麿  「そうでオマ。『欲しがる心』を捨てることでオマ」
不二子 「神様、良くわからないんですけど」
御麿  「然るが故にこの世は稚拙で猥雑なのでオマ。」
不二子 「はあ・・・神様もうひとつ。日本人の若い女の子を見かけません
     でしたか?」
御麿  「あなたは誰でオマ?」
不二子 「私は日本政府から神田川百合子という女の子を捜しに来ました」
御麿  「ついておいで」
不二子 「は、はい」

    御麿に先導されて行く不二子。
    村の洞窟。
    百合子と織部とピーターがみなしごたちとご飯を食べている。
    つまりゴムを引っ張って出てくると百合子が口でゴムを噛んでい
    る。百合子がゴムにバチーンと当たって。

百合子 「いたーい」
みんな 「ぎゃはははははは」
不二子 「百合子様!」
百合子 「不二子さん!」
不二子 「百合子様、随分探しました」
百合子 「すいません。でも何故不二子さんがここに?」
不二子 「神様が連れてきてくれたんです」
百合子 「神様?」
不二子 「ほら、あそこにいらっしゃる・・・」
百合子 「あれは御麿さんですよ」
不二子 「おまろさん?」
織部  「誰?」
不二子 「ああっ!大変失礼いたしました。私こういうものです」
織部  「内閣総理大臣私設秘書・峰不二子・・・総理大臣の秘書?なん
     で?総理大臣の秘書がここに?」
百合子 「あ、不二子さんとはお友達なんです。ね!」
不二子 「え?ええ・・・」
織部  「それでここまで百合子さんを助けに・・・え?」
不二子 「あなたは?」
織部  「織部オサムと申します。なんか色々あって百合子さんと知り合い
     まして」
不二子 「変なことしてないでしょうね」
織部  「し、しませんよ。こんな若い娘になんで僕が・・・」
百合子 「するはずないでしょ。考えればわかるでしょ」
織部  「完全否定・・・」
不二子 「米兵・・・何でここにアメリカ兵がいるんです?」
百合子 「私たちで匿ってるの」
不二子 「まさかこの米兵と一緒に行動してたんですか?」
百合子 「だって殺されちゃうかもしれないんでしょ?」
不二子 「危険過ぎます。今すぐ別行動をしてください」
百合子 「そんな・・・」
不二子 「Get out!」
ピーター「What’s?」
不二子 「You are too dangerous to be with,You know」
ピーター「Oh!Please!」
不二子 「No! Don’t touch me!」
織部  「ちょっとちょっと!いきなり英語?何も知らないで勝手なこと言
     わないで!」
不二子 「勝手なこと?あなただって分かりますよね。ここに米兵がいるこ
     とがどんなに危険な状態なのか」
織部  「いやそうなんですけどね」
不二子 「さあ、百合子様。帰りましょう」
百合子 「いやだ!」
不二子 「お父様もお待ちかねですよ」
百合子 「え?パパが?ウソよ!」
不二子 「ウソではありません。お父様は総ての予定をキャンセルして百合
     子様のためにここルバムにいらしてます」
百合子 「ウソよ!パパがここに来るなんて絶対にウソ!私のことを心配す
     るなんて有り得ない」
不二子 「ウソではありません。さあ」
織部  「ピーターはどうするんですか」
不二子 「一緒に行動するわけには行きません」
織部  「ピーター、絶対に迎えに来てあげるからな。ちょっと辛抱してく
     ださい。じゃあ僕も荷物持って来ますんで」
不二子 「お父様には無事に百合子様を連れ戻すよう指示を受けただけで
     す。従って、他の皆さんを連れて行くのは憚られます」
織部  「え?一緒に連れてってくれないの?総理大臣秘書なのに?」
不二子 「ええ、足手まといになるだけなので」
織部  「ちょっと待ってよ。そりゃないんじゃない?」
百合子 「私からもお願いします。織部さんとピーターと一緒じゃなきゃ行
     かない」
織部  「そうですよ。あなたと一緒なら一番安全なんでしょ。お願いしま
     すよ。何ならピーターも連れて行ったって大丈夫なんじゃないで
     すか?」
不二子 「そう言われましても」
百合子 「織部さんは命の恩人なの」
不二子 「命の恩人?」
百合子 「織部さんは私の代わりに銃弾を受けたんです」
織部  「そうなんです」
不二子 「そうだったんですか。織部さんには感謝の言葉もありません」
織部  「じゃあ」
不二子 「しかし、私は百合子様を絶対に安全にお父様の元に届けねばなり
     ません。他の方と一緒に行動するのは難しいんです」
ピーター「そこを何とか」
織部  「何でピーターが言うんだよ。君は行けないんだよ」
百合子 「不二子さん、一生のお願い!」
不二子 「申し訳ありません」
百合子 「じゃあ私も行かないわ」
不二子 「お父様に叱られます。百合子さん!」
百合子 「不二子さん、私、中途半端な気持ちで国際協力隊に入ったんじゃ
     ないんです。世界に生きている一人ひとりが平和に暮らせるため
     に何ができるか考えたくてそれで入隊したんです」
不二子 「答えは出たんですか?」
百合子 「(首を振り)でも、ひとつだけ分かったことは、戦争はいつも貧
     しい人が一番の犠牲者だということです。織部さんもピーター
     も、ここの子どもたちも戦争の犠牲者なんです」
不二子 「百合子様・・・」
百合子 「私、この人たちを置いて、絶対に行きません」
不二子 「百合子様!」
百合子 「行きません!」
織部  「・・・もう、わかりましたよ」
百合子 「え?」
織部  「お父さんが待ってるんでしょう。しかも命を賭してこんなとこま
     で。百合子ちゃん、今の君の仕事は親を泣かさないことだよ」
百合子 「うちの親は私が死んだって泣きません」
織部  「じゃあ何で百合子ちゃんのお父さんはこんなところまで来た
     の?」
百合子 「それは・・・」
織部  「心配してるんだよ」
百合子 「・・・」
織部  「僕はピーターを無事に送り届けなくちゃいけないし、明神くんの
     ことを探さなくちゃいけなし・・・」
ピーター「そんなこと言ってないで、僕らも連れて行ってもらいましょう
     よ」
織部  「ピーターを連れて行けるわけないでしょ。僕が諦めたんだからあ
     んたも諦めなさいよ」
ピーター「お願いします。生きて帰りたいんです」
織部  「あなた軍人でしょ。僕セールスマン!」
ピーター「チックショー」
不二子 「すいませんピーターさん。私たちが戻るのはフセイン閣下の邸宅
     なんです。あなたと一緒に戻ってもあなたを助けることにはなり
     ません」
ピーター「チックショー」
不二子 「では、百合子様がお世話になりました」
百合子 「織部さん、日本で必ず会いましょう」
織部  「はい」
百合子 「ピーターも必ず生きてください」
ピーター「はい」
百合子 「またね、みんな」
孤児たち「(それぞれ泣きながら挨拶する)」
不二子 「はい。じゃ百合子様、行きましょう」
百合子 「(頷く)」
織部  「あの、不二子さん」
不二子 「はい?」
織部  「ひとつだけ教えて欲しいんですけど」
不二子 「なんでしょう」
織部  「僕らは一体どうすればいいんでしょう?」

    爆撃が始まる。

ピーター「ミサイルです。逃げて!」

    みんな逃げる。
    孤児たちが逃げた方向が危険な方向なので

ピーター「そっちはダメ!危ない!」
    
    孤児たち爆撃に直撃し死ぬ。百合子、不二子、織部、近づく。
    ピーター、爆撃機を見上げている。

百合子 「みんな・・・」
ピーター「USAのミサイル攻撃・・・子どもたちが死んだ。何の罪もない
     子どもたちが」
織部  「早く行って!ここも危ない」
不二子 「はい、行きましょう百合子様」
百合子 「・・・いや」
織部  「行け!行くんだ!」
百合子 「いや、いや、いやだ、いやだー」
不二子 「行きましょう!」
ピーター「私の国の爆弾!アメリカは何をやってるんだ!」
織部  「行け!行くんだ!君は必ずお父さんに会うんだ!」
ピーター「アメリカのバカヤロー!FUCK YOU AMERICA! FUCK!」
百合子 「いやだいやだいやだいやだいやだー」
織部  「ピーター!僕たちも行きますよ!」

    更にミサイル爆撃が続く。
    引きずられるように捌ける百合子と不二子。
    孤児たちの前で佇む織部とピーター。
    長い暗転。

7へ続く

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