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#76 焚き火のにおいと一期一会

人間の嗅覚はまだまだ研究が進んでいない領域だ。でもなんだか、においは記憶と強力に結びつく気がする。ハワイの仕事をしていた時は、ホノルル空港に降り立った時の何とも言えない甘いにおいが好きだった。ドイツ国鉄の駅は、どこも似た匂いがする。今日はそんな「におい」の話をしてみたい。
(写真はシュトゥットガルト市内の寿司屋で食べた昼食〜しめ鯖が美味しかった)


シュトゥットガルトの夜

先週の土日に、ドイツ南部のシュトゥットガルトを訪ねた。友人に会い、ユニクロで冬物衣料を買うためだった。土曜日は友人おすすめの中華料理屋で夕食を食べた後に近くのアイリッシュ・パブへ行った。土曜の夜ということもあり、パブにはサッカー中継を目当てに多くの客が集まっていた。しかし我々はサッカーよりも話がしたかったので、チェルシー vs. アーセナルというゴールデン・カードの試合中継には目もくれず、ひたすら話し込んだ。

ホテルへの道

「酔っ払ってもすぐに帰れるように」とそのパブを選んだ友人の自宅は、なんとパブの目の前だ。僕はホテルまで徒歩15分ほどの道のりを歩いて帰ることになった。「駅の地下道の周辺はドラッグをやっている人たちが集まるから、目を合わせないように」と注意されて別れた。バックパックをぎゅっと引き寄せて大股で歩く。ホテルが見えてきた。

*     *     *

すると、ホテルの手前から明かりがもれている。大きなテントが出ているので、サーカスのようだ。近づくと、サーカスはもう終わってしまったようだが、その横にステージがあり、生演奏の音楽が聞こえてくる。ビールやソーセージを出す屋台も出ている。友人と飲んでいる間は喉が痛くなるまで怒鳴りながら話したので(なにせ周囲は、チェルシー vs. アーセナルの応援で盛り上がっている)、寝る前に少し静かな時間を過ごしてもいいかなと思い、テントに引き寄せられていった。

音楽ステージにビールやソーセージの屋台も出ていた
サーカスは終わってしまっていた〜動物たちはどこへ行ったのだろう?

焚き火だ!

会場に足を踏み入れると、終わってしまったサーカスのテントや音楽ステージ、食べ物や飲み物の屋台の間に、焚き火が数箇所あった。日本でも最近一般的になってきたような、ディスク型の焚き火台を使って、5〜6人が輪になれる焚き火が数箇所に設けられている。人々は手にビールやソーセージを持って、焚き火の周りに座り、楽しそうに話している。僕も加わることにした。

やっぱり焚き火は最高!これまで焚き火を囲んだ場所を次々と思い出した

お腹はいっぱいだったので、スタンドでビール一本だけ買って、空いている焚き火の輪に入った。ローカルな場所なので、英語は全く聞こえてこない。残念ながらドイツ語はまだ分からないので、ゆっくり火を見つめていた。
 日本でキャンピングカーの旅を始めた頃から焚き火が大好きで、火を見ていると一時間くらいすぐに経ってしまう。隣の男性が薪をくべた。広葉樹のいい薪で、長持ちするし、いいにおいがする。久しぶりの焚き火のにおいが嬉しくて、一人でニヤニヤしてしまった。

一期一会

50代半ばと思われる隣の男性が声をかけてきた。ドイツ語は分からないと言うと、英語にしてくれた。「今日はどちらから?」「ダルムシュタットからです。友人に会いに」「ご職業は?」「ダルムシュタット工科大学で AI の研究をしています。友人もシュトゥットガルト大学で AI の研究をしています」「そうですか、隣にいる娘がちょうど Informatik(情報科学)専攻でシュトゥットガルト大学へ入ったばかりです」焚き火を囲みながら15分ほど話した。

*     *     *

結局、焚き火のそばで小一時間過ごした後、ホテルに戻った。ホテルでコートを脱いでハンガーにかけると、焚き火の匂いがした。日本にいる時は、「焚き火をする時の服はこれ」と決めて、匂いが他に移らないようにしていた。しかし、キャンプに出かけるのが難しくなった今、焚き火のにおいはとても懐かしく、貴重なものに思えた。今も、玄関にかけてあるコートは少し焚き火のにおいがする。でもそれはそれでいいかな、と思っている。

今日もお読みくださって、ありがとうございました🔥
(2023年10月25日)

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