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『犬がいなくなってから』
・犬がいなくなったら、働こうと決めていた。
心身のバランスを崩して途方に暮れていた頃、愛犬の老いが目立つようになった。
もう、いつどうなるかわからない時期に入ったことを理解したら、僕は離れるのが寂しくなってしまって、一度全てを休んで、犬と過ごすことにした。
その生活をしているうちに、心に決めたことが一つだけあった。
お別れをしたら、外に出て働くこと。
犬はしあわせになるために我が家に来てくれた。
だから、お別れは寂しいけれど、いつまでも落ち込んでいたら、きっと良くないと思って、
「もう大丈夫、ありがとう」と言えるように心と身体の準備をしておこうと決めた。
・犬がいなくなってから、僕は2つ面接を受けて、1つが受かって仕事を再開した。
その仕事は色々な意味でとても難しくて、入社して一ヶ月ほどで、「次の契約更新はしたくないです」と直属の上司ではなくて一番上の上司に伝えた。
その仕事を最初の雇用期間ですっぱり辞めて、今の職場に拾ってもらって、2年以上が経つ。
働いていると言っても、稼働率はとても低い。
多分、高校生のバイトの方がよっぽど働いている。
でも今の僕には、まだこれが限界で、これ以上にしてまたパンクしてしまうのが怖い。
・犬がいなくなってから、僕はちまちまと働いたお金でカメラを買った。
(犬と生活をしているうちにカメラを持っていたら、どれだけ良かっただろうと今でも時々思う。)
写真という表現ツールを手に入れて、少しだけ、人と会う機会が増えるようになった。
写真を撮ってはいるけれど、カメラのことは今でもほとんどよくわかっていない。
・犬がいなくなってから、僕は少しだけ働いて、少しだけ写真を撮って、少しだけ人と会えるようになって、少しだけ楽しく生活ができるようになってきた。
きっと、介護をしていた2年間は、こうなれるための準備期間を犬が僕にくれたのだと思う。
・犬がいなくなってから。今、僕の家には、リビングにお骨と写真があるだけで、犬はいない。
(お骨いつまで置いとくんだよ。ずっと置いといてもいいかな。)
でもね、いつだって忘れていないし、忘れて過ごしている時間も、ずっと心の中にいて、支えになっている。
いつもありがとうございます。
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