見出し画像

海の生物多様性と「リン」の関係



SDGsには多くのビジネスチャンスが隠されている


現在、気候変動が国際社会の中で最も深刻な問題の1つと考えられております。COP28もあと11月末にはじまるため、各国でも様々な取り組みが行われていますが、まだまだ目標と比較するとその動きはゆっくりで、現状のままで進めば人類の生存をも脅かしかねない事態になっています。
そのためにゼロカーボンに向けて世界各地で様々な取り組みが行われていますが、「〜しなければ」と考えると苦しいですが、ビジネスチャンスが転がっていると考えることもできます。
「社会の課題=ニーズ」と「ビジネスの機会」は表裏一体であるため、SDGsには多くのビジネスチャンスが隠されていると言えます。noteでは、世界各地で起こっている出来事や課題、様々な企業の取り組みをご紹介したいと思っています。

リンの地球化学的循環について

今日のテーマは、海や湖の生物多様性にも影響を与えているリンの地球化学的循環についてです。リン・窒素循環はすでに地球の限界を超え不全状態にあり、世界中で水資源に悪影響を及ぼしています。

例えば、ニューヨークのような大都市でもリンが関わる問題に直面しています。多くの人が住むニューヨークで洗剤や肥料に含まれるリンが下水道を通じて排水され、下水処理施設では80〜90%の除去率と、完全には取り除けません。そのため、危険な量のリンが近くの水流に漏れ出しているのです。リンが 海に流れ込むと、表層にいる植物性プランクトンなどの活動が活発になり、大量発生した微生物によって海中の酸素が消費され、生物が生きていけない環境になってしまいます。日本近海でも、かって高度経済成長期に赤潮が発生し、魚が大量死しました。これも工場や農場から流出したリンが一因です。これが地球規模で起きると、生物の大量絶滅が起こるため、これは大都市ニューヨークばかりの問題ではありません。廃水からリンなど抽出し、再利用することが標準となる未来が必要です。

リンは、わたしたちが生きていく上で必要不可欠な物質で、身体を支える骨は、リンとカルシウムが結合したリン酸カルシウムでできています。細胞膜やDNAなどにもリン酸が含まれ、人間をはじめ動植物の活動のあらゆる面に関わっています。産業面でも重要な原材料の1つで、農業では肥料や飼料に使われ、工業でも電気自動車(EV)向け二次電池や半導体、太陽光パネルなどの製造にも欠かせません。
このように、リンは私たちの生活を支える重要な資源でもあるのですが、それが海に流れてしまうと海の生物多様性を奪う恐れのある物質の一つとなってしまうのです。

循環型ソリューション (例:Ragn-Sells社の技術)



スウェーデンを拠点とする環境サービス会社Ragn-Sells社の持続可能性担当ディレクター、パー・ラーシャンス(Pär Larshans)氏が今年の気候変動週間にニューヨークに降り立ったとき、彼が最初に目にしたニュースの一つは、フロリダ州の住民が海水浴できなくなるかもしれないというものでした。 なぜかというと、海洋の富栄養化により、サルガッソー海では史上最大の藻類が大量発生し、危険なシアノバクテリアがフロリダ海岸に蔓延する原因となっています。 これは、排水から海に流れてしまったリンの影響の 1 つです。 広い大西洋ですら、人が放出したリンをすべて吸収できるほどの大きさはないのです。

「Accelerated NYC’s Net Zero Journey at Climate Week NYC」では、パー・ラーシャンス氏が招待され、リンや窒素などの重要な資源を確保する際に都市が果たせる役割があること、都市の廃水からリンと窒素を回収することの重要性について講演されました。

都市が直面している問題は、増え続ける人口を養うために農産物を輸入しなければならないことであり、その結果、廃水中の過剰な栄養素が周辺水域に流出することになります。 これらの無駄な栄養素を生産するには大量の資源が必要であるとパー・ラーシャンス氏は説明しました。「今日、私たちは大気から窒素を摂取しています。また、窒素肥料とリンを生産するためだけに、世界のエネルギーの2%を使用する必要があります。」「 もちろん、リンはますます不足し、リンがなければ生命は存在しません。」 などとお話しされていました。

(西サハラのリン鉱石鉱山で未処理のリン鉱石を運ぶ車両。Youssef Boudlal / ロイター)

下水道から大量のリンを廃棄し、代わりに枯渇が進む鉱山からの新しいリンを農業に供給しています。 リン埋蔵量が多い場所はモロッコ(西サハラ)にありますが、これらの鉱山は高レベルのウランとカドミウムで汚染されており、採掘により地域社会が有害な鉱山廃棄物や人権侵害にさらされています。解決策は、都市を未来のリンなどの鉱山にすることです。
Ragn-Sells の技術を使用すると、肥料に必要な窒素とリンを廃水流から直接抽出できるため、海の富栄養化が軽減され、食品システムでも再利用できる循環栄養源が導入されます。 また、このプロセスで発生した残り物を使用して、セメントや赤色塗料などのより持続可能な建設資材を作ることもできるそうです。

2050 年までに 世界人口は100 億人になる予想。そのために都市が準備すべきこと

出典:国際連合 世界人口推計

現在の世界人口は約80億人ですが、2050 年には、地球上の人口は 100 億人に、そのうち 70 億人が都市に住むことが予想されています。 集中的に排水から窒素とリンの抽出し環境を守りながら、これらすべての人々に食料を供給する対策が必要でしょう。具体的には、排水から資源を回収できる新しい廃水処理施設が必要です。 これらのソリューションを拡大するには、あらゆる分野にわたってパートナーシップを構築し、世界各地の都市が参加してくれる必要があります。 その目標を達成するためにできたのが10 Billion Challange Initiative。これは、Ragn-Sells がニューヨーク市の気候週間期間中に立ち上げたものです。Ragn-Sells にはこれを実現させるためのテクノロジーがありますが、それを都市の排水システムに組み込んでいくには多くの人の協力が必要です。そして、この動きを世界に広げていくことができたら理想的ですよね。10 Billion Challange Initiativeは、企業や団体、自治体とパートナーシップを構築し、より持続可能な食料システムに向けた循環型ソリューションを推進する世界的なイニシアチブです。

Ragn-Sells は、廃棄物管理とリサイクルにおいて持続可能なソリューションを提供することで、社会的および環境的な影響を最小限に抑える役割を果たそうとしています。今は、スウェーデン、ノルウェー、デンマーク、フィンランドなどで事業を展開し、その他の国際的なプロジェクトにも参加しております。

日本でも環境サービス企業は成長しており、日本リサイクル、環境テクノス、日本リサイクルネットワーク株式会社、資源再生株式会社などが知られています。それらの企業や環境系ベンチャー企業が、Ragn-Sellsなどの技術を持った海外の企業とも連携し、持続可能な世界を実現する技術の進歩がより進むと良いなと思っています。

家庭からリンを流出させないために私たちができること


家庭からリンを流出させないためには、以下のような工夫ができそうです。

  1. 環境にやさしい洗剤の使用:

    • 洗濯や食器洗いには、リンを含まない環境にやさしい洗剤を選びましょう。(私は英国では、Ecover の洗剤を使っています)

  2. 家庭菜園用肥料の選択:

    • 有機栽培は、化学肥料を使わないので、リンと窒素の過剰投入を防いでくれます。有機栽培ではなく、庭園用肥料を選ぶ際には、リンフリーまたは低リンの肥料を選美、必要な分量だけを使用し、余分な肥料の散布を避けましょう。

  3. 家庭から出る洗剤容器や肥料のパッケージなどをリサイクルし、適切に処理しましょう。

私たちが、日々の暮らしの中で、これらの工夫を習慣化できれば、家庭からのリンの流出を最小限に抑え、環境への貢献にも繋がります。





この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?