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「イヌジニ」6

《6場》動物愛護センター・殺処分場

ドリームボックスの扉の中にチーズがいる。

安西  「ほーら面白いぞーピラピラピラー!(猫じゃらしを使う)ダメだ。全然食いついてくれない」
チーズ 「・・・」
安西  「いい子だからとりあえず出てきてくれないかなー。チーズちゃーん」
チーズ 「・・・」
安西  「俺の言ってることは分かるんだよね。返事くらいしてくれないかなー。ちょっとだけでいいんだよ。掃除ができなくて困ってるんだ」
チーズ 「今日は殺処分の日ですよね」
安西  「え?なんだって?」
チーズ 「さっさとボタンを押してください」
安西  「・・・ダメだ。何を言ってるか全然分からない」
パラダ 「使えねえおっさんだな。代われ」
安西  「どうしたパラダイス」
パラダ 「だから代われって!」
安西  「何?代わりに説得してくれるのか?」
パラダ 「そう!分かってんじゃねーか」

パラダイスと交代する。

パラダ 「オバサン。死んだってしょうがねえじゃねーか。よく言うだろ?死んで花実が咲くものかって」
チーズ 「あんたは面白いね」
パラダ 「面白い?そう。俺面白いんだよ。だから」
チーズ 「帰りなさい」
パラダ 「帰れって・・・よしこうなったら(箱に潜り込んでいく)」

チーズが中でシャッとやるので

パラダ 「痛ってー!ダメだ」
ハム吉 「それ以前に飼い犬が何を言っても説得力に欠けるよな」
グリコ 「言葉だけが上滑りしちゃってるのよね」
パラダ 「そんな風に言うなよ。俺だってオバサンを助けたいんだよ」
ハム吉 「代われ」
パラダ 「中に入るとシャッってやられるぞ」

パラダイス、ガックリと下がる。

グリコ 「ちょっと、ハム吉はペットの気持ちは分からないでしょ!」
安西  「パラダイス、お前もか・・・」
ハム吉 「オバサンよお、サバイバル生活も悪くないぜ」
チーズ 「サバイバル生活?私ができると思いますか?」
ハム吉 「・・・ちょっと無理かな」
グリコ 「ほら代わって」
ハム吉 「はい」
グリコ 「ココア、お願い」
ココア 「私?」
グリコ 「私、こういうの口下手だから」
ココア 「・・・」
オリビア「いいんじゃねえか、ほっとけば」
グリコ 「え?」
ハム吉 「目の前で死のうとしてる奴をほっとけねえだろ」
オリビア「だって死にたいんだろ?なあチーズさん」
チーズ 「そうよ。誰でもいいから早くボタンを押して頂戴!」
オリビア「あんたも人間に愛想が尽きたんだろ。人間を信じたことが間違いだったんだ」
チーズ 「私は犬とは違うわ。人間を信じたことなんてない」
グリコ 「猫は人間を信じないの?」
チーズ 「他の猫たちは知らないけど私は信じない」
オリビア「あんたは自分のあるべき姿を探してたんだろ?」
チーズ 「・・・」
オリビア「死ねばいい。それが自分の幸せだと思うならな」
チーズ 「死ぬわ。あなたならそこのボタンを押せるでしょ。私が死んでもあの子は私のことなんて何とも思わないんだから」
オリビア「だから死ぬのか。自分の幸せのためじゃなく飼い主のために死ぬのはどうかと思うがな」
チーズ 「別にあの子のために死ぬわけじゃない」
オリビア「あんたは自分の死で飼い主が変わって欲しい、そう思ってるじゃねえか」
チーズ 「そんなことないわ」
オリビア「俺は死ぬときぐらいは自分のためだけに死にてえけどな。人間を思いながら死ぬなんて真っ平だ」
チーズ 「・・・」
ココア 「チーズさん。私は、私がいることで皆が幸せな気持ちになってると思ってた。でもそうじゃなかったの。ホントはね、誰も私を必要となんてしてなかったんだ。私には存在価値がないって思い知ったわ」
ハム吉 「え?ココアどういうことだ?」
ココア 「ごめんね。私、アイドルなんかじゃないの。踊り子さんたちは私になんか頼ってはくれなかった。誰も私のことなんて見てくれてなかったの。だから踊り子さんたちがここに迎えに来てくれるなんてことはないの」
ハム吉 「ウソだったのか」
グリコ 「でもチーズさん、もしあなたが本当に死にたいなら」
ハム吉 「おい!」
グリコ 「本当に死にたいなら、先週そこで死んだリュウにその命を代わりにあげてよ」
チーズ 「なんです?」
グリコ 「ポンタ、ベビスケ、ミスターとあなたの命を代わってあげて。みんな生きていたかったんだよ。生きていたくて生きていたくて、それでも死んじゃったんだよ」
オリビア「・・・」
グリコ 「安西に殺されたんだ」

犬たちが安西を見る。

安西  「え?俺が話題になってるってこと?なんだ?なんでも聞くぞ」
オリビア「この犬殺しは今日はボタンを押さないかもしれない。でも明日になれば分からねえ。人間ってのはそういうもんだ。なあチーズさんよ。人間ってのは本当に信用できない生き物だよ」
安西  「そうだぞ。オリビアの言うとおりだ」
オリビア「こいつだって別に犬や猫を殺したくて殺してきたわけじゃない。でも殺しちゃうんだ。信念もへったくれもねえ。仕事だと言われればなんでもする。人間同士でも戦争になりゃバンバン殺しあう。俺たちはそんな人間を素直に信じるから結果バカを見ることになる」
安西  「うん。ありがとうな」
オリビア「あんたの飼い主だって同じだよ。あんたはそんな奴のために死ぬって言ってるんだ」
チーズ 「あの子のためじゃないって言ってるでしょ!」
オリビア「じゃあ何のためだ!」
チーズ 「・・・」
オリビア「あんたは一生に一度だけでいいから飼い主に愛されたかったんだ。その願いが叶ってないならまだ死ねないんじゃないのか」
チーズ 「勝手なこと言わないで」
パラダ 「あ!このニオイ」
ハム吉 「定食屋のおばちゃんのニオイだ」
雪印  「やっぱり帰ります」
サクラ 「真奈美さん!いいから来て下さい。チーズが待ってるんです!」
雪印  「今更私に何の関係があるんですか?」

雪印を連れてサクラが戻ってくる。

サクラ 「どうぞ」
ハム吉 「定食屋のおばちゃんじゃない!」
グリコ 「誰?」
パラダ 「チーズの飼い主だよ」
グリコ 「え?」
ハム吉 「今更何しに来やがったんだ」
サクラ 「真奈美さん、この箱、何だか分かりますか?」
雪印  「さあ、動物のベッドですか?」
サクラ 「違います。これは動物を殺処分するための箱です」
雪印  「へえ、これが」
サクラ 「この緑のボタンを押すと高濃度の炭酸ガスが出て動物を窒息死させるんです」
雪印  「窒息死・・・」
サクラ 「この中で沢山の犬や猫が死んでいきました。あなたの言葉で言えば処分されてきたんです」
雪印  「そうですね」
サクラ 「チーズもここで死ぬことになります」
雪印  「分かってますよ」
サクラ 「今、この中にチーズが入っています」
雪印  「え?」
サクラ 「チーズを助けてあげてください。今なら間に合います」
雪印  「もし助けたとしても、その後どうするんですか。安西さん、面倒を見てくれるんですか」
サクラ 「あなたが飼うんです」
雪印  「それは無理です。母も許してくれませんし」
サクラ 「何かと言えば母が、母がって、チーズを飼い始めたのは誰なんですか?」
雪印  「私です。ちゃんと育てるなら飼っていいって言われて」
サクラ 「何で最後まで育てないんです?可愛そうだとは思わないんですか?」
雪印  「とにかく無理なんです。あなたにとやかく言われることじゃないでしょ!」
サクラ 「そうかも知れませんが」
雪印  「処分してください」
サクラ 「本当にそれでいいんですか」
雪印  「いいんです!」
パラダ 「サクラ、話にならねえよ」
グリコ 「あんたんとこで面倒見てあげなよ。それでいいじゃん」
サクラ 「ちっとも良くないわよ」
雪印  「大体、何でそんなに目くじら立てて他人の猫のことに口出しするんですか?」
サクラ 「私は命の尊さのことを言ってるんです」
雪印  「命?たかが猫一匹のことじゃないですか」
サクラ 「たかが猫一匹?」
ココア 「ひどい言い方ね」
パラダ 「なんなんだこいつは!」
雪印  「チーズはもう十五歳のお年寄りなんです。どのみちもうすぐ死ぬんだからどこで死のうが同じなんです。だったら金運を下げてまで飼う必要もない」
サクラ 「真奈美さん・・・あなた自分が何を言ってるか分かってますか」
チーズ 「サクラちゃん」
サクラ 「え?」
雪印  「・・・(チーズと目を合わせるが、すぐ離す)」
チーズ 「・・・もう充分です」
サクラ 「え?チーズ、どういうこと?」
雪印  「あなた、誰と喋ってるの?」
サクラ 「私、チーズと喋れるんです」
雪印  「何バカなこと言ってるんですか?そういうのやめて貰えますか?」
サクラ 「本当なんです。チーズはもういいって言ってます。もう充分だって」
安西  「おいおいおいおい・・・チーズ!」
雪印  「芝居はやめて下さい」
安西  「あきらめるな。チーズは雪印さんのこと好きなんだろ?」
雪印  「お父様まで。そういうのくだらないです」
安西  「チーズ!あきらめちゃだめだ!」
チーズ 「本当はね、私はこの子のことが大好きなの。何をしてもらったわけじゃないし、いい飼い主じゃないのかも知れないけど、それでも私はこの子じゃないと意味がないんです。私はこの子に愛されたかった。アクセサリーじゃなく、家族として。でもこの子にとって今の私はただのゴミでしかないんです。もういいんです。ゴミならゴミらしく終わりたいんです」
サクラ 「チーズ・・・」
オリビア「おい」
チーズ 「なんかサッパリしちゃったわ。この子に会って覚悟ができました。私を殺処分してください」
ココア 「チーズさん」
オリビア「お前、それでいいのか?」
チーズ 「ええ。私は今より幸せになりたいの。だから死ぬのよ」
ココア 「死んでもいいことなんてないわ」
サクラ 「ダメだよ」
安西  「なんだって?」
サクラ 「もういいって。愛されたかったけどもういいんだって」
安西  「そんな・・・」
雪印  「その変なお芝居はやめてください」
サクラ 「芝居じゃないんです!」

安西が殺処分ボタンのところへ行き。

安西  「真奈美さん」
雪印  「なんですか?」
安西  「あなたがこのボタンを押してください」
雪印  「はい?」
安西  「あなた自身でチーズを殺してください、と言ってるんです」
雪印  「ふざけないでください?そんなことどうして私が」
安西  「僕は大真面目です!あなたがチーズをいらないって言うなら、せめて自分でこのボタンを押してチーズを殺してください」
雪印  「・・・」
チーズ 「・・・」
パラダ 「おいおいおいおい何言ってんだよオッサン」
グリコ 「安西バカじゃないの!」
マリー 「大丈夫。自分が飼ってたネコを殺せるはずないわ」
ハム吉 「ボタンを押したら咬み殺してやる」
雪印  「・・・」
サクラ 「・・・」
安西  「どうしますか?」
雪印  「分かりました」

ボタンの前に行き勢いでボタンを押そうと・・・。

犬たち 「あっ!」
雪印  「えいっ!えいっ!えいっ!」

雪印、力任せにボタンを押そうとするが押すことができない。
やがて崩れ落ちる雪印。間。

サクラ 「真奈美さん・・・」
雪印  「・・・・・・チーズは私が学校で嫌なことがあったときも、悔しくて泣いたときもずっと私の話を聞いてくれて、チーズがいたから頑張ろうって思えたんです。仕事を始めてからはチーズと一緒にいる時間がなくなって・・・いつの間にかチーズは私にとって空気みたいになってしまった・・・一番つらい時、チーズは私の傍にいてくれたのに」
チーズ 「にゃあん」
雪印  「(扉を開ける」」

チーズが顔を出す。

雪印  「チーズ!」
チーズ 「(雪印を無表情でじっとみている)」
雪印  「チーズごめんね!私、あなたがどんなに大切な存在だったか忘れてた。本当にごめんなさい。約束する、ママが何て言ったってこれから死ぬまでずっと一緒だよ」
安西  「本当ですか?」
雪印  「本当です。母が金運が悪くなるって言うんなら私は母と縁を切ります。だからおいでチーズ。一緒に帰ろう(両手を広げる)」
チーズ 「・・・(じっと無表情で雪印を見ている)」
ハム吉 「どうすんだよ。許すつもりか?」
マリー 「しっ!黙って」
グリコ 「私だったらおしっこしちゃうかも」
ハム吉 「うれションとか引くわ」
パラダ 「許してやれよ。お前の気持ちが通じたんじゃねえか」
サクラ 「チーズ!」
オリビア「信じる信じないじゃない。あんたがどうしたいか、それだけだ」
チーズ 「にゃあん」
サクラ 「にゃあん?」
チーズ 「私は雪印チーズ、それ以外生きる道はありません」

チーズ、雪印の手を素通りして出入り口へ。

チーズ 「お世話になりました。ホラ行くわよ(と雪印に両手を広げる)」

抱きしめあう二人。

雪印  「チーズ、チーズは私の宝物よ」
パラダ 「何だよお、幸せになればいいじゃねえかよおおおお(泣く)」
ハム吉 「(一緒に泣いてる)」
雪印  「安西さん!」
安西  「はい!」
雪印  「(最敬礼)ありがとうございました」
安西  「あ、こちらこそありがとうございます」
サクラ 「チーズを大切にしてくださいね」
チーズ 「こちらこそ。皆さんが幸せになるように心から祈ってるわ」
犬たち 「(元気でな!等別れの言葉)」
チーズ 「さ、真奈美行くわよ」

去っていく雪印とチーズ。

パラダ 「あーあ。よかった」
ココア 「私にも白馬の王子さまが迎えに来てくれないかしら」
グリコ 「足長おじさんでもいい」
マリー 「もう誰でもいい。迎えに来て!」
オリビア「お前らは迎えに来てもらえないと死に直結だからな。事は深刻だ」
パラダ 「お前ら?」
ハム吉 「安西は俺たちを殺さないって言ってたけどな」
グリコ 「言ってた!」
安西  「サクラ・・・何か犬たちが俺を注目しているように感じるんだけど」
サクラ 「お父さん言ってたでしょ。『これ以上命を粗末にできない』って」
安西  「ああ・・・ああ、言った」
サクラ 「みんな期待してるんだよ。お父さんに」
安西  「ああ・・・なるほど。そういうことなのね・・・なるほど」
サクラ 「お父さん?」
オリビア「正義感で思わず出ちゃった台詞だったようだな」
サクラ 「お父さん、みんなを助けられるよね?」
安西  「え?ああ、まあ頑張るけどねえ・・・」
パラダ 「おいおい頼むぜ。俺の飼い主さんなんだからさあ。男に二言はないだろ」
サクラ 「男に二言は?」
安西  「ありません・・・でもサクラ、俺これでも保健所の職員なんだよ」
サクラ 「だから?」
安西  「俺が殺処分をしないと職員としての公務怠慢になっちゃうんだよ。最悪クビになっちゃうかも・・・良くないよねえ?」
サクラ 「それでここのみんなは見殺しにするんだ」
安西  「いや、そうは言ってないじゃないか」
オリビア「はははははは!傑作だ。人間の言うことなんてあっという間に変わる。信じたら絶対にバカを見る。さっきまで猫一匹助けるためにあれだけ頑張ってた奴がこうだ。お前らも目が覚めただろう?これが人間だよ。これがお前らが信じたくて信じたくてたまらない人間って生き物なんだよ!」
サクラ 「そんな」
オリビア「サクラ、お前も同じだ。今は俺たちの声が聞こえるから味方みたいな顔をしてるけどな。お前だって変わる!今はあいつらを守るって言ってもな、声が聞こえなくなったらその言葉ごと忘れるんだ」
サクラ 「私は・・・」
オリビア「そういうのをな偽善っていうんだ。人間は偽善の塊だよ」
サクラ 「そんなことない。お父さんが出来なくても私があなたたちを守ってみせる」
安西  「サクラ・・・」
オリビア「お前のその言葉もあっという間に消えてくんだ。勝手に飼って、勝手に離婚して、勝手に一人になって」
サクラ 「オリビア・・・」
安西  「サクラ、オリビアがすごく怒ってる気がするんだけど」
サクラ 「怒ってるというより、悲しんでるみたい」

アナウンスが流れる。

アナウンス「保護管理課の安西さん、所長室へおいでください」
安西  「やばい。所長からの呼び出しだ。サクラごめん」
サクラ 「もう、こんなときに」
安西  「ごめんな。オリビアごめんな」

安西が申し訳なさそうに出て行く。

ココア 「オリビア、あなたの過去に何があったの?」
オリビア「別に話すようなことはない。お前らは何故人間を信じたがる?裏切られて裏切られてここに来たんだろう」
マリー 「私は生まれて半年で繁殖犬にされて、私は自分の子どもを一度も見せてもらえないまま子どもを産めない身体にされた」
オリビア「恨んでるだろ、繁殖屋を」
マリー 「恨んでもおかしくないことをされたのは分かってる。でも一緒に遊んでくれたこと、撫でてくれた手の温もりが忘れられない」
オリビア「そんなんだから人間に好きなようにされるんだ」
マリー 「分かってる。分かってるけどしょうがないじゃない!」
ハム吉 「俺も散々人間にはひどいことされてきたよ。でも、腹ペコで死にそうだった俺にから揚げをくれた人間もいてさ、どうしてもいい思い出ばっかり残るんだよ。人間を恨む気にはなれない」
グリコ 「私も。捨てられたのはショックだったけど恨む気にはなれないな。優しくしてくれたことばっかり夢に見ちゃう」
オリビア「お前らはとことんバカだな・・・俺は人間なんて絶対に信用しない。二度と尻尾は振らないと決めたんだ」
ココア 「もしかしてその足・・・人間に折られたの?」
オリビア「・・・」
サクラ 「みんなごめんなさい。謝らせて!きっと私も他の人間たちと同じ、犬の気持ちなんて考えないで行動してたと思う」
パラダ 「サクラは俺には良くしてくれてるよ。メシもちゃんと作ってくれる」
サクラ 「パラダイス」
オリビア「あんたが羨ましいよ」
安西  「いやあごめんごめん」

そこに戻ってくる安西。
連れてこられたのはシコウとピカソで、すっかりしょんぼり。

サクラ 「あ、あんたたちは!」
安西  「えーと、会ったことあるよね?」
ハム吉 「あ、トンチンカンのクソ生意気な犬ども!」
グリコ 「え?あのときの!」
安西  「シコウとピカソだそうだ」
オリビア「(一瞥して)」
シコウ 「よろしくお願いします」
ピカソ 「先日は本当に申し訳ありませんでした」
安西  「実はこの子たちの飼い主だった『ハッピードッグ松坂』が脱税をしてたらしくてついさっき逮捕状が出されたらしい。それなのに当の本人は犬たちを残してそのまま消息を絶ったようなんだ。不憫だろ?」
ココア 「不憫ねえ、尻尾がこんなに丸まっちゃって」
シコウ 「すいません」
ココア 「私の性別は?」
シコウ 「お、女です!」
ココア 「バカねえ。私はボーイよ。ま、どうでもいいけどねー」
シコウ 「ボ、ボーイ」
ピカソ 「ニューハーフですよね?」
ハム吉 「いいんだよそういうのは。こいつはココアだ。それだけでいい」
サクラ 「反省してる?」
シコウ 「はい。反省してます。申し訳ありませんでした」
ピカソ 「申し訳ありませんでした」
安西  「色々あるだろうけど、みんなで仲良くやってくれよな」
サクラ 「大丈夫。何かあったら私からちゃんと言っておくから」
安西  「うん、頼む。それと・・・もうひとつ。とても言いにくいことがあるんですが」
サクラ 「言いにくいこと?」
ハム吉 「なんだ?早く言え」
安西  「えー。明日までに皆さんを処分するようにと、所長からお達しがありました」
皆さん 「しょ、処分?」
ハム吉 「処分って処分するってことかよ」
グリコ 「あ、明日までに?」
マリー 「そんな・・・」
サクラ 「なんで?」
安西  「明後日、センターの大掃除をするらしいんだ。そのときにこの部屋も待機室も空っぽにしなくちゃならないんだ」
オリビア「それで?」
サクラ 「それで?」
安西  「それでって?」
オリビア「どうするつもりだ?」
サクラ 「どうするつもり?」
安西  「面目ない!この通り!俺がダメなばっかりに・・・すまんみんな。ごめんなさい!この通りです!」
オリビア「こいつらなんとかしてやれよ」
サクラ 「なんとかしなよ!」
安西  「そういわれましても」
パラダ 「おっさん、そりゃないぜ」
ハム吉 「いくらなんでもいきなり死ねだなんて」
マリー 「そんなの嫌、そんなの嫌!」
グリコ 「ひどいよ安西、いきなりすぎる!」
安西  「本当に申し訳ない。このとおり」
サクラ 「謝ったからって許してもらえないよ」
安西  「そんな・・・じゃあどうすればいいんだ!」
パラダ 「そうだ!」
サクラ 「なに?」
パラダ 「お前らまとめてうちに来ればいいじゃん」
サクラ 「はあ?」
パラダ 「処分ったって殺処分だけじゃねえ。全員で安西家に里子に入るんだよ」
ココア 「それは名案だわ!」
サクラ 「いや、ムリムリムリムリ!無理だから!」
グリコ 「また『カリカリッチ』食べさせてもらえる?」
パラダ 「当たり前だろ!じゃあ決まりな!」
マリー 「ありがとうサクラ!」
グリコ 「やったー」
サクラ 「全然聞いてないし・・・」
パラダ 「名目だけだよ。とりあえずサクラん家でもらってやれよ」
サクラ 「あんたねえ・・・」
シコウ 「あの、俺たちもいいっすか?」
犬たち 「え?」
シコウ 「あ・・・・・・」
オリビア「当たり前だろう。いいに決まってる」
ハム吉 「そうだよ、いいに決まってるじゃんか!」
ココア 「大歓迎よ!」
グリコ 「そりゃあ、そうだよねー」
パラダ 「おおう、みんなでこんなとこオサラバだぜ!」
安西  「みんな、なんでそんなに盛り上がってるのかな?」
サクラ 「知らない」

暗転。


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不要な命を処分することは動物愛護法で認められています。その対象のひとつに「家庭動物」の文字が。ペットが不要になったら殺してもいい。本当にそうなのだろうか。これから超高齢化社会に突き進んでいく日本にとって「不要な命」とはなんだろう。

舞台台本です。最重要部分以外は無料で読めます。 保護犬・保護猫の制度が浸透していなかった2015年初演。後に「雀組ホエールズ」の代表作の…

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