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「ズルい奴ほどよく吠える」13

■13 福沢学園小学校・屋上(夜)
 
政春が落ちた場所にバラが供えられている。
織部、祈る。
 
織部  「・・・」
 
カンカンカンと音がして、木田が来る。
 
織部  「・・・」
木田  「無念だったでしょうね」
織部  「僕が悪いんです。マーくんを守ってあげられなかった」
木田  「いえ、校長先生が弟さんの精神状態をちゃんと見てあげていれば
     こんなことにはならなかったんです。校長は厳しく指導をしたこ
     とが弟さんを追い詰める結果になってしまったことを相当悔いて
     らっしゃいました」
織部  「木田さん、本当にマーくんは自分から飛び降りたんですか?」
木田  「ええ、残念ながら」
織部  「僕にはマーくんが自殺するとは思えないんです」
木田  「信じたくない気持ちはわかります」
織部  「マーくんは誰かに殺された」
木田  「え?」
織部  「あんたたちがマーくんを殺したんじゃないですか?」
木田  「そんなわけないでしょう」
織部  「でも、全ては大手建設の思惑通りに進んでる」
木田  「・・・」
織部  「オリンピックってそんなに大切ですか?」
木田  「はい?」
織部  「うちの工場が立ち退いていれば、マーくんは生きていたんです
     か?」
木田  「それは関係ないと思いますよ。政春さんは自殺だと警察も発表し
     ていたじゃないですか」
織部  「上からの圧力でそうなったと聞いてます」
木田  「それはデマでしょう」
織部  「そんなデマを流して得になる人がいるんですか?でも自殺だと警
     察の処理をサッサと済ませれば得になる人がいますよね」
木田  「いますかね?」
織部  「週刊文春に出るはずの記事もあなた方なら潰せる」
木田  「話を戻しましょう。今日は契約に来たんです」
織部  「ええ、僕の中で納得がいけば契約でも何でもします」
木田  「何が気に入らないんですか?」
織部  「お金です」
木田  「はい?」
織部  「僕もお金が欲しいんです」
木田  「お金ですか」
織部  「世の中にはお金では買えないものがあるって僕は信じてました。
     でもお金で買えないものなんてない」
木田  「そんなことないんじゃないですか?」
織部  「木田さん、あなたと話をしていて気付いたんです。この世はお金
     が全てを支配している」
木田  「・・・」
織部  「僕はそれでいいと思ってます。それが真実なんだから。いや、真
     実さえもお金で買えますよね」
木田  「・・・」
織部  「そんな世の中で僕らがジタバタしたって仕方ないじゃないです
     か。だったらお金で解決しましょうよ」
木田  「いいでしょう」
織部  「書類を見せてください」
 
木田、書類を渡す。
 
織部  「金額が安すぎませんか?」
木田  「何を仰ってるんですか。相場の3倍ですよ」
織部  「オリンピック開催のためにどうしても欲しい場所なんですよね。
     僕たちがどんな想いであの場所を売るのか考えてみてください
     よ。桁が違います」
木田  「桁?バカなことを言わないでください」
織部  「僕はいたって真面目ですけど」
木田  「これ以上の金額は上司と相談しないと」
織部  「そうですか。あなたに決定権がないのなら、決定権のある方を呼
     んでください」
木田  「・・・」
織部  「ほら、電話を。僕はお金で解決しましょうって言ってるんです」
木田  「・・・」
織部  「さあ!」
 
大熊と石原、吉岡が来る。
 
石原  「木田さん」
木田  「社長!」
大熊  「ここからは私が話そう」
木田  「社長」
大熊  「大手建設という会社を経営しております。大熊と申します」
織部  「あんたが社長さんか」
大熊  「はい」
織部  「あんたら二人、見たことあるな」
石原  「当学園の校長、石原です」
吉岡  「吉岡です」
織部  「ああ、ニュースで見たんだ・・・社長さん何でこんなところに」
石原  「大熊さんはたまたま寄付金のお話があったので本校にいらっしゃ
     ったんです」
織部  「たまたまってタイミング良すぎだろう。みんなグルってわけだ」
大熊  「話が早いですね」
織部  「大手建設さん、幾らくれるんですか」
大熊  「え?」
石原  「あなた失礼でしょう」
織部  「立ち退き料、幾らくれるんですか」
石原  「ちょっとあなた!」
大熊  「幾ら欲しいんです?」
織部  「5億円です」
木田  「5億?」
織部  「それと政春を亡くした見舞金で5億、合わせて10億円です」
木田  「ふざけたことを」
大熊  「・・・」
織部  「それで手を打ちましょう」
大熊  「面白い人ですね」
織部  「あんたたちは金で買えないものはないと思ってる。違います
     か?」
大熊  「・・・」
織部  「・・・」
大熊  「織部さん分かってるじゃないですか。仰る通り金で買えないもの
     なんて存在しません。警察だって、政治だって、マスコミだっ
     て、人の命だってすべて金が解決してくれる」
織部  「世の中お金ってことですか」
大熊  「オリンピックで幾らお金が動くか知っていますか?」
織部  「幾らですか?」
大熊  「30兆円です」
織部  「30兆円」
大熊  「実際はもっと増えるかもしれませんが・・・。そのうち28兆円
     はインフラ関連費、つまり我々は28兆円を都知事から任されて
     いるんです。都知事が命運をかけて進めているミッションに協力
     しないわけにはいきません。彼女を知事にしたのも我々なんです
     から」
織部  「そうなんですか」
大熊  「ええ、彼女の選挙資金は我々が工面したんです。彼女にはもっと
     働いていただかないと」
織部  「なるほど」
大熊  「織部さん、これは国策なんです。オリンピックのためにあなたの
     工場を売っていただくことが、みんなの幸せに繋がるんです。わ
     かっていただけますね」
織部  「そのためには何でもやると」
大熊  「当然じゃないですか」
織部  「だったら俺に10億くらいくださいよ」
大熊  「織部さん、あの工場と彼に10億の価値はないですよ。2億でど
     うですか?」
織部  「工場とマーくんで2億ですか・・・」
大熊  「充分すぎるお値段だと思いますが」
織部  「社長、でもやっぱり金で買えないものはありますよ」
大熊  「ほう、金で買えないもの、そんなものがあれば教えてください」
織部  「それはね大熊さん・・・あんたの命だよ」
 
織部、拳銃を出す。
 
石原  「ひっ」
木田  「!」
大熊  「そんな玩具でどうしようっていうんです」
織部  「試してみますか?」
大熊  「また」
織部  「世の中金で買えないものはない」
大熊  「・・・」
織部  「中卒なめんなよ」
 
織部、構えなおす。
 
大熊  「やめろ、やめなさい」
木田  「銃を下ろせ!」
織部  「幾ら出す?あんたの命は幾らだ!」
大熊  「分かった。10億出す」
織部  「それは俺が元々もらう金額だろ?あんたの命は幾らだって聞いて
     るんだよ」
大熊  「・・・」
 
織部、ジリジリと大熊を屋上のヘリに追い詰める。
 
織部  「大熊さん、あんたが殺したんだ」
大熊  「違う」
織部  「マーくんを追い詰めて笑って見てた」
大熊  「私は何もしてない。私は指示をしただけだ」
織部  「誰に」
大熊  「木田だ」
織部  「何を」
大熊  「工場の登記簿を偽造しろと、そう言っただけだ」
木田  「社長!」
織部  「あんたが登記簿を偽造してマーくんの印鑑を押させた」
大熊  「そうだ、それだけだ」
織部  「指示をしたのはお前だな」
大熊  「そうだ。でも殺せだなんて一言も言っていない」
織部  「誰がやった」
大熊  「木田だ。こいつがやったんだ」
織部  「やっぱりお前か」
木田  「違う」
織部  「お前が殺したのか」
木田  「違う、本当に違うんだ」
織部  「何が違うんだ?」
木田  「あれは事故だ」
織部  「事故?ふざけんな」
木田  「あいつは勝手に落ちたんだ」
織部  「マーくんは子どもたちにちゃんとした大人になって欲しいって言
     ってた。正しいことは正しい、悪いことは悪いって胸を張ってい
     えるようになって欲しいって・・・そんな子どもを育てたい。だ
     から僕は先生になるんだって・・・お前らはそんなマーくんの夢
     を奪ったんだ」
木田  「本当だ。信じてくれ」
織部  「マーくんが何をしたんだ。あの工場で生まれたからか?この学校
     の先生になったからか?オリンピックか?マーくんは真っ当に生
     きてただけだ。金か・・・金なのか・・・マーくんの命は金で買
     えるのか?俺は金なんかいらない。マーくんを返せ」
木田  「やめてくれ」
織部  「マーくんを返せ・・・マーくんを返せ。返せ!!!!」
 
木田、失禁する。
カンカンカンカン。
雪、明日香、西川、城田、岩倉が来る。
 
明日香 「お義兄さん!」
岩倉  「何をやってるんですか!」
織部  「刑事さん、丁度いいところにきてくれた」
岩倉  「やめなさい!」
織部  「明日香ちゃん、こいつだ。こいつがマーくんを」
木田  「違う!」
織部  「お前がマーくんを殺したんだ」
明日香 「お義兄さん違います!」
織部  「え?」
明日香 「全部聞いたんです。あの夜のこと。あの夜に起きた全てを」
 
フラッシュバック
 
屋上に政春が走りこんでくる。
石原と吉岡が追ってくる。
ヘリまで追い詰められる政春。

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2,428字
まずは騙されたと思って読んでださい。

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